学園突入
私とセレストさんは瞬間的に時間が止まってしまった。
え?
ジェットがいつの間にか聖騎士になってた?
それで私がしたって言うけれど、そんな記憶なんてない。
「違いますよ。あ、娼館につれていかれても童貞を守りきったと言ってたから、神様からのご褒美、とか」
「……その話を君に告白した奴とあいつを娼館に連れて行った奴に、俺が後で確認するのは確定だが、そんなんで聖騎士にならないから」
「ダンジョンでレベルが凄くあがったから? あ、でも上がる前に使えてたか」
「あのね、聖騎士は聖女か教会の司祭に祝福を受けてなるものなんだよ。それで今は教会より騎士に祝福を与えることは禁止されている」
「祝福しないってどうしてですか?」
「聖騎士にしたら王国の騎士が教会預かりになるからを言い分にしてる。実は聖騎士に出来る神通力が教会から失われてるからで、いや、げふんげふん」
「大人の事情わかりました。それで教会の祝福なんて無いのにジェットはなぜか聖騎士になってて……あ、そっか。聖騎士。聖騎士ごっこだ」
「ディちゃん?」
私は思い当たったからと、セレストさんに、座れ、という手振りをした。
偉い騎士団長に、地面に跪いて、なんていくらなんでも言えなかったのである。
「ええと? ああ君も手にロアロアが付いてた?」
「違います。あの。ダンジョンで。リッチからの即死攻撃を無効化できるように、ジェットに状態異常を無効にできる魔法をかけたんです。そういえば、その魔法名が聖女の祝福でした。それで聖騎士になったんかなって。それでその魔法の発動条件が相手が跪いて無いとなんで、お願いします」
「ああ?」
セレストさんは怖い顔で聞き返して来たが、結局は脳筋だけあって決断は早い男だった。私の言っていることが理解できなくともそれが現状打開となるのならばと、偉い人なのに平民の私に跪いてくれたのだ。
私は急いであの日にジェットにしたように、セレストさんの頭部へと手を翳す。
「騎士であるあなたを讃え神の恩寵を授けます」
「「「「うそおおお」」」」
今まで静かだった王国騎士団面々が、一斉にアホっぽく叫んだ。
気持わかる。
このスキルの発動時のエフェクトはとても派手なのだ。
ジェットの時もそうだったけど、セレストさん目掛けて空からひと筋の光が差し、数秒ほど対象者自身が光を放ってキラキラ輝くのである。ダンジョンの時はまじで意味不明だった。光どこから? って。
「えと、もう立っても大丈夫すが、あの」
「うそ。本気で俺は聖騎士になっちゃってるよ。嘘お」
どうしよう。セレストさんがアホっぽくなっている。
ジェットががっかりしちゃう。ジェットに謝らなきゃ? と私こそ慌てる。
ジェットはセレストさんのことを、とってもとっても尊敬しているのだ。
「だ、大丈夫ですよね。えと、これで剣に浄化魔法施したりできるかも、なんて思ったり。とにかく、あとはお願いします!!」
そして私はセレストさんと彼を取り囲む騎士達から離れると、学園の正門の真正面に立ち直す。私は学園に入らなきゃ。だからと、大声で叫ぶ。
「グロブス!!」
私の前に赤ん坊ぐらいの直径で二メートル近くある金属の筒が出現する。
これは、大昔の魔物が地上を普通に闊歩していた時代にいた銃騎士の銃召喚時の掛け声だ。別に銃騎士みたく銃器を召喚したわけでもなく、魔法収納から自分作の魔導銃を取り出しただけなんだけど。ほら、私は収納魔法を持ってることを不特定多数に知られちゃいけないって、親父殿に厳命されているから。その誤魔化し。
それに一度やりたかったんだよね、グロブスって唱えるの。
「ディちゃん。駄目でしょう!!何やってんの!!」
「え、あの」
「グロブス召喚の方が収納魔法よりも問題だから!!」
「ああ、もう。世の中面倒だ!!」
私は大筒を肩にかけるようにして構え、引き金を引く。
ダウン!!
破裂音は地響きを引き起こした。
だが、私がぶっ放した砲弾はバリケードに突き刺さり。
ダッガアアアアアアアアン。
大きく破裂し、人一人入れそうな穴をあけた。
私は魔導ボードに再び乗り上げ。
「ディちゃん。一人で行くんじゃない!!」
「お父さん、これあげる。だから。もう黙って送り出して!!」
大砲をセレストさんに放り投げ、ついでに砲弾も二つほど投げてやる。
彼が必死に受け取っているその間に、私は自分で開けた穴に飛び込んだ。
「ディちゃん、ありがとー!!」
「どういたしまして!!」
バリケードに開いた穴を潜って学園敷地内に入って見れば、私を待ち構えるように八名の敵が待ち構えていた。腹から触手を生やした生徒と殿下付きだった騎士二名と、触手は無いけど完全操られ状態の校庭で見かけた魔導回路に穴が開いた生徒五名というパーティだ。
バーンズとセドリックがこんなんなってるなんて、殿下!!
私は再び大鎌を収納から取り出して、とりあえず三人の腹を掻っ捌いた。
流れ作業的にしたから三人分のロアロアで鎌が重い。
「ロアロアなんか全滅しろー!!炎葬!!」
ロアロアは一気に炎に飲み込まれて燃え盛る。
ざまあ。
「ころ、してください」
「意識があるいまのうちに」
「おかあさま」
「ゾンビ化まだならまだ間に合う。気をしっかりもて!!」
「今すぐ殺せ!!」
「貴殿は憐憫の情が無いのか!!」
「おかあさーん!!」
私は私に止めを願う騎士二人と死を覚悟した青年の姿に、怒りばっかり大きくなって怒りをぶつけるようにして両手を合わせた。
「お前等死なせるかよ。アクアヴィテ!!」
ぶわっ。
私の体から一気に何かが噴き出した。
もちろん、完全回復魔法を唱えたので、それ分の魔力がごっつり抜けたのも確か。それの証拠に、足元がぐらぐらと覚束なくなっている。
けれど失った分の魔力は、アクアヴィテのお陰で少しずつ回復している。
三人の全回復どころか、私までも回復してくれるなんて初めて知った。
古の聖女が五回も連発できて、ダンジョンで私が死ななかったわけである。
だけど私の頭上数メートルくらいでアクアヴィテの魔法陣が煌き、間抜けにくるくると回っているのは恥ずかしいどころじゃない。
それから、他にも抜けたものがあるけど、それについては開放感ばかり。
では何が噴き出したのか、は、ハハハ、殿下の言う通りだったというアレだ。
ミーシャから引っこ抜いたミーシャが盗んでいた沢山の人の残滓が、アクアヴィテを発動した途端に私の体から吹き出したのである。その上、吹き出したいくつかは、操られてゾンビ状態だった学園生徒達の体にめり込んだのである。
元の持ち主だからか、穴が開いていたからか。
後者だったら、ディアドラの時に殿下が私を止めたの正解。
「いやはや本当に全部出ちゃったよ。本気で呆然驚き。わかってた殿下って凄いなあ」
「アクアヴィテも異端の秘術の一つ。命を賭ける究極魔法でしょうが。全部出てしまうなんて、考えるまでもないでしょう」
私はバシッと両手で両耳を塞ぐ。
たった今頭の中で聞こえた声を聞きたくないんじゃなくて、その反対。
今の声を逃したくないって、もっと聞きたいから。
「殿下!!」




