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今まで言えなかった私の本当の願い事

殿下とマイナムは私に何かをさせたいようだが、その何かをするには察して行動が望ましいらしい。そこで王都騒乱のその後とかの情報を説明してくれているのだが、マイナムと殿下で、この子は察せられないしね、とかディスって来た。


なんか殿下とマイナムの間で互いの好感度が高まる代わりに、殿下の私への態度が軽くなってる気がする。罪悪感なんか忘れていいですよ、なんて殿下に言わなきゃ良かった。


「聞きますから、まず背景、どぞ」


「学園騒乱はアイリス・コーツを筆頭に国の重要な職務を担う娘達が中心になって引き起こされた。死者も出た結果もある。彼女達は全員修道院送りだ」


「刑が甘い」


「仕方がない。アイリス達によるアモン召喚など無かったことになったんだ。もし公表されればライナール・スピネルのことも公表することになる。そこで全隠しする代わりに、恐怖で混乱している国民に夢を与えることになった。今回のことで国民が感じた恐怖や怒りは、グラッファード・アシュトンが今まで飲まされた煮え湯の話を民へ周知した事で彼への同情に変換され、環境庁のお偉方打倒へと向かっている。近いうちに現在の環境庁のお偉方は更迭され、環境庁は再編成される。ついでに英雄は勲章を受け、王宮魔導士となる予定だ」


「良かった。アシュトンはもっといい思いするべき人だって思ってたから」


「それから教会が今回の死者に対する追悼式を大々的に行う予定だ。ついでに、聖女を二百年ぶりに認定して教会の威信を取り戻そうとしている。今回、教会の司祭達が全く役に立たなかったからね。その批判逸らしだ」


「ほおおお、って痛い。マイナム何をするの!!」


「察せない馬鹿が悪い。教会が上から目線で認定してきた聖女は君のことだよ?」


「信者じゃないし、迷惑。なんで?」


「街中で浄化魔法をバシバシ使ったでしょ。あと、セレスト・オブシディア王国騎士団長様を聖騎士にしちゃったよね。公衆の目がある場所で」


「でないとロアロアに対処できなかったんだもの」


「そこは私もマイナムも怒っていない。セレスト殿などは上機嫌過ぎて辺境に更迭してやりたいくらいだ」


「怒っている」


「怒っていない。でも、君が私と結婚することになるのは本意ではない」


「私だって。――もしかして、そういう話?」


殿下とマイナムは同時に大きく頷く。

本気でこの二人は阿吽の呼吸だな。


「それで」


「私と結婚できない醜聞を君に作って欲しい」


「ええと」


「ジェットと二人で逃げてくれ。――ああ、私は何て最低な奴なんだ」


殿下は言い切った途端に両手で顔を覆う。

そんな殿下の肩に、マイナムが親友が労わるようにして手を乗せる。


「わかります。ですが、あなたとディでは幸せになれないことはわかってます。ディについては、俺がちゃんとフォローします」


私は首が傾がるばかりだ。

だって、殿下とマイナムが言った何が酷いことなのかわからないのだ。


「ジェットと身をくらまして、ふしだらな子のレッテルを貰えでしょ。それで聖女にされることから回避できるなら、別に、だけど?」


「だって、貴族社会からつまはじきにされるかもなんだよ? 周囲の声が大き過ぎれば目立ってはいけないスピネルとして、親父殿が君を放逐しなければいけなくなるかもしれない」


「ジェットと君の間に子供が生まれても、子供達が社交界から招待状一つ届かない身の上になるかもなんだよ」


「私は構わないけど。そっか、親父殿やオブシディアでは構うのね。でもさ、私はもともと引退したら買った家で一人で余生を過ごそうと思ってたから、別に未来が変わったわけじゃないし」


私の目の前に殿下とマイナムの手が同時に差し出された。

二人の手にはハンカチが。


「私は泣いてました?」


「うん。無しでいいよ。君との結婚を強要されることになったら、私が継承権を放棄する。弟は年が離れてまだ幼児だが、逆に今から仕込めば良い王になるかもしれない。私と違い使える黄金の輪廻を得られるのも国民には良いことだ」


「殿下、不要ですよ。聖女聖女と声高に叫んでいる教会幹部を一人二人、脅しだと分かるように殺せば聖女認定なんかの話は立ち消えるでしょう」


「あんたら。どうしてそんな出来やしないことを提案するかな」


「できるよ。君とディアドラのためなら、なんだって」


「俺の実力馬鹿にするな」


私は呆然だ。

殿下もマイナムも、私の幸せのためにそこまでするつもりなんだ。

それで私が泣いたのは、評判が悪くなって将来の子供がってことじゃなくて。


私は自分に寄りかかって眠っているジェットの見つめる。


そう、この人がいない人生は嫌なんだ。


「私は評判が悪くなっても構わない。でもそのせいでジェットやジェットの子供や家族の人生が残念になるのはいやで、……そうじゃない。そうしたら、ジェットから身を引かなくちゃだから、ジェットに会えなくなる人生が嫌なんだ。でも、ジェットもマリさんやセレストさんにリリアさんが迷惑するなら」


私の言葉はここで止まる。

ジェットがカッと両目を見開いたからだ。

ずっと起きていた?


「ジェット? 狸寝入り、だった?」


「君に選択させたかったからな。俺は君の選択に従う。君が醜聞に塗れることを望んだならば、俺は喜んでその相手役となろう。招待状? 君にそっくりな娘に招待状を送らない馬鹿はいない。君は君こそ誰もが欲しがる存在だってもっと自信を持つべきだ」


「私が聖女になることを選んだら?」


彼は私ににやって笑う。


「聖女認定式かお披露目会で、聖女となった君を掻っ攫って俺のものにする」


「あなたと逃げる、それしかあなたは選択肢を私に用意してないじゃない」


「俺の幸せは、ディとずっと一緒、それしかないからな」


私はジェットにしがみ付いて、ジェットの肩に顔を埋めた。

それで、ジェットにお願いした。

今まで言っていた事と全然違う事となるけど。


「ジェット。私は本当は家族が欲しかった、ずっとずっと欲しかった。どんなことがあっても私を捨てない家族になってくれる?」


「俺は君が世界で命だ。君こそ俺を捨てないでくれ」




私達は身を隠すことにした。

聖女の地位よりも愛する人を選んだと王国中に広まり、私の聖女認定は無くなった。でも、怒髪天な親父殿によって私の隠居用の自宅は没収され、ジェットと二人きりで会うのは私が学園を卒業するまで許さない、という事になった。


三年、頑張ろう。


ジェットはそう言ってくれたが、私はロワークラスで生きていける気がしない。

シャムル侯爵家養女になったディアドラは、ちゃっかりアッパーアドバンスクラスになっちゃってるし、チッ。



お読みいただきありがとうございました。

読んで頂けたこと、とっても励みになりました。

ありがとうございます。

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