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左腕が柔らかいなら右腕には鋼鉄を

「ああ、朝日が目に痛い」


「うふふ。私も」


ディアドラは私の左腕にしがみ付いてぶら下る。

私と彼女は昨日よりもさらに親密になっている、と私は笑う。

ベルーダ姐さん達が、一緒に飲んで肌を合わせりゃ分かり合えると言う通りだ。


昨夜は彼女を慰めるため、一緒にシャワーを浴び、夜通し語り合った。

もちろん空きっ腹で過ごしはしない。

収納魔法からダンジョン探索用の携帯食とスぺスの実を取り出し、それを肴に夜通しの宴会をしたのだ。

スぺスの実は飲んだことはなかったらしい彼女はダンジョン探索について興味津々となり、いつしか殿下への恨み言よりも今度冒険に行きましょうの話題に移った。


ディアドラは下に弟一人と妹が二人いる長女の為か、実家では幼い弟妹の世話のために友人どころか一人で出かける事も出来ず、学園に来ても学園の敷地外に出たことは無かったらしい。お金が無いから街に出ても仕方がないわと笑うが、彼女は世間知らずな完全なる箱入り娘であった。


弟妹達の存在で彼女は気がついていないが、世間から隔絶された環境だった彼女は孤独だったに違いない。だからこそ初めての友人であるレイ・インベルに依存してしまい、彼に裏切られたと思った時には世界が壊れたぐらいに嘆いてしまったのだろう。


ということで、私は彼女をしっかり慰め、後日ダンジョンへのお出掛けの約束もした。よってディアドラは私という女友達にしっかり心を開き、とっても依存しちゃっているのである。


「重いぞ、こら」


私よりも背が確実に低い癖に、私の腕に当たるディアドラの胸は私のものより確実に大きいと主張してくる。しかし憎たらしいと思うよりも、ほっわほわな感触に幸福感ばかりだ。男性が女性の胸の大きさに拘るのは、大きければ大きいほど幸せが詰まっていると思うからかもしれない。


じゃあ、女性は男性のどこに幸せを求めるのかな?


そんな疑問を抱いたせいで、これが答えだ!!という風に、私の脳裏に昨晩私を悩ませてくれた悩ましき男性の上半身の裸像が浮かんだ。

う、わ。鍛え上げられた胸筋が凄いね。


「どうしたの? 嫌だった?」


「いや。幸せ過ぎてヤバイなって思っちゃってた」


「うふふ。ディったら。でもディったら不思議ね。時々今みたいな男の子みたいな言葉になるんだもの」


「平民生活が長かったからかな。ディアドラといると気が弛んじゃって。嫌だったら直すよ」


「ううん。このままでいいわ。ディの喋り方はやんちゃな王子様って感じだもの」


「王子様?」


「えへへ。ディが男の子だったら良かった」


ディアドラが私の重しになっていてくれて良かった。

ディアドラが可愛らしすぎて倒れちゃいそうだ。

殿下がこの子に夢中になるのは分かる。


「――今日は一日中くっついていちゃ、だめ?」


「くっ。今日どころか明日も明後日も、飽きるまでいいぞ」


「ディが俺にいまいちなのは、俺が男だったからか」


真面目にがっかりと落ちこんでる風の声音が頭上から聞こえた。

ジェット。


「ジェット。おはよう」

「あ、おはようございます!!」


私とディアドラの女の子の会話に聞き捨てならないことを言い放って割り込んで来たジェットだが、私達があげた挨拶は脳みそにしみこまなかったようだ。

挨拶を返してこず、ただじとっと私達を見下ろしている。


「ディアドラ、行こっか」


「待て。君は俺に酷くないか?」


「私、同い年の女の子の友達出来たの初めてで夢中なの」


ちょっと小首を傾げて言ってみた。

ディアドラがすると物凄く可愛いからと鏡の前でやって見たが、私がやってもそれほど可愛らしくはないと自分で思った。だけどジェットは可愛いと言っていたので、ほんとかよ、と思っての実験だ。


…………。


ジェットさんは目元に右手を当てると天を仰ぎ、何かに苦しんでいるように、全身に力を込めて踏ん張っている。


「行こうか。ディアドラ」


「ディ。私に気兼ねしないで良いのよ」


「気兼ね?」


「オブシディア様はディを迎えに来たんじゃないの。私は大丈夫よ」


ディアドラは私とジェットに気兼ねして、私の腕から腕を解いて離れた。

私はすぐさまディアドラの腕を掴んで自分の腕に絡め直させる。


「私が大丈夫じゃないな」


「王子様みたい」


「俺も大丈夫じゃないよ。王子様」


ディアドラがほんの少し頬を染めて喜んでくれたのは狙い通りだが、ジェットが私の右腕を私がディアドラにしたようにして引っ張って自分の腕に絡ませてくるとは何ごとだ。自分こそ王子様みたいだと私に言って欲しいのか。


――いや。私のことを王子と呼び掛けたな。

私はジェットへと視線を流して、愛いやつ、と呟いてやった。


ディアドラは声を立てずに肩を震わせて笑い、ジェットは――悔しい。


私の頬を赤らめさせたのだ。


ふっと微笑んだ彼は誇らしそうで、とても素敵でとんでもなく素晴らしい顔になっているのだ。


今現在私とディアドラとジェットの三人しかいない感じなのは、きっと周囲にいたはずの人達がジェットの笑顔に当てられて倒れているからに違いない。


「ジェット。あなたはもっと自分を知るべきよ。無頓着にホットな笑顔を振りまくから、周りの人達の脳みそが沸騰して倒れちゃったじゃない」


「ハハハ。の、わけあるか。だが、俺の笑顔で誰もが倒れちゃうんなら、お前等の教室まで送ってやるよ。お前等に何かする奴らは、俺の笑顔でやっつけてやる」


それって、私とディアドラのクラスに来て、昨日ディアドラに嫌がらせをしたピンクとテラコッタを確認するという事だろうか。


「ジェット。昨日の嫌がらせはロワーじゃなくてミドルの子」


「了解」


「ディ。オブシディア様は私の仕返しをしてくださろうとしているの?」


「ジェットは生徒会の風紀粛清担当。人の部屋を荒らしたり嫌がらせをしてくる人に対して、注意や矯正をするのが仕事なの。ねえ?」


「うーん。腐った奴が嫌いなだけだよ。趣味と実益兼ねているから、君は気にせず、この先輩に甘えておきなさい」


ディアドラは、ぽっと頬を赤く染めた。

ジェットのこのいかにもな「気さくで頼りがいある上級生風の笑顔」なんて私は見たことないぞ、と私はジェットの肘の内側をゴリっと押した。


「いっつ。お前!!」


上腕骨内側上顆炎じょうわんこつないそくじょうかえんじゃないの? 剣の振りすぎだと思いますわ。騎士様」


「お前は」


「ふふふ。ディは焼餅焼きさんなのね。オブシディア様。ディ以外に笑顔を見せるのは厳禁ですわ」


「ち、違うから。って、ジェット、嬉しそうに笑うな」


そしてこの騒々しい三人組は、学園の生徒達の目など気にせずにロワーの教室へと真っ直ぐに向かったのである。

後ほどに、もう少し周囲の目も気にすれば良かったな、と後悔することになるのだが。

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