なんか、何かとごめん、だった!!
ジェットに絶交された世界を一瞬でも味合わせられた私は、ジェットの抱擁に心安らぐだけじゃなく、今傷ついている大事な人の気持ちを考える余裕も出た。
いや、余裕どころか危機感迫って、今すぐ動けって勢いだ。
「ジェット。これからディアドラを救出に行きたい」
「これから? 突然だな」
「だって一分一秒無駄にできない。もう二日も経ってるんだよ。だから行こう。今すぐに助けに行こう」
「殿下に」
「殿下もマイナムも動けない。動けるんなら殿下はもう動いている。女の私だったら修道院から女の子一人連れ出してもおかしな噂は立たない。だから大丈夫。今から行こう」
ジェットは私を真っ直ぐに見つめた後、がっくりと頭を下げ、ふううと大きな溜息を吐いた。
「これは俺が締め出すな言ったからか? そんな事言ったばかりの俺が、手伝えないって言えるわけがない。これは策略か? 俺を説得したあの可愛いパフパフ攻撃も計画の内だったのか?」
ジェットは壊れた何かのようになって、ぼそぼそぼそぼそ意味のないことを呟くだけである。
「嫌だったら一人で行くよ。締めだすなって言うから相談しただけだし」
「お前、俺が惚れているからってその傲慢は無いと思うな。だよな? ありかなしじゃ無いだろ? ああ、それでも俺はどこまでもついてくぞ。そんな俺に人生失敗コースを笑顔で差し出すって悪魔だろ? ねえ?」
ジェットはかなり壊れている。
そんなに私の魂リーディングから遠ざけられた事、すっごく傷ついちゃってのか。
そうだよね、よく考えてみれば、もしジェットに同じことされたら、私は物凄く許せないってか、あら。
私はジェットに飛びつくようにしてしがみ付く。
飛び掛かった感じなのに避けないで抱きしめ返すジェットは流石。
「おおっと。どうした」
「ジェット、やっぱ好きだあああ」
「お、おお。この悪魔め」
ジェットは律義に抱き締め返し、ただ舌打の音も聞こえた気がするけど、幻聴?
まあいいや。
とにかく一路ディアドラの所に急がねばいけない。
きっと寂しい思いしているはずだから、私がいるよって教えてあげなきゃ。
「じゃあ、行こう。ジェット」
ジェットは、大きくハアアアと溜息を吐いたあと、着ていた余所行き用ジャケットを脱ぎ棄てた。それから私に右手を差し出す。
「今すぐって、俺は何の準備もしてないぞ。今すぐ俺を連れて行くってことは、冒険の準備は万端だってことだよな」
私は大きく頷き、魔法収納からジェットにぴったりな冒険用ジャケットやパンツ、シャツと、次々取り出して彼に放る。ついでに自分の物も取り出して、ロングスカートを下に落とし、ブラウスのボタンに両手をかけて。
「待て」
「うん?」
「うん、じゃない。気安く男の前で服を脱ぐんじゃない」
「ジェットこそ私の前で脱いでるし」
「だが、君は――」
ジェットはやっぱり溜息吐くと、くるっと私に背を向けた。
心なしかジェットの肩が落ちている。
なぜ?
まあとにかく私は着換え終え、さあ飛ぶぞと応接間の窓を開け広げる。
そうそう、収納から陸上魔導ボードを取り出して。
「ディ。まさかと思うが、自分家の二階の窓から出て行くつもりか?」
「思い立ったら行動でしょ。脱いだ服頂戴。片付ける」
珍しく畳みもしないで丸めただけの服を抱えてきたジェットは、その服団子を私にぎゅうっと押し付ける。多分半分嫌がらせ。でも彼は私の希望を叶えようと頑張ってくれる人でもある。私の提案を吟味するためか、既にベランダに出ている。
だけど、あれ? 大きく溜息吐いた後、なんか急にがっくりと肩を落としてベランダの柵に寄りかかってしまった。
「落ち込むくらい嫌だったら残っていいよ。私は絶対に行くけど」
「嫌だとも言っていないし、俺を置いては行かせない。俺が落ち込んでいるのは別の理由だから気にするな」
後ろを向いたまま、肩を落とした背中を見せつけられて、気にするな言われてもってやつである。こんなにあと引くくらいに傷つけちゃったのか。
私はジェットを後ろから抱きしめる。
「ごめん。もしも私がって……考え直したら? ジェットを締め出した行為と同じことされたら? ……キツイって……」
私はジェットを慰めようと初めてジェットの立場に立って思い返して、慰めようと思ってた言葉が全部脳みそから弾け飛んだ。
ジェットに私がしたように追い払われたらって、許せねえ、マジ許せねえ。
私がジェットにやったことって!!
「うわああああああ。感情のまんま締め出してごめん!!」
「それはもういいから」
「良くないよ!!」
「いいんだって!!」
「良くないって。だって、だって、ジェットをこんなに落ち込ませてる!!」
「俺が落ち込んでるのは――」
ジェットは少々乱暴に振り向いたが、それまでに流れるようにして背中に貼り付く私を引っぺがして私が彼の顔に向かい合わせになるように持ち上げてもいた。
こんなに無造作に持ち上げられた事に抗議するべき?
というのは全く頭に浮かばなかった。
だって、キス、された。




