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なりすましの伯爵令嬢

大がかりな茶話会でしかなかった歓迎会は、日が陰り始める頃にお開きとなる。

なんだか微妙な時間だが、仲良くなった上級生から誘われる本当の歓迎会が夜にあるのでその準備時間という事だ。

それは異性の先輩に呼び出されるものではない。

それだったら新寮生歓迎会ではなく、お見合い会、という名前になってるはず。


新寮生歓迎会に実際は、どの派閥へ加入するべきか新入生が上級生とお話して決めるというものなのだ。

だから新入生も上級生も互に無礼講で話しかけられるのである。


さて、私はジェットのお陰で歓迎会の後に、入寮のご挨拶のやり直しをパレルモに出来る事になった。これは殿下監修によるものなので、私にパレルモ派閥に入れという事なのだろうか?


確かに学園一の大派閥だから、私の今後の学園生活を考えれば無難な選択だ。

が、私は殿下の婚約者候補の評価をする仕事が…………殿下はパレルモ公爵令嬢も従姉のアイリスも選ぶ気など無いのか。

それどころか、殿下が彼女達を選べなくさせた理由を私に見つけて来いという無理難題だったのかと、たった今気がついて溜息が出る。


「わざわざのお呼ばれって何かしら~」


パレルモの部屋に向かう廊下にて、甲高い少女の声が響く。

鼻にかかったベタっとした喋り方は、貴族女子が決してしないものである。

発声法や話し方は、貴族家子供ならば必ずしっかりと躾けられるものなのだ。


商家の娘が派閥に勧誘された?

平民にも声をかける貴族もいたのか。


私は純粋な興味で声がした方へと意識を向けると、カラフルなドレス姿の少女二人と制服姿の痩せっぽちな少女一人を視界が捕らえた。


「ミゼルカ。後で教えますから、付添いはいらないわ」


「あら、お姉さま。付添いはお姉さまのことでしょう。お姉さまがコーツ様にお呼ばれするはずないじゃないの」


「そうですわ。コーデライト伯爵令嬢と言えば、ミゼルカ様では無いですか」


「セイラの言う通り。お父様にドレスの一着も買ってもらえない人なんか、伯爵令嬢なんていえませんわあ」


「いえ。でも、ご招待は私にしてくださいましたわ」


「お姉さま。制服姿の貴方は、ふつーに私の使用人だって思われたの。わたくしにご招待の声をかけるようにと、ね。おわかり?」


え?


私は不可思議な情景に驚きながら、さらに彼女達を詳しくと近づく。

だって驚かないわけない。


制服の子が貴族でしかない喋り方をしているのに、その子に対して伯爵令嬢じゃないなんて、貴族喋り方も出来ないドレスだけ派手な少女達が言いがかりをつけているのだ。ついでに、ピンクブロンドにピンク色のドレスで蛾みたいに派手なミゼルカ嬢と、紺色の髪に制服姿の痩せた子という対照的な二人が、実の姉妹であったなんて、驚くなという方が無理だ。


「わかりましたわ。私は戻ります。でも、そのブローチだけは外すべきだわ」


「はあ? ブローチがどうしたっていうのよ」


「それはあなたがつけちゃいけないの。昼間のロビエナ様達がコーツ様に叱責を受けたのを知っているでしょう。それは外しなさい」


ピンク色のドレスの少女の胸元には、大きな水色の宝石が付いた金色のリボンブローチが鎮座している。ドレスの地色のピンクが強すぎて、リボンの金色が目立たず埋没していて私の目に入らなかったようだ。

そしてその色の組み合わせは、我らが殿下を彷彿とさせる。


金髪碧眼は数多くいるから殿下じゃないかもだが、昼間のロビエナ達を引き合いに出して諫められている時点でミゼルカが着けちゃいけないもの確定だ。

私は物陰から出て行き、少女達の前に立つ。


「何よあなた」

「何か用ですか?」


「ミゼルカ、セイラ、この方は――」

「コーデライト伯爵家も地に落ちたものね」


ミゼルカ伯爵令嬢様は、伯爵令嬢が絶対に作らない顔で私を睨む。

反対に、制服姿の淑女は恥ずかしさを堪えた顔で俯く。


「あ~思い出した。平民上がりで体使って男を誑し込んだ人か~」


「あなたは、誰にも相手にされない伯爵令嬢でよろしくて?」


「それは私でなく、こっち。アスターシャ姉さま。双子なのに私と違って無能なの。だからお父様にもお母様にも愛されていないのよねえ」


「あら。愛されていないのはあなたでしょう」


ミゼルカは大きく肩を震わせた。

本人も分かっているから姉であるアスターシャをいびっていた?

けれどそうしたら、親がアスターシャにドレスも作らない理由がわからない。


「いいこと? 娘というのはその家の看板で名刺にもなるの。それなのに、あなた、発声法も立ち居振る舞いも全然なっていないわ。あと、そちらの方も」


ミゼルカの横にいるセイラをも笑顔で睨みつけながら言えば、二人は私の視線を避けるように左右に分かれる。それで私に道が開き、私は彼女達の後ろにて小さくなっている少女の左手を掴むことができた。


「あの」


「私はパレルモ様にご挨拶があるの。あなたもお呼ばれでしょう。一緒に参りましょうか」


「あ、その」

「だから、そいつは呼ばれてなくて、呼ばれたのは私なんだって!!」


「ひどい喋り方」


「平民が。いい気になって」


「平民でも、父が貴族だったから母がいつか父に会える日を望んで言葉を教えてくださいましたのよ。あなたは生まれも育ちも貴族の家なのに、どうして私達の言葉が喋れないの? お姉さまと一緒にお育ちになったはずでしょう?」


「あたしは喋っているよ。お前等と同じ言葉だよ!!」


「そう思うならあなたはそれでよいでしょう。でもご実家のことを少しでもお考えになるならば、あなたは上級生に挨拶するのは控えた方がよろしくてよ。あなたのせいでお家に一枚も招待状が届かなくなったら悲しいでしょう」


「そんなこと」


ミゼルカは私に掴みかかりかけ、私に再度睨まれた事でびくりと縮まる。

こういう人は自分と他人の力差を常に考えているので、とりあえず私の物理的強さぐらいは嗅ぎ取ったのだろう。ミゼルカの腰ぎんちゃくはミゼルカが引いた事で何もできなくなっただけで、他者の強さを推し量れないようであるが。


殺してやりたいって目つきで私を睨んでいる。

オレンジ色のドレスに、まるで葬式客のような黒い石と銀のリボンで作ったロゼッタブローチを付けた姿で。


パシュン、パシュン。

「あ、きゃあ」

「いやあ」


ミゼルカとセイラの胸にあったブローチの石が外れて床に落ちた

風魔法飛ばすぐらいいいじゃない。

特にセイラが飾っていた銀色のリボンで飾られた黒い石は、黒曜石ではなくジェットだったのだ。あからさますぎる。


私は二人が大事なブローチを拾おうと屈んだ隙に、左手を掴んでいた制服少女を自分へと引き寄せた。


「さあ行きましょうか」


「あの」


私に引っ張られて歩く事になった少女は、戸惑いながらも抵抗することなく私の歩幅に合わせて歩き出す。私はあの二人から少々の距離ができたところで、隣の少女に名を名乗った。あの二人に挨拶したと思われたくないから。


「私はデイジー・スピネルと申しますの。あなたは?」


「アスターシャ・コーデライト…………ですわ。あの」


「見ず知らずに余計なことされて困りましたわよね」


「いいえ。あなたのおっしゃる通り、妹をコーツ様の前に連れて行くのは自殺行為でしたから助かりました。殿下の色を勝手に身に着けて喜んでいるなんて、婚約者候補のコーツ様への嫌がらせにしかなりませんもの。それに、セイラも申し訳ありません。オブシディア様の色を」


「今までこんなことをなさる人はいなかったと先輩方は仰っていたわ。誰かが先導されているのかしら」


「――そのこともコーツ様は私にお尋ねになりたかったのでしょうね」


「あなたとコーツ様は個人的にお付き合いがあるのかしら?」


ぴた。とアスターシャの足が止まった。

それから私を見返したが、彼女の表情はぼんやりしている所ではない。


愕然?


「コーデライト様?」


「あの。そういえば、コーツ様は、私にどうしたのと声をおかけくださいました。何がどうしたのかわからなくて、そうしたら、あとで私の所にいらっしゃい、と」


「幼い時にお茶会か何かで」


「そう、そうですよね。それで、今思い出したのですけど、ぽつぽつ浮かび上がる思い出は、私一人なんです。スピネル様が仰った一緒に育ったはずってお言葉で、私はミゼルカと一緒にいる記憶が浮かばないんです」

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