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ジェットの好きは変わってはいけない

ジェットはスピネル家の応接間に押し込められていた。

室内ではマイナムに持て成しをさせ(監視?)、ドアの前にはスピネル家の騎士二人を立たせ。……十代の青年にこれって、物々しすぎる!!


で、応接間にて待たせていたジェットは、私達が応接間に入るなり、私達に対して、いえ、私自身に絶交を突きつけた。


もう私のことは忘れるようにする。だから個人的に二度と会わない。

だから、婚約破棄、だ?


ジェットからの婚約破棄、これは願ったりのはず、だった。

私は平民の孤児で、伯爵夫人なんて絶対に無理。

町に買ったあの家で老後を一人でのんびり過ごす、もともと決めていたそんな生き方が一番私に見合っている。


だから、ジェットの気持が薄れると嬉しいなって、考えていたりしたはず。


だけど、絶交することは一度だって考えていなかった。


「君はいつだって俺を締め出す」


そうじゃないって、反射的に思った。

老後のためのあの家がギルドの近くなのは、ギルドに顔を出したジェットがいつだって立ち寄ってもいいからで。

身分違いでも私達はいつまでも友人なはずで。


「いっしょに十六階の海に行こうって約束したのに。約束破るの」


違うそうじゃない。そう返すのはどうなんだと、マイナムがぼそぼそ煩い。

でもジェットは約束破る人じゃないから!!


「私は凄い楽しみだった!!だから徹夜して魔導ボード仕上げたのに!!通常三速を五速切り替えにした最高ボードは、ジェットが一緒に行ってくれるって言ったから頑張ったのに!!」


「うぐ、すまない」


「すまない話じゃない!!コラ、ディ。勝手に魔道具作るなって――」

「親父殿、余計な口出しは今は」


親父殿はマイナムが引っ張ってくれたが、私とジェットの間は何も変わらない。

一瞬口ごもったはずのジェットだけど、完全なる終わりを吐きだそうと深呼吸している?


「ジェットは私に一緒にいて欲しいって言ったじゃないか。それを自分で破るの?」


「ああ言った。受け入れてくれた君には感謝だった。君が俺を受けいれ好いてくれた一端は、こんな遊び友達な部分があるからだってわかっている。わかっていたが、今の俺にはそここそが耐えられなくなったんだ。凄く虚しいんだよ」


「今までとどう違うの? 前は虚しくないのに、どうして今は虚しいのって痛い。何で叩くの。マイナムは余計な事をしないで!!」


「煩いのはお前だ。聞いていられない。オブシディア殿、こいつは外見からして幼いが、中身はもっと幼いんです。あなたの気持はわかるが、目の前の女が育ってない胸と同じく、情緒だって十二歳ぐらいの成長しかしてないんですよ。だからってあなたが我慢ばかりは大変だ。この馬鹿では話し合いも出来ないでしょうが、せめて今まで抱いていた憤懣はこの馬鹿に伝えるくらいはした方が良いです」


「マイナム!!」


「ほらそこだ!!お前は黙って話を聞くをまず学べ!!」


「マイナムの言う通りだな。殿下、まずは出ましょう。二人だけにした方が良いでしょう。さあマイナムも」


親父殿はマイナムと殿下を連れて応接間を出て行き、応接間は私とジェット二人だけとなった。私は親父殿に感謝を捧げる。これでジェットが私を納得させる事無く部屋から出て行く、なんてことは出来なくなった。


私は大きく息を吸い込んで冷静になれと自分に命じた後、顎をグッと上げてジェットを見つめる。

殿下の話をジェットと聞いたのは、まだほんの二時間前程度。

それなのにどうしてこんなに距離があるように見えるのか。


「じぇ」

「ディ」


ジェットは私と目線を合わすと、ふっと微笑んだ。

泣きそうな顔にしか見えなくて、私の胸はきゅっと締め付けられる。


「どう違うの? 前と今は」


「君は俺を締め出した」


「そんなのよくある」

「今回は違う!!」


「ジェット」


「今回は違う。君の魂に関わる、君が君でなくなるかもしれない最後かもしれない場面で、俺は君に締め出されたんだ」


「だって、」


私の両足はなぜか力を失って、私はソファーの背もたれを掴む。

私の手も震えている?

どうして?

ジェットと人生が交わることなんか無いって、婚約した後だってわかっていたことで、ジェットこそ私への執着を無くせればいいよなって傲慢にも思ってたじゃないか。――なのに、なのにどうしてこんなに動揺しているの?


私は動揺している自分が情けなくて悔しくて、手に触れたクッションを掴む。

それで、そのクッションでジェットに殴りかかる!!

痛くないだろうが、バン、バンと、思いっ切り殴りつける。


「ディ」


「だって嫌なんだもの。魂が傷ついて私じゃなくなった私に寄り添うジェットは嫌だ。私じゃない私を見て平気なジェットは嫌だ。私じゃ無くなったって、ジェットが辛くなるのはもっと嫌。なのにジェットは絶対に最後まで寄り添うってわかっているから、もっと嫌。それだけなのに!!」


バン、バン、バン。


「ディ」


バン。


「ジェットの好きが純粋に好きじゃないとやだ!!ジェットの好きは私が好きな好きじゃないとヤダ!!ジェットの好きが変わったら嫌だ!!ジェットの私への好きが義務とかに変わっちゃったら最悪じゃないか!!わかれよ!!」


ばひゅ。


ジェットを殴っていたクッションはジェットに奪い取られ、放り捨てられて床にばひゅっと潰れた。それからジェットは私を彼の腕に閉じ込めた。私こそクッションのようにして。


「ジェット」


「――もう何も言わないで。俺も前言撤回する」


「十六階には行くよね」


「婚約破棄の撤回だ。ちゃんと行くから、今は黙って」


私は黙ってジェットに抱きしめられるままにした。

やっぱり伯爵夫人にはなれそうもないから私が彼の婚約者でいない方がいいけど、だけど、ジェットと遊べなくなるのはもっと嫌だ。

だから、絶交が無いってことで、物凄く嬉しくて顔がにやけた。


「じぇ」

「黙って。君が十二歳から大人になることはないよって、君が何か言う度にもう一人の俺が俺を説得してくるんだ。だから、今だけちょっと黙っていて」


「うん。ジェットがいない世界は嫌だって、今度言う」


私を抱く腕が強くなった。

そして少々かすれ声の呟き、ぼやき? が聞こえた。


惚れた俺の負け?

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