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とっととフェブリー修道院に行こうよ

「ディ、あ~んだ。早く」


ジェットは実は脅威だったらしい御者を「私が寝コケている間に」排除してくれた功労者であるが、私にも我慢の限界はある。毒見だって私の体を考えてくれての身を張った行為だろうけど、私こそスピネルの端くれなのだ。


毒に強いし、私は毒ぐらい体内浄化できる、はず!!


あの前世の私は、自動自己修復をしていた優れ者だった。鍛錬している今の私ならば、意識すればあれ以上にできるはず(安全にぬくぬくな今の私じゃ、自動の部分は弱い気がするから意識して、ね)。

と、色々言い訳を作った私は、大事な頬肉にフォークを刺し、大口を開けたジェットではなく自分の口の中に放り込んだ。


ほろっと口の中でお肉がほどけるのに、じゅわっと肉汁も旨味も広がる。

うまあああ。


「おい。毒見って言ってるだろ」


「御者だったら前見ろよ。あと、これジェット食べて平気だった奴だし、うちの料理人は毒入れないって」


「いや、だってお前。起きなかっただろ。起こしても起きなかった。俺は体が重いし。香の匂いは感じなかったが、菓子や料理の甘い匂いは強く感じた。だから、きっと料理の中に、俺達に作用した何かが入っているのがあるはずなんだよ。俺はそれを調べてんの!!」


「私は体重くないし、逆にみなぎってる感じだし。それに、催眠剤なんかあったらすぐに気がつくはずで」


私は回復士の目でジェットの体を見つめ、あ、と気がつき目を見張る。

ジェットの生気がなんか減ってる、てことが目に見えてわかったからだ。

それで、ええと、私の体がメチャクチャ調子が良く漲っているのは?


堅い床だからって、ジェットは私に腕枕だと腕を差し出して……ありがたく布団か枕状態にしていたな。

血流がそれで悪くなってるのかな、と目を凝らせば、ジェットの状態はドレイン系魔法を受けた冒険者の状態によく似ていると気づく。

どうしてって、思い当たる。


「ああ、そっか」


「何か気がついたのか?」


「うん。私とジェットは魔法をコピーし合うじゃない」


「ああ、するな」


「最初は意識して、魔法の構築式とか目に分かるように出したり書き出したりして、互に教え合ったよね」


「ああ。最初の頃はな。今は互いにシンクロし合えるから、互いの魔法を見ただけでなんとなく理解できるな」


「だよね。ジェットの百鬼眼とか固有なのはわかんないけどね」


「お前の絶対防御は、――今度見せて」


「うん。じゃあ、殿下と共有した百鬼眼も私にやって」


「それは無し」


「何で」


「あれは受け手のダメージが酷いんだ。殿下はマイナムが絶対に守っている。俺が近くにいない時にお前が身動き取れなくなるのは怖いからヤダ」


うむむ。

結局は私が一番大事だって事がこそばゆいが、してもらえないのは悔しい。

私は適当なおかずにフォークを刺し、悔し紛れにジェットの口に突っ込んだ。

なんか嬉しそう?


「俺がどれだけディが大事なのかわかってくれたか?」


あ、私がジェットの言葉に照れたかしてリアクションに困ったからのこの行為、とジェットは思ったのか。

うぐ、となったが、そうだな。否定は無い。


「それで話は戻すが、君の言いたいことは何だ? 俺達の魔法をコピーし合うってのが、お前が起きなかった事や俺の不調と関係あるのか?」


「うん。ジェットも出来るかもしれない。私はジェットの魔法を見て覚えてってやってたから、人の魔法も自分のものに出来るようになったみたい」


「それで?」


「うん。私は吸血鬼みたいなドレイン系魔法使えるようになったのかも」


「え?」


「前世の私が殺された時、ディアドラが受けたみたいに自分を奪われたんだ。私の場合は容姿じゃなくて能力だったけど。私はそれを追体験したから、だから、私はその魔法の構築式を無意識に学んじゃったのかも」


私はじっと自分の手のひらを見つめる。

私の額に触れたミーシャの手の平の感覚が蘇る。


奪われていく私自身。

自分が空っぽになったその次に、私の頭はぐしゃっと踏みつぶされた。

そうやって幼い前の私は殺されたのだ。


回復魔法が奪われたから、私の頭は簡単にミーシャの父が踏み潰すことができたのだろう。幼い子供の頭を踏みつぶせる人間の人間性こそ解いてやりたいが、あの男は今世では死んでいるんだよな。畜生。


「ディ?」


「ごめん。意識が反れた。それでジェット。フェブリー女子修道院にディアドラの姿を奪った奴もいるんだよね」


「ああ。東棟と本館で分けるように指示はしてあるが。どうした? ディ」


「急いで修道院に行こう。もしかしたら、私こそあいつから奪えるかも。あいつが奪ったディアドラを私こそ奪い返してやろうと思う」


「だが、ディアドラはあいつの外見だろ? あいつとディアドラの外見を一時に取り替えねばいけないんじゃないのか? そこまでできるのか?」


「そうだと思ってたから、今まで何もできなかったんだよね。でも大丈夫。だってあれはミーシャ・フルールの外見じゃない。もともと私が知っている外見もミーシャがすでに他人から奪ったものかもしれないけど、ディアドラが押し付けられた外見はミーシャの元の姿じゃないよ。あいつは奪った外見を洋服みたいにして着換えたりしているはず」


「それは魔法をコピーした事で手にした知識か?」


「というか、状況から。だって、本物のアスターシャはコーデライト伯爵夫人の友人の子のミゼルカと潜り込んだミーシャに自分自身を奪われてしまってたでしょう? あの押し付けられたミゼルカの外見も私が知っているミーシャの顔じゃないんだ。幼児と十代少女の違いなんか関係なく、違う。瞳の色はミーシャのものだったけど、ミーシャはピンク色の髪じゃなかったし」


「どれだけ奪われた人がいるんだろうな」


「うん。だから、今度は私こそが奪ってやる。ぜんぶ」


私は右手をぎゅうと握った。

やるぞ。


「ディ。俺にもその魔法をコピーさせてくれ」


「……後で、でいいか?」


「今すぐ」

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