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再会

馬車はフェブリー女子修道院の敷地外に、隠すようにして停めた。

マイナムが私とジェットに普通の馬車でなくスピネルの輸送用馬車を渡したのは、私とジェットがディアドラを盗むための道具にしろということだ。


けれど、そんな命令は直接貰っていないので、現場判断で動こうと思う。


私は女子修道院の扉を叩く。

学園の制服はこんな時に役に立つ。

扉を開けた修道女は訝しそうな目つきであったが、制服姿の私を目にした事で疑念は消えたというふうにドアを開けたのである。


私が友人に面会に来たと言えば、修行中故面会謝絶と、応対してきた修道女は無情に告げる。

けれどもせっかく来たのだからとの好意なのか、出入り口近くにある待合室? 待機室に入れてくれて、お茶の一杯を出してくれた。


よしよし、ちゃんとしている。

私は簡単に私を通そうとしない修道院に、苛立つどころか逆に好感を抱いた。

ディアドラにとってこういう融通の利かない場所の方が安心だ。

あと、こんな気遣いしてくれるところなら、ディアドラが酷い目に遭う事もなかっただろうはず。


「ディ。範囲を広げろ」


ジェットの伝言魔法が私の脳に直接囁いた。椅子に座っている状態で良かった。伝言を飛ばして受け取るだけの伝言魔法と違い、常に意識の疎通ができるように意識を結び付けた伝言魔法、もう伝言魔法じゃなく疎通魔法と言い換えようか、は、かなり負荷がある。ジェットの百鬼眼を共有していたらどうなるんだと、マイナムがいようが今もジェットと繋がっている殿下の胆力には敬服だ。


私なんか、これだけでぐらっと酔ったようになっている。

けれどもディアドラのためだと、ぐらぐらしながらもジェットのアドバイス通りに索敵魔法の範囲を広げる。


ジェットのものと違うけれど、ジェットの百鬼眼の出来ることを聞いて少しだけ近いものに出来た私の索敵魔法は、やっぱりどころかかなり精度が悪いし脳にかかる負荷が大きい。


それでも、ディアドラ風味のミーシャが幽閉されている部屋と、棟違いのディアドラが幽閉されている部屋がどこにあるかは掴めた。

ついでに部屋に彼女達はちゃんといるかも。

方角に位置関係はすでに確認できたと、そこで私は索敵魔法を一時消す。


「根性無し」


揶揄うようなジェットの台詞。彼の含み笑いも聞こえるようだ。

だけど、これから突入していく私としては、足元がぐらついているなんてあってはならない事だ。ついでに言えば、罪なき修道女達には傷一つ付けてはいけない。


壊し屋と揶揄われる私には、とってもハードルが高い今回のミッションだ。


「それで、あなたはどちらのお友達ですって?」


「ディアドラ・メレダイン様ですわ」


私は修道女に微笑む。

私の真向かいの椅子に座る修道女は微笑み返しはしなかったが、よくわかったという風に頷いてくれた。しかし、もう一人いた修道女がすっと部屋を出て行ったので、この頷きは彼女とのやり取りでしかなかった気がする。


だけど、一人きりになったのならば。


私はすっと立ち上がった動作の流れのようにして修道女の額を指で触れる。

彼女はびくっと目を見開き、その後は意識を失ってがくっと崩れ落ちた。


「おっと」


数分後、修道服に身を包み、顔だって先程の修道女に変化させた私は修道院内の廊下を闊歩していた。

もちろん、通り過ぎる者で私を訝る者などいない。

彼女達の見知っている修道女の顔をしているからだ。


けれど私は哀れな修道女から修道服を剥ぎ取ったが、ミーシャみたいに修道女の姿を盗んではいない。

光の屈折率などを弄れば、人の目など簡単に誤魔化せるのだ。


スピネルの職人技とも言えるこの技はすごいよねえ。


これが出来るかできないかで、スピネルでは一軍二軍と振り分けられる、というか、一軍になった人間には死ぬ勢いで教えこまれるのだ。そして出来なかったら門外不出の技術が外に漏れないように、出来なかった人は処されてしまう。


処されるのが本当かウソかわかんないけど、とにかく私は必死で覚えた。

当時年齢一桁の私に教えこもうと必死な、鬼気迫った親父殿が怖かったし。


「お前は何があっても生き残らなきゃいけないんだよ」


子供が殺されていた親父殿。

彼は私に喪った子を重ねていたのかもしれないな。


「ミーシャの親父もそんな感じだったのかな」


私は目的の部屋の前に着いていた。

ディアドラから姿を奪い取った憎き敵、前の生の私から全てを剥ぎ取った女。

そいつの部屋の前に私は辿り着いていた。

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