表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/96

お姉さまたちへ挨拶したその後で

私とアスターシャは、特別室フロアにてそれぞれの挨拶相手の為に分かれた。それからそれぞれが目的の令嬢の部屋のドアをノックした。

私なりに少々緊張しながら。

だがしかしパレルモは、私に取る時間は無いようであった。


今度から気を付けなさい、明日からの学園生活が良いものになるように祈るわ、という定型文を口にするや私を部屋から追いだしたのだ。

私は彼女の派閥に入らなくて済んだという安堵はあったが、完全なる敗北を喫したような気持でもあった。


だってこれじゃ、パレルモに犬みたいにシッポを振ったのに私は全く相手にされなかった、というデモンストレーションをしてしまったと同じだ。


三下以下のコーデライト嬢(妹)に粋がっている場合じゃなかった。

なんて情けないんだとグラグラしながら自室に戻って見れば、部屋のドアの前には毛布を抱き締めたウサギちゃんが待っていた。

囚人みたいに頭を下げ、路地で震える孤児みたいにして。


毛布が幼児一人ぐらいが入っているみたいに膨らんでいるのは、恐らく毛布を鞄代わりにして私物をそこに入れているからだろう。


「どうし」

私は何があったのかを尋ねかけた口を噤み、とにかくディアドラを部屋の中に引き入れなきゃと部屋の鍵を開ける。殿下から贈られたドレスの繊細な生地が破れてたり汚されているのだ。今問いただすよりも、人の目のない所に今すぐに匿ってやるべきなのだ。


「適当に座って寛いじゃって。持って来れた私物はそれだけ?」


ディアドラは無言のまま頭を上下させる。

別れた時の花が咲いたような笑顔はどこに行った。

私は自分のクローゼットを開け、けれどディアドラには見えないようにして収納魔法から衝動買いしてた可愛い部屋着を取り出す。それからついでに、殿下に向けて伝言魔法を飛ばす。


「ディアドラに寮で何かあり。今晩私の部屋に預かって次第を聞く」


これで殿下は…………勝手に動きそうだな。

追加でジェットにも伝言を同じ文で送る。

よし報連相終わり、私はディアドラだ。


「ディアドラ。とにかく持って来れたのを見せて」


「あの」


「あなたの私物が見たいのは、足りないものを融通できるか知りたいだけだから。部屋を荒らされて私物を台無しにされるって、私も経験済み」


「ありがとう。でも、」


ディアドラはソファにも座らず、自分の抱えている毛布をどこに下ろすか悩んでいるだけである。絨毯もソファも弁償を考えて汚せないし、食事するテーブルの上に荷物は置くものじゃ無いって躾で、彼女は身動き取れなくなっているのだ。


殿下が彼女を可愛がるわけだ。

何があっても品性を落とさず、所作がクッソ可愛い。

私は自分が抱えている物を一旦ベッドに放り、その代わりとして適当なカバー用の布を引っ張り出してそれをテーブルの天板に敷く。


「これなら気にならないでしょ」


「あ、ありがとう。あ、ごめんなさい」


「いえいえ。こちらこそごめんなさい。舌打なんかしちゃって。でもこれはあなたをこんな目に遭わせた人に向けてだから」


あとでディアドラの部屋の被害を見に行かねばな、と頭の中にメモをする。

ディアドラが持って来れたのは、破れた教科書五冊に専門書二冊、解体されたぬいぐるみ、それから破かれているが繕えば何とかなりそうな私服一枚と下着数枚だけだった。


「学園に通うための制服に文具一式、あと、昨日勉強していた教科書も無事。私の部屋に置いていて良かったわね」


「良かった、かしら?」


「ええ。部屋が整うまで私の部屋から通えばいいわ」


「でも悪いわ」


私はベッドに戻ると、ディアドラに渡すつもりだった部屋着を取り上げる。

白い生地は柔らかく滑らかで、体のどこも締め付けないけれど裾に向かって広がっていくきれいなラインだ。スクエアの襟元と袖口には繊細なレースが飾られているという、とっても乙女趣味なものである。

殺伐としていると癒しが欲しくなり、時々こうした可愛いものを買ってしまうんだよな。自分は着ないくせに。


「はい。シャワーを浴びてすっきりしましょうか。買ったはいいけどどうしようかと思っていた部屋着を使って貰えて嬉しいわ」


「あ、あの、ありがとう。あの、あなたが、ええと」


「どうしたの?」


「いえ。なんだか不思議で」


「不思議?」


「ええ。起きた事を良かったとか、私にあなたの服を渡すことが嬉しいとか、不幸な出来事を全部良いことにしていくから」


「だって、不幸になったらこんなことをした奴らの思うつぼじゃない。それに、本当に私には幸運だったわ」


「幸運?」


「ええ。今日もあなたとパジャマパーティが出来るわ。可愛くて買ったはいいけど自分に似合わなかった部屋着を、可愛く着てくれる人に渡せて有効活用できて良かった。ほら、私にはいいことづくめよ」


ディアドラはようやくふにゃっと嬉しそうに笑った。

でも両目からボロボロ涙を流しているので、彼女の涙に癒しを感じるどころか、痛々しさばかり感じて苛立った。だから、私は自分の感情を彼女から隠すために、自分の顔が見えないようにして彼女を抱き締める。


「ごめ、ごめんなさい」


「いいよ。私達は友達でしょう」


「ほんとうに? 嘘じゃなく?」


「本当よ。あなたこそ私の初めてのお友達だわ。あなたはそうじゃ無かったの?」


「いいえ。お友達だと思ってた。でも、最初のお友達が。……レイ君は、私に嘘ばかりだったの。私は騙されていたの。私が知っているレイ君は存在していなかったのよ!!」


うわ、バレた。

いや、どこでバレた? 殿下とマイナムからではありえないのは確実。ならば、一体誰が殿下の変装を見破ってディアドラに真実を暴露したんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ