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眠りを壊した襲撃は闇を友に

真夜中に学園中に響くアラート。

これは学内に危険が迫った場合のアラームだが、王都に何かがあった場合にも、学内の生徒達に緊急事態を継げるために鳴り響くものだ。


俺はこのアラームにて叩き起こされ、言葉通りベッドから飛び降りた。次いで少しでも早く現在情報とレイの安全を確認するために、急いで身支度をして部屋を飛び出す。廊下を駆けながらマイナムに伝言魔法を飛ばす。


「マイナム!!何があった。殿下は無事か」


「殿下はこれから場所を移す。何があったのかは君こそわからないか?」


「俺は寝起きだ」


「正直者。俺も同じで何も分からない。何の報告も飛んでこないんだ」


「このアラームだ。学園の塀に施された結界の警戒レベルが上がったのだろう。緊急事態になると魔法障壁の強度が上がるんだ」


「オブシディア殿、申し訳無いが」


「わかっている。門外に出て情報を得てくる」


俺は行き先を殿下の寮室から学園の門扉へと変えた。

常駐している警備員から事態の情報を得られるだろうし、魔法障壁が強化された門を一歩出れば、オブシディアやスピネルと交信ができる。



そして辿り付いて見れば、俺は学園内の方が危険だったと気がつかされただけだった。

これは計画的なものだったのである。


門ではバリケードが築かれており、誰も出入りできない有様だ。

バリケードを築いている者達の行動は、アリ塚を作り上げるアリの如く統制が取られている上に、俺が見たことがある動きに顔つきだ。


フェブリー女子修道院のミーシャに奴隷化されていた修道女達と同じなのだ。


昨日の今日だ。

見誤ることは無い。


「誰が操っているんだ。ミーシャは死んだはず」


俺は踵を返す。

レイを守らねば。

誰が別人になっているのか俺の目でもわからないならば、王宮からの護衛騎士の到着を待つよりも、俺とマイナムに、バーンズとセドリックの四人でレイを王宮に戻す方が安全だろう。

それから王国騎士による学園内の武装勢力の制圧だ。


「ジェット、君は戻るな」

「オブシディア、ジェット。殿下を頼む!!」


レイとマイナムの同時の叫び。

俺はもちろんマイナムの求めを優先だ。

レイとマイナムがいるはずの寮へと向かう。



しかし、俺は遅すぎた。

レイは寮室どころか寮の前にいた。それも下着姿にされた上に裸足で、普段ならば遠巻きにしてレイを眺めているだけの寮生たちによって囲まれている。

まるで罪人のようにして、レイは追い立てられながら歩かされているのだ。


レイはそんな状況でも顎を上げ背筋を伸ばしと誇らしい振る舞いだが、そのためにかえって処刑台に連れていかれる聖人のように見えた。


「させるか!!」


俺は駆け出し、まず軍団に突っ込む。

俺の勢いだけで尻餅をつき、脅えてしゃがみこむなど!!

意気揚々とレイを小突き回していたくせに!!


「ジェット。誰も傷つけるな!!」


俺は奴らをレイから遠ざけただけで満足するしかないようで、鬱憤が溜まったまま殿下を抱きあげる。それで? もちろんそのまま飛び上る。屋根に向かって。


!!


屋根の上に到達した途端に、俺は学園の外の世界が見えて愕然とした。


オレンジ色の炎が目的をもって線を引き、王都に大きな円を描いている。


「王都が炎上している? いや。学園を中心にして魔法陣が描かれている?」


「ハッ」


吐き捨てるような笑い。

俺に抱かれたままのレイだった。


「召喚が行われたんだな。まだ儀式は未完成のようだが。だが、学園がダンジョンのような有様となっているのは、確実にあれのせいだな」


「ダンジョン?」


「魔素がねっとりと絡みつくほどなのに? 魔物を生やした死体が動いている世界となっているのに、気がつかなかった、と?」


俺は屋根の上から下を見下ろす。

自分達の獲物を奪われているはずなのに、けらけら笑っているだけの者や、次に何して良いのかわからない風情でキノコのように突っ立っている者。


「彼等は」


「まだ人間だと思うが、怪我を負わせた後が怖い。私達を襲ってきた者は、マイナムの刃を腹に受けたそこで、腹から触手を生やしたよ」


「どうしてマイナムと別行動なのですか?」


「マイナムに生徒会室に向かうように命令したからだ。私が与えた私の大事なものを生徒会室にて私に渡すまで生き延びろと」


俺は歯噛みする。

愚者のサイコロストゥルトゥスアーレアの五十一階で出会った魔物を思い出し、それがどんな攻撃をして来たのか思い出したからだ。俺とディは互にボロボロになりながらも対処法を学んだが、二度と出会いたくはないモンスターだ。


そいつにマイナムが傷を負わされていたら?


「マイナムに急いで合流しましょう」


「頼むって。私を抱いたままか!!」


「舌を噛みます。黙って」


俺は殿下を抱いたまま寮の屋根を走り、勢いをつけて屋根から飛び出す。

寮と学舎は隣接していないので、屋根から屋根など無理である、が、屋根から飛んだことで追うもの達からかなりの距離は稼げるはず。


「とんだ!!飛んでる!!すごい、ジェット最高!!」


「レイ!!ディの真似はいいから!!」


「アハハ。ディが君を大好きな訳だよ。こんな面白い空の旅を体験させてくれるんだから。私へのお姫様抱っこも不敬と言わずに許してあげよう」


「レイは。本気で嫌な奴になれますね!!俺は何度泣かされたか!!」


「いいだろう。私は何度も泣いて来た。君が今の君で良かった。沢山笑わせてくれる。だから、今の君を失いたくは無い。なのに、君が死んだらそこまでだ。私はもう誰も取り戻すことはできないというのに」


俺は立ち止まり、急に落ち込んだレイを背中に担ぎ直す。それから俺は再び走りだす。レイの落ち込みが吹き飛ばされるぐらいに早く。レイが再び落ち込んだら俺よりも上手く慰めてくれそうな、マイナムが待っているだろう場所、生徒会室へと向かった。


寮のレイの部屋と生徒会室には、王族用のいざという時の隠し通路への扉が設置されているのだ。マイナムは殿下の部屋から通路に入り、生徒会室の隠し扉に向けて移動しているのだろう。


俺は適当な窓を破り、校舎内に侵入する。そこから生徒会室に向けて一心不乱に走るが、以外にも校舎内は人影もなく、俺は生徒会室に簡単に辿りつけた。


簡単すぎると思いながら、俺はレイを背中から降ろす。そして下着姿の彼に自分の上着を手渡した後は、生徒会室に隠してあった王族専用の隠し通路の扉を開く。


誰でも開けられるものではない。

王家に選ばれた者だけが開けられる扉だ。

だからめったやたらに開けてはいけないのに、ディはちょくちょく開けて殿下に俺の陳情をしていたらしい。全く、ディは。俺に会いに来いよ!!


思い出してイラっとしたせいか、扉を少々乱暴に開けてしまった。

いや、丁度内側から押し開かれたのか。


マイナムが扉を押し開いて来たのだが、彼は左腹に負った傷で体を真っ赤に染めていた。傷に何も処置をしていないのは、しても無駄だと彼が思ったからだろう。


大きく裂けた傷は、内臓がわりに別の蠢くものを見せている。


言葉を失った俺に勝ったという風に、マイナムは挑発的にニヤッと笑った。

彼はレイの着替えであろう衣服を、全く血濡れしてもいないそれを、戦利品のようにして俺に差し出す。


「約束の品をお持ちしました」


マイナムの自殺防止に下着姿にまでなるとは、レイめ。

だが確かに、絶対に持って来ないとレイが大困りだからと死ぬことを取りやめて持ってくるな。


「ジェット。捕虜となった王族が必ず受ける精神的拷問は、古今東西服を脱がして辱めるでしょう。だったらと、先回りしてマイナムに着替えを渡しただけだ」


「一国の王太子が一護衛を偏愛しすぎやしませんか」


「君はお姉さんの本に影響されすぎ」


「レイ!!」


レイは笑いながら俺の手から着換えを奪い、次々と身に着けて行く。

俺はその間にやるべきことを、と、マイナムの手首を掴んで穴倉から引っ張り出した。そして、床にマイナムを転がせば、あとはマイナムに剣を振るうだけだ。

触手のような寄生虫を腹から生やしているならば、と。


「清廉なる女神の名において、不浄なるものを浄化せよ」

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