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単に女の厭らしさなだけ?

待ち合わせ場所には殿下はおらず、ジェットだけが私とディアドラを待っていた。

イレギュラーの前に殿下を出すわけにはいかない。

よって昼食会は学食ではなく生徒会役員専用の小部屋で、という事になった。


殿下はディアドラにミドルクラスのレイ・インベル君に扮装していた事実を告白するつもりなのだから、時機を見てディアドラと殿下を二人にしてあげないといけないな。私とジェットは視線を交わ……せない!!


いつの間にか、ジェットの隣にアスターシャ嬢がいた。


いや、ジェットは騎士らしく殿下の姫君の為にディアドラを誘導しているのだが、淑女なディアドラが私の恋人だと思う青年と距離を縮めるはずはない。

ディアドラはジェットとの間に人一人置くことで、適正なる距離を計っていた。

そしてそのせいでディアドラこそが混乱していた。


どうして私とジェット様の間にアスターシャ嬢がいるの!!と。


私も疑問だし私こそ動かなきゃかな、と思っていた所である。

なぜならば、私一人が三人の後ろをボッチで歩く事になっている。

けれど私の動きが鈍いのは、後ろにちらちらと視線を向けてくるディアドラの不安そうな顔が極上に可愛いことと、お前が横に来いよ、とジェットが無言ながら変顔で私に訴えてくるのが面白いからだ。


いつもの憮然とした顔を作れば、アスターシャだってジェットから離れると思うのだけどな。それをしないで社交顔を顔に貼り付けているのは、きっと、殿下の想い人(ディアドラ)を脅えさせてはいけないと気を使っているのだろう。

殿下の為なら苦難の道を歩むとは、さすが殿下付きの騎士である。


!!


頭の中に鋏を振り上げて怒るザリガニの映像が閃いたのだ。

わかった、それが今のジェットの気持ね。

はいはい、動きますよっと。


「ジェット様とご一緒できるなんて誉れだわ。今日こそお父様とお母様が久しぶりに私を見て下さるかしら」


っと? とと?


アスターシャの惨めな告白はディアドラの同情を誘い、さらに私がアスターシャとジェットの間に割り込む機会の邪魔をした。

ここで可哀想なアスターシャをジェットから下がれ離れろするなんて、普通の感覚を持った淑女にはできない事だ。

だけど私は貴族の娘でも淑女でもないんだな。


なのでしっかりと動いた。

脱皮失敗のザリガニの死骸映像送られたら、お昼ご飯が食べられなくなるし。


私はジェットの左手を掴み、ぐいっと後ろに引っ張って下がらせた。彼が私の横に並ぶように。次いで、彼の左手を私の肩を抱えるようにさせたのだが、ジェットは抵抗どころか私の完全なるなすがまま。あ、嬉しさを噛みしめるように口元をニヨニヨさせている。


なんか突き飛ばしたくなったが、ここで負けてはいけない。ジェットの隣がアスターシャ嬢という、なぜ? という状況を打破せねばならないのだ。


「やっぱりジェットは人気者ね。焼ける」


「バカ。俺はお前だけだ」


お前の所で私の耳元に顔を寄せたし私の肩をぎゅっと掴んだ。

乗り過ぎだ!!


「素敵ですわ。私もジェット様とディ様のような恋がしたいですわ。大らかでお互いに嘘偽りのない恋心しかない、なんて。ねえ、ディアドラ様。あなたもそう思うでしょう」


「え、ええ。そうね」


ディアドラは笑顔で返したが、笑顔は強張っていた。

ディアドラはアスターシャの妹達によって、レイ・インベル君なんてこの学園にいない、という事実を暴かれ傷つけられているのだ。それなのに、そんな台詞を吐くんじゃない。だがアスターシャは妹が部屋を破壊した事を知っていても、妹がディアドラを傷つけた中身は知らないってことか?


あのピンクはディアドラを傷つけた一部始終を武勇伝として語るはずだ。

アスターシャが知らないってはずはないはずだ、よね。


「男の咄嗟の嘘はよくあるんだ。女性よりも口下手だからだろうな」


ジェット?

ジェットは私の視線を受けて軽くウィンクする。

暗くなったディアドラを慰めるための前振りって事?

よし、乗った。


「口下手なのに嘘が上手って、おかしな話ね。私は嘘は許さないわよ」


おどけた風にジェットの胸を突く。するとジェットは期待通りだよと私に囁く。でもって私の指を掴み……掴んで、なんと指先に軽くキスしてきた。


乗せられたの、私?


ディアドラとアスターシャが、ひゃあと声にならない悲鳴を上げた。

二人とも真っ赤な顔だ。

そしてジェットは二人に対して、どうだって顔を向ける。


「こういうこと。口下手だから行動する方が楽。それでこの怒りん坊に叱られないように自分の行動の理由を適当に言っちゃうんだ。ごめん。俺は君がキャンディにしか見えない呪いをかけられているんだよって。それでかえって怒られて、俺は反省するんだ。本当は君と話せるきっかけが欲しかっただけだって素直に言えば良かったって」


ジェットの微笑みはディアドラに向けられていた。

それでディアドラは気がついたのだろう。

ジェットが本当に言いたい事。


レイ・インベル君は、ディアドラと話したいがために嘘を重ねてしまっていただけなんだよ、って。


「あなた様のお友達がお部屋で待っていらっしゃるって」


「ああ。彼は君に」

「きゃあ。ジェット様ったらお茶目なんですね。でも男の子は嘘つきだって良くわかりました。気を付けないといけませんね。ディアドラ様」


「え、ええ。そうね」


「本当に気を付けなきゃですわよ。クラスから消えたデニス君なんか、婚約者がいるからこそ学園では遊ばなきゃって豪語してました。ディアドラ様は彼に煩くされていたから良くお分かりでしょう」


「え、ええ」


私は再び違和感の沼に襲われた。

だって、妹達に虐められていた昨日のアスターシャと、目の前のアスターシャの振る舞いが重ならないのだ。


いや、最初は淑女だった。

それがどんどんとメッキが剥がれるようにして、底意地の悪さを感じる振舞いを表にぽつぽつと出してくるのだ。


ぽつぽつ浮かび上がる思い出は、私一人なんです。


昨日のアスターシャの殆ど独り言のような呟きを思い出す。

そして校庭で見かけた水玉模様の生徒達の姿がぼんやり浮かんだ。

私は回復魔法の眼でアスターシャを見つめる。


「ディ。とにかく部屋に急ごう」


「あ、うん」


ジェットは私から離れると、女子三人を誘導するポーターのように前に立った。

そして私達は、アスターシャを真ん中にして三人並んでジェットの後に続く。


アスターシャの魔力オーラには穴は開いていなかった。

開いていたらどうなんだって話なんだけど。

だけど、生命の輝きとも言える魔力オーラと彼女の顔形が上手く重ならないのはなぜなんだろう。彼女のちぐはぐな行動と同じで、気持ちが悪い。

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