殲滅兵器が実力発揮
書いては書き直し。
更新遅くなっていて申し訳ありません。
「ジェット。ロワーの教室はもうすぐだからここまででいいよ」
私は隣のジェットに声をかける。
たかが教室に行くだけなのに、百鬼眼スキルなんて凶悪な索敵魔法を展開しているヤバい人なのだ。戦力値がコバエ程度の少女に何をするつもりなんだ? と私は無意味にビクビクしてしまう。
ここはさっさとお別れすべき。
ジェットを騎士科の教室にお戻り頂かねば。
だけどジェットは私に応えるどころか、ミドルの教室の隅々まで索敵範囲を広げて確認しているじゃないか。
昨夜のディアドラを虐めた少女達を探すためだけに!!
見つけたら何をするつもりですか?
ご自分の評判などかなぐり捨て正義を執行しようとするあなたの姿勢は大変素晴らしいと尊敬ですが、巣穴に逃げた子ネズミに大砲をブチまかすのは単なる虐殺蹂躙でしかございません。
オーバーキルどころじゃないのよ?
社会的にあなたこそ死んじゃうかもよ?
「ディ、心配しなくて良いのよ?」
ディアドラが私の不安の理由を勘違いした。
それで私から再び離れようとしたので、私は彼女を逃がすまいと彼女の腕に自分の腕をさらにしっかりと絡ませる。
そこで気がついた。
ディアドラが離れようとした本当の理由を。
昨夜の嫌がらせの犯人達が、ロワークラスの扉の真ん前で待ち構えていたのだ。
私は爪先立つと、ジェットの頬に軽く口づける。
ジェットは全ての索敵アンテナを一瞬で落とし、少々呆けた顔で私を見返す。
「送ってくれてありがとう。お昼は一緒に取れるかしら?」
彼は私の素振りに呆けていたようだが、それも一瞬だ。すぐに私がなぜそんな行動をしたのか了解したのだ。彼はちらっとロワークラスの方へと視線を動かして探していた女性と二人の姿を捕らえると、ええ?
空いている方の手で私を自分の胸に引き寄せ、それから、私の額に口づけた?
「きゃあああああ」
「うそおおおお」
「いやだああああ」
外野の女生徒達の叫び声は、私の心の中の叫び声と一緒だ。
ジェットおおおおおお!!
「じ、じぇ」
「愛する人。昼と言わず、いつだって俺を呼んでくれ」
そして固まった私を解放した後に、彼はディアドラに声をかける。
ディを頼むね、と。
「え、はい」
「昼休みを楽しみにしている。俺の両手の花を妬んだ友人も参加するかもしれないが、それは構わないかな?」
「は……い」
ディアドラは魂を抜かれてしまった。
ジェットは自分の外見と笑顔の効果に、もう少し頓着するべきだと思う。
私は注意喚起の気持を込めて、ジェットの腕を抓る。
「何? ディ」
「抓られて嬉しそうな声を出さない。周りを見て。あなたの笑顔でみんな蕩けてしまったじゃないの」
「ハハハ。愛する人。はいはい。俺は何だって君の言う通りにしよう」
気さくな笑い声と、気安い喋り方。
蒼炎の騎士様が今まで簡単に見せた事も聞かせたことも無い、振る舞いと声だ。
そんな衝撃を爆撃されたなら。
「きゃあああああ」
「うわあああああ」
「ジェット様あああああ」
ミドルの教室前は阿鼻叫喚となった。
己の魅力爆撃の威力を知ったジェットは、右手の拳を口元に当てて今にも吹き出しそうな自分を抑える。きっと腹筋がプルプルしているはず。
――昨日送られてきたジェットの裸の映像を思い出す。
あんなの頭から追いださなきゃと頭をぶんぶん横に振る。
「どうした?」
「な、何でもない」
「そうか。じゃあ行くよ? なんだか女子が暴徒化しそうだ」
「暴徒化するんなら守ろうか」
「俺に守って欲しい言えよ」
だが冗談めかして笑うジェットの目元は笑っておらず、彼の視線はロワークラスの前にいた少女二人の動向を追っていた。
彼女達は今はもう自分のクラスに戻って消えたが、私とジェットの絡みを見せつけられた時の表情はそれはもう令嬢にあるまじき嫉妬に狂ったそれだったのだ。
「――顔が異常なほどに歪んでいた」
「気がついてたか。顔面の神経と筋肉をいじくったの」
「いじくった? 君が?」
「そう。心の汚さが一番出ているあの顔に固定してやれば、少しは自分の行いを顧みると思わない?」
「――恐らく、回復魔法をもじった奴だと思うんだが、遠隔で可能なのか?」
私は軽く踵を床に打ち付ける。
それでもジェットは何も思い至らないのか不思議顔だ。
「私とあなたは床で繋がってます」
「そうだけど、あ」
ジェットはぐんと勢いよく顔を少女達が駆け込んでいった教室へと向け、しばしそこで動きを止めた。恐らくも何も、彼は私がしたように床板を通して教室に逃げ込んだ後の彼女達の気配を追いかけたのだろう。
ジェットは私が使った魔法を自分でも再現したがる。
「だからといって、追い打ちはいけないよ。アリシアさんルールの違反」
「なーんもしてないよ。ってか、誰の足止めもできなかった」
「何の関係のないミドルクラス内の生徒を実験体にしたのか?」
「俺に何でも捧げるって言ってくるじゃないか」
ジェットは悪人風に笑うと私の肩を軽く叩き、その後は踵を返してそのまま歩き去っていく。「蒼炎の騎士」様には誰もが道を開けるので、それはもう一瞬のようにしてジェットの姿なんか一年生のクラス廊下から消えてしまった。
たぶん、騎士科の同期を実験材料にして、今さっき考え付いたらしい足止めとやらの技を練りたくなったのだろう。
物凄い勢いの早足だった。
ジェットの同期生ご愁傷様です。
「オブシディア様とお昼休みの約束はあるでしょう。元気出して」
…………。
どうやらジェットの後姿を見送る私が、ジェットいなくなって落ち込んでいる風にディアドラには見えたようだ。
「私にはディアドラがいるから平気だよ」
「私もディがいるから平気。うん。レイ君なんか、うっ」
「じゅ、授業の準備もしなきゃ。ね、ね、急ごう」
私は私のせいで落ち込みかけたディアドラの気持を切り替えるべく、今日から私の教室となったロワークラスに追い立てた。
授業が始まった数分後に、落ち込んだディアドラ理由に授業をぶっちぎれば良かったとすぐに後悔することになったけれども。




