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家紋に描かれる動植物には意味がある

殿下とディアドラの見守りをしていた私とジェットの前に、視界を遮る形で色とりどりの壁が出来上がった。新入生の少女達三人だ。彼女達の名前は、私の事はいないものとして視線も向けないんだから覚えなくていいかな。


さて、彼女達はペンサイズの細い金属棒を各々手に持っていて、魔力を無機物に流す方法を教えて欲しいとジェットにお願いしているのだ。


意訳、私の手を握って、ジェット様の魔力を感じさせて。

穿ち過ぎかな~。


「君達は騎士を目指しているのかい?」


金属に魔力を通す方法を知りたいのは、騎士科の生徒の望みそのものだ。

騎士科のトップ生は自分の属性を剣に付加して魔剣化できる。流すだけは誰でもできるのだが定着させるのは難しいから、魔剣化させた剣を振るえる人は羨望の眼差しで見られることになる。

ついでにジェットは炎属性以外も付加できるから、もう伝説の人扱い。


当の本人はそこまで崇められて居心地悪くて嫌がっているけど。

なぜならば、私が教えた魔導回路を愛用の剣に刻み込んで魔力を通し、属性についてはその都度切り替えているだけという、ちょっとズルしているからだ。


ちなみにその魔導回路は現在門外不出というか、二度と刻むな吹聴するなと私は親父殿に約束させられている。ジェットにも他言無用の契約魔法を施すぐらいの厳重さで、ジェットのお父さんが国の防衛のために騎士達の剣に同じものをと頼みこんでも駄目だった。国の兵士が強くなるのは良いことじゃないかと思うのだけど、親父殿の考えはよくわからない。


だから晩餐会の夜にこっそりジェットのお父さんを呼び、内緒ですよと彼の愛剣に魔導回路を刻み込んであげた。

ジェットのお父さんは私の手を握り、絶対に家にお嫁に来るんだよ、と涙を流して私に懇願して来たと思い出す。


あんなに喜ばれるのに、どうして親父殿は内緒にするんだろうなあ。

たいして難しいものでも無いのに。


そう、誰もが魔剣錬成できれば、ジェットに金属棒への魔力の流し方を教えて~なんて来る女の子に、別の男性を紹介して追っ払えるはずなのだ。


私は私の存在を完全無視している女の子達に視線を戻す。

どの子達も貴族家令嬢らしく着飾っているが、どの子も互いに装飾で被り合っている。仲良しだからと取るべきか、ジェットへの強い気持ちの表れと取るべきか。


彼女達はデザイン違えど、トリカブトの意匠のある銀の台座に黒曜石が鎮座しているというブローチやネックレスに指輪をと、それぞれ身に着けているのだ。


それ、オブシディア家の家紋とは違うけど、誰が見てもオブシディア家を連想してしまう組み合わせ。

騎士道、という花言葉を持つトリカブトだけでオブシディア家ってわかるから!!まるでジェットの恋人みたいって思われるから、止めて!!


ちなみに、復讐、厭世家、あなたは私に死を与えた、など、トリカブトの暗い方の花言葉が似合いそうなスピネル家の家紋にある植物は、献身という花ことばのモンステラだ。逆じゃないの? と思う。


でも今の私は献身そのものだな。

無視されようが静かに黙って控えている。


「私共は、ジェット様を追いかけてダンジョンにまで入るスピネル様に感銘を受けましたの」


私無視しているくせに、私の名前を出して来た。

でも意訳、ダンジョンまでジェットを追いかけて行くなんて浅ましくてびっくり、なんだよねぇ。


「ええ。スピネル様のように積極的って、私達にはできない事ですわ」

意訳、スピネルのような男に積極的な恥晒し行為は、私達にはできません。


「それにこれを機会にスピネル様と親しくなりたいのですわ。ジェット様はスピネル様がいつもお一人な事にお心を痛めているのでしょうし。ねえ、スピネル様もお一人は嫌ですわよね」


おお、ようやく私に振って来たが、意訳、仲間に入れて欲しいなら言う事聞けや、ですよね~。

以上、私の勝手な意訳だが、被害妄想?

でも、本日は名前呼び奨励なので上級生で面識のないジェットを勝手に名前呼びしても叱責はされないけど、同じ学年の私だけは家名呼びしかしない時点で、私とは近しくなりたくありませんと公言したも同様なんだよな。


そして彼女達は気がついていない。

彼女達はペンサイズの細い金属棒を握った自分の手にジェットの手が触れてくれればいいなあ、ぐらいの気持だろうが、ジェットは邪魔をされた上に私に悪意を向けた相手を仕置きしたい気持ちで一杯だ。

だよね。


「そうだよなあ~。ディは凄いだろ。友人になりたいなんて君達はいい子だ」


猟犬、鼻が詰まったか?

嫌だこの人。彼女達の言葉を言葉通りにしか受け取って無い!!


「「「ジェット様ぁ~」」」


「いいよ。誰からにしようか。二人一緒?」


「じゃあ、私からお願いしますぅ~」

「あら、ではわたくしも~」


少女二人はいそいそとジェットに金属棒を握った手を差し出し、笑顔のジェットは二人の手を両手でそれぞれ掴む。


「んばぎゃ」

「ふんぎゃ」


ジェットに金属棒を持つ手を握られたご令嬢二人、令嬢とは思えない悲鳴を上げ、悶絶しながらぐしゃっとその場に膝を突いた。そしてジェットは彼女達から手を剥がすと、残ったもう一人に両手を差し出す。とっても嬉しそうにみえる、敵を屠ったばかりの戦士の顔で。


「さあ、次は君だ。属性違いの魔力を受けた手が痺れて痛いのは半時くらいだ。安心して手をお出し」


女の子の手の骨に鋭く尖らせた魔力を通したなんて、ジェット様怖い。

それ拷問にあるやつ。

私までもジェットに掴まれないようにジェットから手を隠す。


「さあ」


「い、いえ。友人のかい、介抱をしませんと。ねえ、って、うぎゃ」


少女の手を素早くつかんで、魔力を骨に突き刺した男は、手を離す時は虫の死骸を払うような仕草だった。この人はこんなに冷酷になれる人だったの?


「ジェット。情け容赦がないわね」


「彼女達が望んだ事だ。それに、君に汚れた雑巾をぶつけていた子達だ」


「……良く覚えていたわね。そんな事があったのも忘れていたわ」


「それでいいよ。俺がしっかり覚えているから。オブシディアは受けた恨みは返すまで忘れない」


笑顔怖い。手の痛みに喘いでいたはずの子達が、今や痛みを忘れてしまったように固まってしまっている。

オブシディアにトリカブトの暗黒面しっかりあった!!


このままじゃ学園女子の殆どがジェットから報復を受けること間違いなし。

そして私は嫌がらせを一々気に留めていなかったから、誰に何されたかなど確認もしていない。あの時は、この面倒は全部ジェットのせい、で全部完結終了していたからな。どうしよう。


「あらまあまあ。この子達は大丈夫?」


地面に座り込んで恐怖と痛みで動けなくなっていた少女達に声を掛けてきたのは、人格者で尊敬を集めるアイリス・コーツ侯爵令嬢である。

隣には、ご友人であるキャロル・アン・パレルモ侯爵令嬢が並んでいる。


私は寮監である彼女の顔を目にしてようやく、入寮した昨日のうちに彼女に挨拶せねばならないのにしていなかった事を思い出した。

しまったあああ。

パレルモ侯爵家の紋章に使われる花は睡蓮だ。

睡蓮の花言葉は、滅亡、である。

女子の会話には裏の意味があるということで、花言葉にも二面性あって怖いぞ特集でした。睡蓮は信頼とか無垢とかありますので、そっちの意でパレルモ家は紋章に入れたはずです。

そしてモンステラは全く怖い花言葉は無い、優しい植物です。

だからディはなんでスピネル家がこっち? と。

蛇足ですが、可憐なスノードロップの花言葉が真逆で怖い。

「希望」「慰め」←雪の中で咲いて春を知らせる花だものね、とわかる。

「あなたの死を望みます」←なぜに? 雪山で死ねと?

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