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なんでか知らんが穴だらけ

アシュトンは校庭と言ったなあ。

そこで人目を避けて敷地境界ギリギリを探索するよりも、実技授業で外に出ている生徒もいっぱいいるところを走ることにした。


それは正解だったと走りながら思う。

私はアシュトンが私に見せたかったものがわかった気がした。


子供の注意散漫なだけなら当たり前だし普通だが、時々フッと意識が消えそうになっていたり、反対に急に自分を取り戻してびっくりしているような、そんな危うさを持っている生徒がちらほらいるのだ。

それで回復魔法使いの目を使ってもっと深く掘り下げてみれば、このちょっとおかしな状態の生徒達の魔力の流れが通常の人と違ってところどころで滞っているのがわかった。


もちろん私は、土属性で金属錬成得意なアシュトンが回復魔法が使えることを知っている。昔の鬼ごっこの際に捕まった時に、なんか吐かなきゃいけないからと回復魔法を教えたのだ。

だから絶対、アシュトンにはこれが見えている。


「水玉みたいに魔力回路に穴があるなんて。なんでだろ。いつからだ?」


これはアシュトンに聞かねば。

…………。

アシュトンにかまうなってマイナムに釘を刺されていた。


「とりあえず教室に戻るか」


戻るのが早すぎだと叱責されたら、それこそ穴あき生徒達の不思議についてアシュトンに意見が聞けるチャンスだ。

そう思ったのだけど…………アシュトンは私を叱責するどころか教室にいやしなかった。奴は私不在の授業を楽しいものにして、あっさりと姿を消していたのだ。


がやがやしいクラスの面々のお喋りからは、アシュトンが人気講師になってしまったことが伺える。貴族に友達がいなかったがために、第四騎士団送りになったあの貧乏くじ男が? そんな簡単に人気者になれるなら、大昔にやっとけ!!


私を教室から追い払った後、彼はロワーの教師として教科書を朗読するどころか、魔力が少なくても発現できる土魔法を生徒達に教えていたのである。


土に含まれたミネラルを抽出し、小さな宝石を取り出す手品みたいな可愛い魔法。

けれど、使い方によっては武器を錬成したり魔力を込めて宝石を魔石にしてしまえたりと、とっても実になる魔法だ。


そして奴は私が戻って来る前に、残った時間は自由研究をしておいでと生徒達に言って授業を終わらせていたのである。今日の君達は一人を抜けて全員がAだ、と捨て台詞も残して。


そうだな、あの日はお前にとっ捕まったのだから、次の鬼は私だったな。

追いかけてとっ捕まえてみろとの宣戦布告か。


「ディ。ちゃんとノートにまとめたから」


がっかりしていると私を誤解したディアドラが、私に自分のノートを差し出す。

私は笑みを見せながら、ありがたくディアドラからノートを受け取る。

が、私はこの魔法はよく知っている。悔しさを思い出すと、プルプル震えた。


この魔法でアシュトンは魔剣みたいな剣を地面から引き出し、八歳児でしかない私にその大剣を振りかぶって来た鬼畜なのだ。


「ディ。明日の授業は今日の復習らしいわよ。明日もきっと楽しいと思うわ。って、ディ!!」


天使だなと、私はディアドラを抱き締めていた。

こんな可愛いディアドラを囲い込みたくなった殿下、わかる。


「ディアドラ。お昼に行こう。ご飯食べながら色々教えて」


「うん。午後の授業もアシュトン先生だったらって思うわ」


アシュトンは魅了魔法は使えないはずだったけどなあ。

私は苦笑いをしながらディアドラと手を繋ぎ、教室を出ようと。


「お待ちになって!!」


私とディアドラを止める声に足を止めた。

両おさげにした紺色の長い髪に紺色の瞳の少女は、昨日私がパレルモの部屋に行く前に出会った少女である。そしてディアドラの部屋を台無しにしたピンク頭の姉である、アスターシャ・コーデライト伯爵令嬢だ。


「どうかしましたか?」


「いいえ、あの」


アスターシャは喋りかけた口を閉じると、私とディアドラに向けてぺこっと淑女の礼をした。それから自己紹介をし始めた。

これは好感が持てるとディアドラを見れば、淑女の鏡の彼女的にもアスターシャの素振りは合格な上、常に下に見られているディアドラには、礼を尽くして貰えたことでもう感激のようである。

幸せそうなディアドラの笑み、推せる。


「あの、ディ様には昨日は助けていただきありがとうございました。それからディアドラ様には、不出来な妹の行いで酷くご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。私が諫められれば良いのですが、なにぶん、私自身が無能な故、あの子は私の言葉など全く聞き入れず」


「まあまあ。良いのですよ。あなたがされた事ではありません。兄弟姉妹でも抑えられないってことはよくあることです」


「なんてお優しいお言葉。でも、ディアドラ様を傷つけたことは確かです。妹が壊してしまったものは私が、ええ、私の持ち物で取り換えの利くものでしたら差し上げます」


「こういう時は新品で弁償じゃないの?」


私の一言にアスターシャ嬢はうぐっと涙ぐみ、なぜかディアドラが私を睨んだ。

それでもって、ディアドラはヒヨコを守るメンドリみたいにしてアスターシャに腕を回して「私から」守ろうなんてしている。


「ディアドラ。こういう場合は」


「でも、ディ」


「いいえ。ディ様のおっしゃる通り。でも、恥ずかしながら、私は家ではそこに居るのにいない扱いですの。能力のない娘は家の恥。私の言葉など父も母も聞いてくれません。ですから、ミゼルカがした事は全部ミゼルカがしていないと言えばしていないことになります。あるいは私がした事に。ですから」


「弁償なんていいんです!!わかりましたわ。あなたの不遇はさぞ辛いでしょう。そんなあなたから何かを奪うなんてできません。私に起きたことはあなたには関係ない。あなたが心を痛めることなんか何もない。それでようございましょう」


「ディアドラ様!!」


やばいな。

私は危機的感想を抱いていた。

このままだと、私がアスターシャの妹にした顔面固定についても、やり過ぎだってディアドラに叱られそうな勢いだ。と、いうよりも、もっと切実な危機だ。


「これからお昼ですわ。一緒に学食に行きましょう」


ほら。


私は教室の天井を仰ぎ見る。

優しいディアドラ、お友達が大嘘つきのレイ君しかいなかったディアドラ、が、似たような不幸な境遇の少女を友人として求めるのは考えるまでも無い事だ。


「わたくしもご一緒してよろしいのですか?」


アスターシャの出した声は、希望ばかりを感じる嬉しそうなものだった。

こんな声を聞いたディアドラは、絶対に彼女を昼食会に招くのを止めないだろう。

レイ君がディアドラに謝罪する場であるというのに。


「ええ。ディは恋人とお約束がありますの。私はお邪魔む」

「の、訳無いでしょ。ジェットがそんな器小さい男だと思って?」


そうして私はジェットにイレギュラーが増えると伝言魔法を送った。

帰って来たジェットからのメッセージは、不機嫌極まる、というのが良く感じ取れた。了解、の一言だけとは。

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