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スピネルの血統魔法と殺されるべき女児

マイナムは私が行きの時に寝とぼけてた事が許せなかったようで、次代スピネル頭目として私を叱りつけてきた。そしてそんなマイナムに対し、ジェットは抱えていた疑問をマイナムにぶつけたのだ。


寝とぼけていた私は知らないが、私達を襲って来たらしい御者をマイナムが用意したのはなぜなのかって。


マイナムはジェットに向けた笑顔を崩さず、私の頭をまた叩いた。

大して痛く無いが、すっごく間抜けな絵面だし、情けない気持ちになる。


「ひどい」

「マイナム殿!!」


「リード殿と呼べ。コノヤロウ脳筋が。たくっ。アーマド様が可哀想だ。実子に父親だって言えやしない状況なのに、娘婿も娘本人も察せない脳筋だ」


「本当にディは伯爵のお子だったのか。あの御者は死んでいるのをちゃんと確認してから捨てたと言っていた」


「こいつは自己修復能力も高いですからね。きっと息を吹き返したんでしょう。それで何も知らない墓堀達が、捨て子だと思って孤児院に放り込んだ。そんな展開だと思いますよ」


「それで、今回の魂のリーディングで本当の娘だと分かり、スピネル的な試練として自分を殺した奴を殺せ的なあの御者だったと?」


「オブシディア殿。ディに毒されすぎです。何がスピネル的な試練ですか。あれが語った内容から、私のお父さんはアーマド様だった、とディに認識してもらいたかっただけですよ」


「どうしてそんなまどろっこしいことを? 直接言えば」


「直接言ったら、事実となります。ディはスピネルの血を継いだ現当主の唯一の子となる。そしたらあなたと結婚できませんよ。ディは俺の嫁になる。あるいは適当なスピネルの誰かの嫁にされて、スピネルの男児を生むだけの人生となる」


「マイナ……リード、殿。それはどうしてだ」


「スピネルの血統魔法、亡霊の自白。そんなものを他家に流すわけにはいかないからですよ。スピネルはね、娘が生まれても嫁に出すこともできないからと、沢山の赤ん坊を葬ってきた歴史だってあるんですよ」


「だから伯爵は親子の名乗りをしなかったのか」


「ええ。ディが平民の孤児のままでいた方が、ディは安全で将来の選択肢は多い。一生ディに実の父親だと告白なんぞしないでしょう。けれど俺はね、知ってほしかったんですよ。ディには。でないと親父殿が辛すぎる。それで察しろ、というお膳立てだったのに。当のディは寝とぼけてるし、あなたは聞いた事をディに隠し通そうとしている。意味ねえな。この駄犬どもが!!」


「申し訳なかった。だが今後は、口で言って欲しい」


「だから、言えないからのお膳立てだろうが!!言えたら口で言ってたよ。スピネル的にディが伯爵の実の娘だって知られたら困るの。大体さ、ディがかつて殺されたのは、当時のスピネルの総意だ。それを覆せないんだよ」


「親父殿は子供を殺されても総意だって受け入れたの?」


「受け入れざる得なかった。というか、報復は済んでいる。だからこそ尚更、お前が、生きてました~と能天気に出てきたら困るんだよ。親父殿が為した報復が、無意味な大虐殺に変わってしまう。親父殿の正当性が消えるんだよ」


「でも、子殺しする奴を成敗するのは正義だと思う」


「ああ。そうだ。だから自分の息子、自分の父親、親友その他、殺された奴はそれで折り合いをつけているんだよ。そのお陰で娘が殺されることもなくなった。なのに、お前だ。普通にディアドラみたいな娘だったらまた変わるが、お前だ」


「どうして私だと駄目なんだよ」


「お前殺しが正義になる。お前はその気になれば、村一つぐらい、軍隊だって小隊一つくらい正面突破で殲滅できるだろう? そんな奴は危険すぎるから処分されてもおかしくないって論調に持って行けるの。やっぱスピネルの娘は危険だから生まれたら殺しとこうになるの。わかったかな?」


「ううう」

「理解した。だが、気になっていることが一つある。いいか」


「どうぞ」


「あの御者は自分をアーマド伯爵の兄だと言っていた。話し方では貴族と言えなかったが、子殺しの実行犯であるのは確実だと思った。だが、もしかして、あれは君がメッセンジャーとして仕込んだだけの犯罪者か?」


マイナムは、ハハハ、と乾いた笑い声を立てた。

それから、ニヤリと親父殿がするみたいに口元を歪める。悪人風に。


「素晴らしいでしょう。亡霊の自白は。脳みそを壊された奴は、仕込んだ者の思い通りの台本を読んでくれる」


「無実の男だったか」


「の、訳無いです。言ったでしょう、過去は親父殿によって報復は済んでいます。あれは魔導銃で働き者の大工の足を打ち砕き、彼の大事な女房子供を彼の目の前で凌辱して殺した奴です。その罪を自白する時ですら、行為を思い出して恍惚とする変態です。ですからオブシディア殿があれを処分した事を気に病む必要などありません。生きたまま燃した? 最高ですよ」


私とジェットはマイナムに深々と頭を下げた。

私達はしっかりとスピネルの怖さを思い知らされたのだ。


スピネルはその気になれば、間違った記憶を人に植え付けられる。


その能力は冤罪の人間だって処刑台に向かわせることもできるものだと、しっかりと私達は教えこまれてしまったのである。


「怖いでしょう。ヘタに娘を他家に嫁に出し、そんな能力が発露した子供が生まれたら大変だ。生まれた女の子は殺さなきゃいけない。わかるでしょう」

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