バカップルは私達だけではない
ジェットは呼び出してすぐに来た。
服装を見れば鍛錬中だったとひと目でわかるもので、何も考えずにとにかくジェットを呼び出さねばと考えた自分を反省する。
ごめん。振り回すばかりで。
「ディ。何かあったのか? いや、無くともいいんだよ。三時間十四分ぶりか。ハハ。たったそれだけで俺を呼び出してくれるなんてな!!」
振り回されるのは私の方だった。
ジェットは迷うことなく私達の所に来て、私を後ろから抱きしめてご満悦だ。
彼は私の向かい合わせに座っている、美少女と変装した殿下、この目立つ二人が目に入らないのか。まるで発情した大型犬じゃないか!!
ちょっと、と諫めようとした瞬間に、ジェットはスンと冷たい表情となる。
「棚向こうで倒れている三人の始末を頼みたかっただけなのはわかるけどな」
炎属性なのに冷たさしか感じない。
殺気飛ばすぐらい怒ってる?
実はこれ、婚約者としてのギュウじゃなく、私を拘束するだけだった?
「じぇっと?」
「入学して二週間足らずで面倒ばかり起こしているブリューゲル伯爵家次男とそのお友達だろ。奴らに何かされてのあの結果か? 君が我慢できなかったほどのふざけたことをしたんだよな?」
あなたの婚約者になったので、暴力的解決方法は解禁になったと考えていました。
だからぜんぜん我慢なんかしてません!!
「ディ?」
「ごめんなさい。脊髄反射的にやってました!!ジェットの婚約者になったんだからもういいかなって判断です。ごめんなさい」
私はジェットの腕から解放されたが、ジェットの微笑みに囚われた。
物凄く嬉しそうで、思わずほっぺたを抓ってやりたくなる。
けれど抓られるのは私の方だった。
「俺の婚約者のトラブルに巻き込んですまなかった。あとは俺が引き受ける。君達はまずは寮に戻ろうか。明日は歓迎会だ。準備もあるだろう」
「あ、ありがとうございます。僕は新入生のレイ・インベルです。それからこちらがディアドラ・ノイシュ嬢です。ぼ、僕にお話があれば、いつでも呼び出してください」
「わかった。では、急いで図書館から出てってくれ」
脊髄反射的状況判断できる男は、頭の回りも凄く良いんだと実感だ。
ジェットは殿下の正体がバレない道を選び、殿下はそんなジェットに何でも後で話すからと、ワタワタする新入生の演技をしながら伝えてる。
なんという二人の信頼関係。
なんだか悔しい。
私は椅子から立ち上がると、ジェットの腕を掴み、本棚の方へと彼を引っ張る。
「どうした?」
「ドレスすごく嬉しかった。ありがとう」
「うっ、ディ」
ありがとうは頬に軽くキスも添えていた。
よし、ジェットは真っ赤になって硬直した。
混乱させた、私の勝ちだ!!
「うっ、ジェット」
私はジェットに勝ったと思いながら彼からパッと離れたはずなのに、何故か先程よりも深くジェットと密着していた。
ジェットの腕の中に囚われ人になっている。
でもって、頬を染めたジェットの笑顔は、…………破壊的でした。
でもって。
「あれを着た君に出会える明日を待つのがもどかしい」
えと、えっと、腰砕けになるぐらいのいい顔が近くなってます。ジェットさん。
ええと、待って。
「先輩。僕達は先に戻ります」
その冷たい声は、殿下。
そうだった。
殿下に邪魔をしてくれてありがとうと感謝すべきだけど、盛っている最中に水をぶっかけられた犬みたいな気持ちになっているのはなぜだろう。
私とジェットは同時に互いから離れる。
でもってなんか気まずい。
「じゃ、じゃあ。私行くし、明日は楽しみにしているから」
「ああ。明日は何の憂いも無く、歓迎会を楽しもうな。インベル君とそれからノイシュ嬢も。俺の大事なディとこれからもよろしく」
「こちらこそ」
「え、ええ。もちろんですわ」
「ありがとう。明日は楽しみだ。きっとディとノイシュ嬢の二人が並んだら、花の精に間違えてしまうだろうな」
ジェットの返しに(タラシでしたかこの人は)、ディアドラは可愛らしく真っ赤になった頬を両手で押さえて恥じらった。けれどすぐに寂しそうな色が瞳に見えたのは、同じ女子である私こそ気がついてあげるべき事情だった。
「でも明日は、ドレスも無いですし、参加は見送ろうかと」
当たり前だが、私とジェットの視線は殿下へと向かう。
すると自称インベルさんは、えっと、毒キノコを間違って齧ったリスみたいな顔になっていた。
うげぇやっちまった死ねる、って奴。
殿下もそんな人間っぽい顔出来たんだ。
前話殿下→ジェットに正体ばらされるな。死ねる。
↓
殿下「ジェット隠してくれた。あとでちゃんと話すからね!!」
↑
ディ「何かジェットだけ格上げ。なんかムカつく」
そしてディに八つ当たりされてジェット幸せな回でした。




