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私の瞳案件と言う事で私の危機です

今日の私は自分が思っているよりもダメージを受けていたようだ。

そうよね。

帰寮したら部屋の中が酷く汚されていた上に、荷物が全部放り出されて汚物塗れの山にされていたのだもの。


御庭番という任務の中で人の悪意を散々見て来た私だから、自分が受けた嫌がらせに対して他人事みたいな目で見ていられた。けど、実はとっても傷ついていたのだ。きっと。

殿下に、学園生活が楽しみだね、とのお言葉を頂いた時、もちろんですと私はこの上なく弾んだ声で答えていたんだし。


「悪かった。前言は撤回する。余計な事を考えるな!!」


ジェットの焦った声が私を物思いから覚ました。

私はジェットを見返し、軽く小首を傾ける。


なんだっけ?

私には数分間の記憶が飛んでいるみたい。

ええと、どうして私は物思いという逃避行動をしていたんだっけ?


ぱみゅん。


「……にゃぜにわしゃしのぎゃんめんをてでちゅかむ?(なぜに私の顔面を手で掴む?)」


アイアンクロ―など女の子の顔にするものじゃない。

本当にジェットは私を無体に扱い過ぎる。


「だからそんな目で見ないでくれ。俺を惑わすんじゃない!!あと、男に対して小首を傾げる行為は自殺行為だ。二度と、俺以外には絶対にするな!!」


そうだ。

私を抱きつぶしたくなる、なんて不穏なセリフをこの奴は吐いたのだ。


「あにゃたわいめわきゃんなしゅぎ(あなたは意味わかんなすぎ)」


「わかれ。お前は可愛いんだ。そのオレンジ色の花が咲いているみたいな緑の瞳は普通に反則なんだ」


「にゃにを、って、いい加減にしろ!!」

「わあ」


本気で身体強化と体術を使えば、隙だらけの大男など簡単に振り払える。

大きく振り払われたジェットは、酔っ払いみたいにして足元をもつれさせて後ろへとよろける。あ、鞄の重さも相まったんだ。このままじゃ後ろに尻餅をついてしまう。今や燃え尽きプスプスとくすぶるだけとなった、真っ黒な燃えカスに変わった元汚物にダイブしちゃう。


もちろん私は無意識にジェットへと手を伸ばしていたし、恰好つけるよりも実を取るジェットはためらわずに私の手を掴む。

そして気がついて見れば、なぜか私こそがジェットの腕の中だ。


何が起きた?


「お前の瞳は危険だよ。見つめられたらこうして抱きしめたくなる」


「い、意味わかんないし。あ、あなたは私を男だって」


「そうだ!!わかっているのに、俺の心も体も分かってくれないんだ!!」


ジェットは叫ぶや私の両肩をガシッと掴み、自分の胸元から私を取り出した。

だが、彼の腕の中にいた私を放り出す気は全く無い。

彼は私が彼から逃げ出せないように、がっちりと拘束しているのだ。

花が咲いているようだと賞賛してくれた私の瞳を、真夜中の星空のような瞳で真っ直ぐに見据えて。


くっ、無駄に顔が良い。

親父殿がどんな場面でも美学を追及しろなんて教えるから、つい、ジェットの顔貌を鑑賞してしまうじゃないか。


「ディ」


「あ、はい」


「危なっかしいよ、お前は。やっぱり今夜は歓迎会に参加しよう。それで俺がお前の守護者だって宣言する。お前にちょっかい掛けたい奴は、まず俺を通せとな」


…………。

部屋の汚れを落とすのに、洗浄魔法ぐらいだったら使ってもいいかな。

生活魔法は平民だって使える子はいるんだし。


「どうした? ディ?」


「意識を飛ばしたい私を理解してください」


「そんなに喜んでくれたのか」


「そんなわけあるか! このお馬鹿! そんな宣言されたら、明日の朝には私は寮で死体になってます」


「そうか。じゃあ今日は我が家のタウンハウスに行こう。寮のお前の部屋が整えられるまで、我が家から登校すればよい。何、心配するな。俺も一緒だ。不安は無い」


どうしよう。

私はもう恐慌状態だ。

この男は理解がどうしても通じないし、私こそ彼への理解が逃走中だ。

とりあえずジェットが思考することを遮らねば。


脳筋でも考えろと何度もジェットに言ってきたが、脳筋に思考させたらいけないという理解はできました神様。

だからお願いですからこの男をストップできるスキル下さい。


「ほら行くぞ。事務が閉まる前に学外外泊の手続きをせねばな」


ジェットは有言実行の人だった。

もうお手上げだ。

私はもう完全に負けた気持ちで、深々とジェットに頭を下げる。

ここはもう心からのお願いをするしかない。


「勘弁してください」


「何がだ?」


「何もかもです。まず、あなたの家には行けないし、歓迎会だって一緒に参加できません。あと、私の守護者宣言はもっての他です」


「俺が守護者になるのは嫌なのか?」


どうして傷ついたような声を出して来たのか。

一番困ってどうしようもない状態になっているのは、私だ!!


「目立っちゃ駄目だっていい加減に理解してください。ね?」


もう必死の懇願だ。

私はジェットに縋るようにして、下から覗き込んで見上げる。


バシッ。

「痛い!!」

「すまん!!」


手の平で私の目元を隠すつもりだったのだろうが、力強過ぎ。

そして、見たくないなら自分の目ぇこそ隠せ!!

言ってやりたい台詞を全部のみ込み、その代わりという風にしてジェットの手を振り払う。


「ディ」


「帰ってくだ」

「どちらにいらっしゃるおつもり?」


停滞した私達の上に落ちた、貴族然とした完全なる上から目線の言葉。

私は救いの神だと仰いだが、声の持ち主が誰か知って「畜生」と呟きかけた。

取り巻き三人連れて私達の目の前の壁となったのは、キャロル・アン・パレルモ侯爵令嬢だった。事前の調べでは、現時点で学園内にて最大女子派閥を誇る方。

侯爵という家格から言って、殿下のお妃候補のリスト上位者。


これでは素直に助けてと縋りつけませんよ。

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