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凱旋馬車とは言い難い御者台で

ディアドラは結界が張ってある石造りの牢獄のような部屋の中にて、まるで絵本のお姫様のようにベッドの上で深い眠りについていた。


それでもって死んじゃう一歩手前だった。


ディアドラをこん睡させたのは、姿が変わった悲しみで自死をしないように、そんな殿下の心遣いだろう。だが昏睡状態の人間が、ご飯食べたりトイレに行ったりなんて一人で出来るだろうか。ベッドに放り込まれたそのまま、彼女は二日も放っておかれたのだ。人間は死んでいない限り生命活動を行うものだというのに。


結界のせいで昏睡状態の彼女を誰も介助できない、放置状態が二日も。

二日もだ!!


つまり放置されていたが故に、脱水症状や何やらで体力消耗で死んでいなかったとしても、目が覚めたら自殺したい状態にディアドラはなっていたのである。


美少女が糞尿塗れって、どうよ?


私はディアドラの親友として、彼女が人間として必要最低限の尊厳が保てるところまで持って行ってやらねばならない。


「ディアドラは無事か!!」


「無事にします!!ジェットは殿下とのチャンネルを切って!!」


「おま」


珍しく声を荒げた殿下だが、強制終了によって「お前」も言えないまま終わった。

ありがとうジェット、私一番でいてくれて。

私は静かになった空間にて、さて、と腕まくりだ。



その後私の奮闘により乙女の尊厳が守られたディアドラだが、処置した私が思うに、二日も昏睡状態だったディアドラの消耗が激しすぎる。

回復魔法をを施してディアドラの皮膚の爛れなど治療できるところはしたけれど、二日も寝たきりにされて弱った生命力の回復はできなかった。


安静第一。


だから下手に動かさずにこの修道院でしばらく看護を受けた方が良い、と私は思った。私が修道女達をちゃんと正気に戻したから安全だと思うし、心配だったらミーシャスタイルで私が修道院を掌握するよ、とまで言ったのだが。


ディアドラを手放したくない権力者様は、ディアドラを修道院に置いておくことこそを許せないようである。


よって救急搬送する重篤患者にするように、状態保持魔法をかけて手厚い看護が受けられる場所に運ぼうということになった。


王宮では無い。

我がスピネル家でもない。(一番安全だと思うが、ジェットも殿下もナイと)

もちろんオブシディア家でもいけない。(腹芸できないから)

そこで、ジェットのお姉さんの嫁ぎ先のシャムル侯爵家となった。


ジェットのお姉さんの思考に染まるとある意味危険だと思うのだが、殿下はこのままなし崩し的にディアドラをシャムル侯爵家の養女にしてしまう気かもしれない。侯爵家令嬢と王太子だったら、どこからも非難を受けない理想的な組み合わせになる。

殿下ったら絶対に結婚する気ですね、応援しますよ。


ちなみに私に完全回復魔法(アクアヴィテ)をディアドラに施せと殿下から命令がないのは、私の中にミーシャが盗んだ沢山の人の残滓を抱えているからである。


ディアドラにアクアヴィテを施すつもりが、それらまでディアドラに注がれたらディアドラは崩壊したミーシャみたいになってしまうかも。そんな不安を抱いた殿下によって使用禁止なのである。


アクアヴィテ使ったせいで私が死ぬかも、という点は全く考慮しない殿下。

ディアドラについてはまじでブレないな。


私がそんな殿下に全く苛立ちも無いのは、殿下への忠誠心からではない。

殿下のディアドラへのひたむきすぎる愛情が、とても尊いものに見えるからであろう。毛布に包まれたディアドラを赤ん坊みたいに抱えたままの殿下は、宗教画で聖人の遺骸を抱いて嘆く女神の図みたいだ。

心に響いて胸を打つってこと。


「ディ、俺達も御者台に行こう」


「うん」


私とジェットは御者台へと出た。

御者台に一人座っていたマイナムは、私とジェットが出て来た事を厭うどころか、私達を座らせやすいように横へとずれた。

だけど、座った途端にマイナムに後頭部を叩かれるとは思わなかった。

大して痛くないけど。


「私とジェットの位置を変えた方が良かった? ジェット、真ん中になって。って、痛い。また叩くなんて」


「誰がでかい図体の男の隣になりたいって言った。お前はふざけていないで俺の叱責を静かに聞きなさい。あ、オブシディア殿。口出しは禁止です。これはスピネルの話ですから」


「――グロい殺しをしてごめんなさい?」


「ど阿呆。影が寝とぼけていたってことをスルーするな。なんだそれ。それで全部オブシディア殿にぶっ被せて、お前はお弁当食べてお終いか? ピクニック? お前のその平常運転のせいで、お膳立てした俺が物凄く可哀想じゃないか?」


「まあ、まあ、マイナム殿。それから俺はジェットで良いですよ」


「あなたこそ俺の仮の家名のリードといい加減に呼んでください。それで次代スピネルとして、オブシディアと懇意で仲良すぎは後々面倒呼ぶので、オブシディア殿呼びは変えませんよ。あなたがこいつと結婚しても、俺とこいつは親戚では無い。それでいきたいのでよろしくお願いします」


「そんなひどい。そうしたら伯爵とディが会えないじゃないですか」


「会えますって。俺が言っているのは俺が継いだ後のことです。その場合は引退した親父殿とディは好きにすればいい」


「そうか安心。安心ついでに聞いていいか? どうしてあの御者を君はわざわざ選んだんだ? 君のお膳立てって、あれを処分するために俺達の御者にしたことだろう? どうしてディにあれを殺させたかったのだ?」

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