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騎士だからって浄化魔法は使えないの

魔導ボードで王都の道を疾走してみれば、王都はスピネル邸から眺め見て感じたよりも被害は少ないようである。王都内を分断し、建物を無情にも燃した炎は、依然として燃え続けているが燃え広がることは無い。


何かの召喚用魔法陣をその炎で描いているからである。


召喚魔法によって応えた魔物の力が、魔法陣から吹き出してのその状態なのだ。


召喚者は魔物が応えたと喜んでいるかもしれないが、魔物を召喚しきったら自分の能力を制限する召喚用魔法陣など破壊するのは必然だろう。

さすれば王都は完全に炎上する。

恐らくも何も、召喚者ごと、だ。


「わかっているのかなあ。わかってないよなあ!!」


召喚者の無知さに腹が立ったそのまま罵り声を上げた。

だってそのせいで私は学園に一直線に走れないのだ。


魔法陣を描くために置かれたオブジェへと私は向かっている。オブジェを一つでも破壊すれば、この召喚魔法陣の威力を下げられる、はず。という魂胆だ。


召喚魔法陣は召喚される魔物の名、魔物の能力を現わす記号、それらを幾何学模様を用いて閉じ込める意を持つ円内に描かれる形で構成される。


ならば、文字の一つでも間違えれば無効化するというものなのだ。

普通の魔法陣もそうだけどね。


召喚陣の中心が学園となるならば、出来る限りの妨害行為は必要だ。

召喚陣を成す文字代わりとエネルギー供給は、いつの世でも同じ文字が名にある人を生贄にする事だ。火刑台なんてものが作られていて、そこで燃やされていた人がいたなんて!!

私は火刑台に一直線に飛んで行き、収納から取り出した大鎌を思いっ切り振るう。


グワッシャン!!


火刑台は粉々に壊れ、その火刑台から伸びていた炎が弱くなる。


「大本を消さねば消えないか」


「ぼやッとするな!!」

「気を付けろ!!もう一匹がそっちに行ったぞ!!」


なんと、二名の王国騎士がそこに居たなんて気がつかなかった。

どうやら彼らは私と同じ様に火刑台を壊しに来ていたが、……火刑台を守るアンデッドに苦戦していたようだ。


苦戦していた状況は深くわかりみ。

その魔物たちは、ダンジョン五十一階の魔物なのだから!!


私は忘れない、腹から触手型寄生虫をわらわら出していたゾンビとの戦いを。

殆どジェットに倒して貰ったが。だって、奴らに噛みつかれた手の甲から小さな糸状の虫が瞬時に生えたのだ。二度とあんな目には遭いたくない。


なのに、どうして王都内にいるんだ!!


「うわあああ」


私は悲鳴でしかない大声を出す。ついでに鎌に浄化魔法を掛け、私に迫ってきたゾンビの腹を切り裂いた。次いで、鎌の刃に絡み付いたロアロアをジェットの炎で燃やす。


炎葬(ブシエ)


ふうと溜息を吐いて、声掛けしてくれた騎士を見れば……呆けてる。私に気を付けろと言った人達こそが警戒を解いてどうするの!!


「気を逸らすな!!ロアロアに噛みつかれたら感染するぞ!!」


「こっちも頼む!!」


「浄化魔法を剣に纏わせて、触手(ロアロア)生やしているアンデッドの腹を刺すの!!そしたら剣にロアロア絡みつくから、絡みつかせたままロアロアを引き出して、それで燃やせばいいから!!」


「「できるか」」


仲良く二名で私に大声を上げて返すとは。


「ジェットはできたね!!」


「あの男と一緒にするな」

「あれは規格外だ!!」


「ああ、もう!!」


私は大鎌を片付けるや一番近くの騎士へと近づき、剣を握る手首に触れる。


「清廉なる女神の名において、不浄なるものを浄化せよ。次は、あなたね」


既に私の目の前にはもう一人の剣を握る手が突き出されていた。

私から浄化魔法を得た一人はすでに苦戦していたはずの魔物の腹を剣で裂いて、ロアロアをアンデッドの腹から引き出すことに成功していた。

私は彼の手にも触れ、浄化魔法を施す。


「出来るね」


「ああ。友人の腹を裂く事になるが」


「ロアロア取っても死んでなければ、回復魔法かポーションで何とかなる!!」


「わかった!!」


「ほ、他の奴らにも、この浄化って奴を頼む!!で、こいつは。うげえ」


「松明の炎で充分!!あと一か所は行く。残りの二か所はあなたと次の場所の騎士達で何とかして頂戴。私は学園に行かなきゃ」


「わかった。恩に着る!!」

「君も気を付けてくれ!!」


私は魔導ボードに再び乗って、騎士達に言った通りのことをしてから学園へと行き先を変えた。戦いを知らない子供ばかりの学園でロアロアが発生したら、たぶん対処できずに全員ロアロアゾンビ化間違いなし。


「ジェット。言葉も返せないくらいに劣勢なのかな」


彼は弱き者を守ろうとするから。

私と違って、命を貼りたがる奴だから。



そして学園に到着した私は、ジェットもマイナムも何も返せなかった理由を目前の光景によって思い知らされたのである。


魔物を呼び出す召喚魔法の中心がどうなっているかなんて、考えるまでもない。

学園の高い塀はもともと魔法結界が施されていたけれど、その警戒レベルが最強になっている上に、別の干渉によって全く別の障壁に変わっているのだ。


「学園の敷地がダンジョンになってる」


「ディちゃん!!」


気安すぎるジェットの声に驚いて振り返る。

なんとジェットの親父様、王国騎士団長のセレスト・オブシディア様が私に駆け寄ってくるではないか。

うわあ、驚くほどに声がそっくりなのね。


それに騎士団制服を着た彼の姿は、いつもの騎士科制服の精悍なジェットの姿と重なって、私の胸にオブシディアが放つ炎弾(パイロクラスタック)が入り込んだ感じとなった。ファイヤーボールの中に石礫が入っているっていう、普通のファイヤーボールよりも凶悪なあれ。


お陰で胸の中がずしっと重くて熱くて涙が出そう。


「それで突っ込むつもりか。止めるんだ」


セレストさんが言う通り、学園の門は固く閉ざされ、既にバリケードが築かれていた。魔導ボードで付き破れるどころか激突で私の体がバラバラになるだろう。

だからと言って塀を乗り越えての侵入は、ダンジョン壁が学園の敷地を全て取り囲んでいるならば、不可である。だけど、私には武器がある。


「入りますよ。私はここの学生です。正面から入ってやります」


「よく見て。バリケードは学食がどこかのテーブルに椅子を重ねたものだが、土魔法で覆われて硬化させられている。ダンジョンは外からの魔法攻撃は無効化する。ならば、あれらを壊すほどの攻撃魔法をバリケードに触れた状態でなさねばならない」


「近接で攻撃魔法を使えば、バリケードを破るどころか術師がバラバラですね」


「そうだ。それで俺達はこうして立ち往生だ。王国を守る騎士が」


「立ち往生で良いんですよ。学園内がダンジョンだったら、騎士は入っちゃいけません。専門の冒険者に任してください。私とジェットに任せてください。王国騎士団には王都の人達をロアロアから救っていただかないと」


「ロアロアか。ジェットから対処法は聞いていたが、私達にはあれのようにはできない。浄化魔法なんて聖魔法を使えるわけない」


「浄化魔法が使えない、ですか? 騎士って使えるはずじゃありませんでしたっけ? 普通の騎士ではまだまだでも、閣下のレベルでは使えるはずでは」


「お父様て呼んで。う~ん。聖魔法は聖騎士にならなきゃ使えないものなんだよ」


「え。ジェットって、聖騎士だったんですか。すごい」


「すごいって君が聖騎士にしたんじゃないの」


「え?」


「え?」


セレストさん。え? なんて言われても、ですよ。

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