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図書室ではお静かに

語尾を伸ばす喋り方は、遊び人を気取る貴族の男が好んで使う。

社交界に詳しいとある御仁によると、自分のせいで勘違い男がそんな喋り方をするようになった、とのことだ。ついでに、そんな喋り方をしていた自分が黒歴史、とまで仰っていますよ、と、私は私とディアドラに絡んで来た青年を見つめる。


ひょろっとした体形に制服を着崩し、開きすぎたシャツの胸元には、太めの金の鎖が鈍く光る。また、彼の後ろに並ぶ二人も、彼と似たような恰好をしていた。

痩せぎすの青い髪と、固太りの体形の焦げ茶髪。

女一人声をかけるのにも、数を頼まなきゃできないヘタレかよ、と私は金髪男に視線を向ける。


金髪男は、私の視線に対してあからさまに見下した視線を返して来た。

彼のこの視線から、彼が貴族家の子息なのは間違いないなと確信する。

先程の「男を誑し込むのが上手」という私への罵りの台詞は、私という元奨学金生の平民が貴族に成り上がった事が許せない意趣返しだろう。


貴族は選民思想が強いからこそ、平民が自分達に混ざるのを毛嫌いしている。

ということは、ディアドラは彼らと同じ階級の女性と言うことか。


「ご、御忠告ありがとうございます。で、ですが、お友達は自分の目で見て信じられる方にするのだと父に教えられていますの」


うわお。


ウサギちゃんが私の前に出て、私を守るようにして言い返した。

私はディアドラに感激だ。

でも、顎を上げて頑張って言い返す様は、可愛さが過ぎるだけでなんの脅威も金髪男達に与えなかった。

そして、この金髪男はアホか?

呆れた私が思わず膝裏を蹴ってやりたくなるセリフを、この金髪男が吐いたのだ。


「ハハ。そのお父様の言う事こそ疑ってかかるべきだよぉ。うさぎちゃん。君のお父様のノイシュ子爵は、騙されて先祖代々の財産をすっからかんにしたお方じゃないか」


「アハハハ。そうそう。それで君はデビューも出来ず、必死に必死にお勉強だ。だけどさあ、下位クラスから文官は無理だって、って、ひゃっ」

「おいっ」


金髪男に合いの手を入れたのは青髪の優男だ。

そしてその青髪は何かに驚いたかのようにして小さく飛び上り、彼ら二人の後ろにいた固太りの岩みたいな体形のもう一人にぶつかった。


私がこっそり飛ばした小さな水球が首筋に落ち、それでびっくりしただけだ。

凄い青髪なので一番魔力があるのかなと思ったが、どうやら青く髪を染色しているだけらしい。


「何やってんだよ。セイラム」


「わり。なんか水が首筋にあたった、気がして」


「まあ。雨漏りですって? 司書の方に伝えましょう。大事なご本が痛むことになったら大変だわ」


私はディアドラを促した。

が、この男どもは私達を逃す気は無いようだ。

焦げ茶色の男が本棚に右手を突き、私達の行く手を遮ったのだ。


「お話し中だろ?」


「ほら、無意味なことはやめようよお。そんな詰まんない本なんか片付けてさぁ」


ニヤニヤと薄笑いしながら奴らは私達を取り囲み、さらに体を寄せて来た。

どうやって排除しようかな。


「そ、そんな事はありませんわ」


「でもさあ、勉強しても無駄でしょ。ディアドラちゃんは。だってさあ、君の家じゃこの学校に通えるお金ないでしょ。援助してもらったんだよね。どっかのお金持ちのおじさんとかに」


「うわ、お金のためにオジサンに好きにさせてんの。俺達が援助してやろうか?」


「そ、そんな。違います。ソーンビル様はそんなお方じゃありません。お、お会いしたことは無いですけど、未来ある若者の為にって、高尚な方です!!」


「そーんびる」


ガタ。


これは私に眩暈が起きて本棚にぶつかった音ではなく、くだらない三下に好きな子が絡まれているその様子をうかがっていた青年が出した音だ。


彼は私と目が合うや酷く驚き、本棚の影へと体を引っ込める時に棚に肩をぶつけたのだ。

水色のぼさぼさの髪をした青年は、黒ぶちの重そうな眼鏡をかけていた。

そんなに目が悪いならその邪魔な前髪をなんとかしようか? と言ってあげたいが、それが変装なのだから仕方がない。


けど、どうして特別クラスのレイ・ソーン・ウィリアム殿下が、一般下位クラスの少女とお勉強会などしているのか、と私は今すぐ尋ねたい。


あなたについているマイナムの気配どころか、察知できないのはなぜでしょうか? マイナムをとっ捕まえて尋問して良いですか?


「よく言うよな。綺麗な援助ですから愛人ではありませんってか? 卒業したらその体で返すんだろ? 最初がジジイは可哀想だから俺達がって、」

「うぐ」


「え、ええ!!」


「おい、おま、ぎゃっ」


「うぎゃ!!」


私の肘は一番近くにいた四角い固太りの脇腹に入っていた。

でも本当にうるさいのは黙らせられていないなと、少々強化した手の平で金髪のそいつの顔面を弾いた。叩いてはいない。叩いたら目玉は潰れるし、多分鼻の骨は粉々になる。このぐらいなら三日は鼻が痛い後遺症はつくが気絶だけだ。


で、最後の青髪の優男は、水色のカツラを被っている殿下に倒されていた。


水色髪の青年の扮装時は非力で弱弱しい子という個性付けをしているらしく、拳ではなく自衛武器を使っていた。ニードルパイソンに使う電撃棒を小型に改良改造した私特製の魔導武器だ。


「レイ!!大丈夫?」


殿下は青髪を倒して偉ぶるどころか、なぜか不安そうにブルブル震えている。

まるで、人を傷つけちゃった行為をした自分が怖い、そんな感じで。

演技派だな。


「あ、ああ。自衛用だって貰ったこの武器が、ここまで脅威なものだとは思わなかった。死んでいないよね」


「レイったら、なんて優しいの」


ディアドラは殿下に抱き着いた。

抱き着かれた殿下はぱっと頬を赤らめ、ディアドラを抱き返そうと腕を伸ばしたそこで動きを止める。――私の視線がありますものね。


「ノイシュ様、このお優しいレイ様を紹介していただけますか? あそうだ。私の婚約者をノイシュ様に紹介したいから、彼を今すぐ呼びますね!!」


「それは、ま」


待つわけ無い。

どういうことなのか、きちんとご説明を頂きたいです。

私はジェットを呼び出す伝書魔法を飛ばした。

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