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ウィリアムの愛称ってビル

明日は新寮生歓迎会が催される。

それなのにディアドラ・ノイシュ嬢は、ドレスが無いから参加できないそうだ。

信じられない、だ。


平民の奨学金生だったらどこでも制服なのでドレスなんて必要無いが、貴族家の子供はそれは許されない。家にお金が無くて制服を着て講義を受ける貴族の子でも、貴族だったら社交の集まりにはそれ相当の服を身に着けていなければいけないのが貴族社会の掟だからだ。


だから貧乏貴族は、飾りも何もないが生地や仕立ての良いものを一着は持っているのが当たり前。場所によってそれにコサージュを付けたりショールを重ねたりして、使いまわしをしているのだ。――結局は影で馬鹿にされて笑われるのだが、それでも欠席して家ごと招待名簿から消されるよりもはるかに良い。


貴族社会では招待名簿から名前を消される事は、社会的死亡を意味するのだ。


私は親父殿にそう教わった。

自己満足な正義感は庇われた相手をさらなる地獄に堕とす、覚えておけ、と。


よって私は、ディアドラの家の貧困の度合いについてすぐに理解できた。

貴族のご令嬢なのに「もしもの一着」も持っていない、その事実から取り繕えないほどに貧困にある経済状況を。


それでディアドラはソーンビルという慈善家の援助で学園に通えるって訳なのね。

…………殿下、いつからディアドラについてご存じだったのですか?


私が専属護衛の影になってから、ディアドラと殿下が接触した事実の記憶は無い。

七歳のお披露目パーティの日か?

その頃ならばディアドラの家はまだ裕福で……子爵家でしかなければそのお披露目会も出席できているはずはない。う~ん。


「あの、皆様。お気遣いありがとうございます。でも歓迎会の参加はもともと考えておりませんでしたの。我が家は父以外、貴族の集まりには一度も参加した事がありませんし、それに、私に援助してくださる方へのご恩返しは私が文官になることです。明日は授業が無い分勉強しなければ!!」


「えっと、文官になるって、君は奨学金特待生?」


「ち、違います。ロワー……です」

「あっ」


「どうした、ディ」


「いや、あはは」


ジェットがディアドラに聞き返した台詞の中の、奨学金生、という単語で、私は気がついてしまったのだ。ディアドラって名前に私が見覚えがあった理由に。


殿下がどうして補欠者の名前を確認しているのかって不思議で、後で身元照会するつもりで覚えていた六人の中に同じ名前の人がいたのだ。

名簿に載っていたあっちの家名は、ディアドラでも姓はメレダインだったけれど。


ディアドラって珍しい名前だものなあと、それで記憶に残っていたのかと私は納得する。

けれどまたここで先程の疑問だ。

殿下も名前が一緒だからディアドラに興味を示したのだとしても、彼女はソーンビルというお方から援助で学園に通えていると言っているのだ。


学費なんか前払いだし、金が無いのに入学願書など送らない。

本当に殿下は一体いつからこのディアドラを見知っていたのか。


ソーンビルと隠すどころかご自分の名前をそのまま名乗ってのディアドラへの援助を、私やジェットに知らせずに誰に委託して行っていたのか。


これは詳しく調べなければ。


私はディアドラの腕に自分の腕をかけた。

彼女はびっくりしたが、学園で見かける仲良しのご令嬢達がよくやることだ。


「ノイシュ様。私の部屋にいらっしゃいな。私のドレスをお貸しするわ」


「でも」


「お父様が用意して下さったドレスもあるの。私はジェットからのドレスが着たいから、その可哀想なドレスを着て下さると嬉しいわ」


「でも、サイズが」


「大きいのを小さくするのは可能ですわ。ノイシュ様は裁縫は苦手ですか?」


「いいえ。弟や妹のお洋服の直しは私がしておりました」


「では、今から一緒にチクチクしましょうか」


「はい!!」


私とディアドラは仲良しな令嬢達のようにして、腕を組み合って図書館を出た。

殿下とジェットにほのぼのとお見送りどころか、なんか私を引き留めたそうな殿下をジェットが引き留めているうちにディアドラを引っ張って行ったが正しい。


そうして女子寮に着いて見れば、私の部屋で私のドレスを直す必要は無くなっていた。ディアドラ宛に荷物が届いていたのである。

もちろん、送り元は篤志家でいらっしゃるソーンビル様だ。

私は自分もそのドレスが見たい気持ちが抑えられず、彼女を私の部屋にそのまま連れ込んだ。

それで今や、二人で姿見の前でドレスを体に当てての自慢大会だ。


ディアドラが受け取ったドレスは、とっても可愛いのに清楚で上品さもある、ディアドラの為に仕立てられたものだった。

比喩ではなくきっと最高のドレスショップで。


淡い淡いアメジスト色のドレスはコルセットのいらない胸の下に切り替えがあるデザインで、肩を飾る小さな袖やドレスの裾はドレスの地色よりも濃い色の糸が使われたカットワーク刺繍が施されている。

フワフワの清楚な白兎のイメージのディアドラのためのドレスだ。


空色のドレスという自分色にしなかったところは、殿下の配慮と最初思った。

けれども肌も髪も色味が無いディアドラが青系を着たら、顔色が悪くなって彼女の美しさや可愛らしさを殺すと気がついた。

これは泣く泣く自分色を避けたのだろうか。


そうして考えると、ジェットが贈ってくれたドレスにジェットの色など一つも無いのは、私の瞳にあのオレンジはとても映えるからだろう。逆に青灰色のドレスだったり銀と黒の組み合わせは、多分私に似合わない。たぶん。


なんと愛が深い、二人とも。


「ディのドレスはとっても素敵。ディがそれを纏ったら、花の精どころか、花園で踊る春の女神になるでしょうね」


「まあ嬉しい。でも春の女神はあなたこそよ。ドレスのお色がお肌を明るくしてキレイだわ。ソーンビル様はディアドラが一番輝けるようにと、お心を込めていらっしゃるのね」


「そ、そうなのかしら」


私達は互いの名前を呼び合う仲となっている。(デイジー呼びはNG絶対)

今晩は私の部屋一晩中語らって、という、(憧れの)パジャマパーティを開催だ。

名前を呼び合う仲ぐらいになっていないと。

それは、殿下のことを探らないと、という影的発想ではない。実を言うと、めちゃ可愛いディアドラと一緒が楽しすぎて手放したくないのである。


もう、殿下の気持わかりみ、だ。


あれ、ディアドラがドレスを箱にしまい始めている。


「クローゼットに吊るしなさいな。変な皺が裾に出来たら大変よ」


「あ、そうね。でも、なんだか急にドレスが怖くなって」


ドレスが怖い?

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