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殿下、罪悪感などいりませんよ

私は自室にて親父殿によって催眠状態にされ、自分の魂に刻まれた記録とやらを読み上げていた。その状態の私を見守っていたのは、術者である親父殿とそれをするように望んだ殿下である。


その魂のリーディングは、前の生の私が能力を奪われて殺されたところで終わったのだが、立ち会っていた親父殿はもちろん殿下こそ打ちのめされてしまった。


私も自分が何を語り前世がどんな目に遭ったか覚えていて、これはちょっときついなあと自分でも思うので仕方がない。

彼等は血も涙もない為政者となれるが、それは弱き者の平和や幸せを守るのが大前提であるからして……虐待話はきついよねえ。


さて、なぜこんな魂のリーディングをしたのかと言えば、二日前のディアドラが襲われた事件について解決方法を探るためだ。

もしかして魂に傷がつくかもしれないこの魂のリーディング。

これを実行するように殿下が私に頼みこんできた時に殿下から告白もされたが、なんと殿下は人生を二度繰り返しているんだそうだ。


だから異端の秘術(ゼノアルカナム)は使い切った状態で、自分は国王になる資格など無い簒奪者なんだよ? 何を馬鹿な事を。

いいや私は馬鹿だ、と殿下は言い募る。

ディアドラを失った世界に復讐し、今度こそディアドラを幸せにしたかったのだと、そんな私利私欲のために私は国民に使うべき異端の秘術(ゼノアルカナム)を使い切った馬鹿者だ、と。


あなた以外の王はありませんよ。

だから殿下の頼みだったら、秘密を打ち明けられずとも私は受け入れましたよ。

魂が傷つき今の私でなくなるかもしれない危険性があった、としても。


だって今回魂のリーディングを受けた事で、私の魂の中にいた、あの哀れなだけの少女が救われた気がするのだから。

だから良いんですよ、殿下。


私は部屋の隅で私と親父殿を見守る殿下を見つめ、殿下へと右手を差し出した。

彼が一歩踏み出せるように。


殿下は私の右手をぎゅっと掴み、淑女にするように指の関節に口づける。

彼からの、ありがとうって感謝だ。


「ありがとう。ディ」


「殿下。その頬の怪我、治させてください。ジェットが申し訳ありません」


「ハハハ。頼もう。ジェットが処刑されたら大困りだ」


私が魂のリーディングを受けることが許せなかったジェットだ。

一緒に殿下の秘密を聞いたくせに、守るべき殿下を殴ってしまうなんて。

いや、これは私のせいか。

ジェットは絶対に立ち会うなって、私が彼を締め出したから。

私は殿下の頬に右手を翳す。

殿下の頬から内出血の赤みや青みがすぅと消える。


「君の回復術はすさまじいな。あいつらが欲しがるわけだ」


前回の生で殿下の妃となったミーシャという少女は聖女だと自称して様々な悪事を働いたのだそうだが、その力が私から奪われていたものだった。

今回は力を奪えず、それに殿下がミーシャの家とその家が係わっていた商会を悉く潰したので、彼女は表舞台から完全に消えていた。はずだった。


まさか、全くの別人どころか架空人物に化けて学園に潜り込んで来るとは。


コーデライト家の娘はアスターシャただ一人で、双子などでなかったのだ。

友人の娘としてコーデライト家に潜り込んだミーシャは、アスターシャ自身とアスターシャの友人のセイラ・モローに洗脳か幻惑をかけて自分(ミーシャ)がアスターシャなのだと思い込ませていたらしい。常にアスターシャ(ミーシャ)を罵るように二人に仕向けていたのは、コーデライト家の娘達についておかしいと周囲が係わってこないようにってこと。


コーデライト家と繋がりある者だったら双子じゃないってわかるはずだが、常に下品で暴力的な虐げをする二人を見ればコーデライト家と関わりがあることこそ貴族ならば隠す方に動くものだ。醜聞あれば家族でさえ切り捨てる、貴族の習性を利用したミーシャ恐るべし。


私だって、アスターシャ(ミーシャ)がロアーで、ミゼルカ(実はアスターシャ)とセイラがミドルという点で、おかしいと思うべきだった。ごめんなさい殿下。


どうしてここまで彼女がしたのかは、もちろん執拗な殿下の追及の手から逃れるためでもある。が、前回と同じく、今回も殿下の妃となる野望を抱いていたに違いない。

ディアドラと自分が扮するアスターシャ・コーデライトの外見を入れ替えたミーシャは、なんとディアドラとして殿下にすり寄ったのだ。


恐らくも何も、彼女はレイ君が殿下であるとわかっていたから、殿下に愛されるディアドラの外見を奪ったに違いない。

だが、彼女がディアドラになり変わっても、殿下に愛されるはずはないと言い切れる。けれど実行したミーシャが可能だと思い込んだ理由も、結果を見れば理解できた。

目の前で起きた事を見ていた私でさえ目を疑うぐらい、今の二人は骨格まで完全に入れ替わっているような状態なのである。


しかし、殿下がディアドラを見誤ることなど無かった。

殿下の愛もあるかもだが、我らにはジェットという真実を見通せる恐るべき目こそある。

ちなみに、殿下はジェットと視界を共有しただけでなく、敵味方を見分けられるスキル? にてディアドラ達をずっと監視していたらしい。


誰かになり変われるスキルを人殺しまでして奪ったのに、骨折り損だったなミーシャ、と罵ってやりたい。


それでもって現在。

未だにディアドラは元の姿に戻れていない。

ディアドラが好きで好きで我慢できない殿下には、この現状は大変つらいものがある。


殿下はディアドラを保護したい。が、今のディアドラの外見はアスターシャだ。

ディアドラを保護したがために、殿下の想い人がアスターシャであったと世間に噂が広まっては大変だ。二人が元に戻った後も殿下はアスターシャを娶らねばならない状況となる。


だからと言ってディアドラの姿となったアスターシャを殿下が見舞うなんて、今の殿下には絶対にできやしない。殺しそう。


殿下はもうボロボロだ。

自分自身でなくなったと嘆く愛する人を慰めることも出来ず、化け物のような事をしでかしたアスターシャを断罪することも出来ない。


アスターシャを殺したところで、ディアドラが自分の姿を取り戻せるかは不確定。

逆に酷い怪我か何かを負わせた途端にその姿をディアドラに返される、という可能性さえもある。

身動き取れない状況なのだ。


よって現在の二人はとある修道院にて幽閉され、彼女達の家族からも隠されてる。

そんな状況ならば、殿下こそディアドラに会いに行けるわけは無い。


だからこその今回の実験であるというのに、私の記憶はミーシャに能力を奪われて殺されただけしか残っていなかった。


「殿下、申し訳ありません。私の記憶は何の役にも立ちませんでした」


「いいや。とても役立った。あれが本当に化け物だってわかったよ。あれの存在が掴めなかったのは、その時々で外見も能力も他人から奪っていたって、君のお陰でわかったんだからな」


「殿下」


「私を間に挟んで話し合うのはいい加減にしてくれないかな。ディが元気ならば、まず着換えさせてお茶会だ。クローゼットに閉じ込めた猛犬をさっさと宥めねばならないだろう?」


私と殿下は顔を合わせ、ジェットに悪いが吹き出して笑った。

ジェットを交えて三人に戻ろう。

三人ならば良い知恵が浮かぶかもしれない。

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