表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

ここは女子寮です……帰れ

入学式にて、私は「蒼炎の騎士」という仇名を持つ間抜け野郎のせいで大目立ちさせられた。任務の性質上、私は目立っちゃいけないというのに。

しかしそんなことは、私がその気になれば挽回できると思っていた。


入学式が終わるやすごい勢いで彼が私を会場から引っ張り出したのは、単に私に何かの急な知らせがあり、生徒会役員として生徒誘導をしていた彼が動いたに過ぎない。そんな風に話を持っていけば何とかなると思ったのだ。


しかし、私はどうやら目算が甘かったようである。

あれから三日経ったのに、私への悪意が収まるばかりか増える一方。

在校生には、麗しのジェット様が関心を寄せたのが私一人という事実が許せない。新入生の平民は元より貴族家の娘達は、自分達を差し置いてという所がかなりの侮辱に感じたようなのだ。


ジェットによって教室までエスコート(あれが? 異議あり)された私は、学園から去るべき害虫と学園中の女生徒から認定されてしまったのだ。


全校生徒の憧れの君に「一人だけ親しくされる」など、平民の癖に生意気である、総意ケテーイ。


事情を騙りたいが、もはや誰も私と視線を合わせようとしない。

火属性魔法剣士がぼっちな私を昼に学食にて見つければ、飯を一緒にどうかと誘って来て火に油を注いでくれるのだ。もちろん私は逃げ出すだけ。そのせいで美味しいと有名な学食をまだ食べられていない。

ほとんど毎食クッキーだけとは、悪党の船に密航した時よりも状況が悪い。


そうして今や、学園での私はそこに居るのにいない、という取り扱い。ひっそり一人は良いけれど、完全に切り離された完全孤立は、情報を得られない失敗状況。どうやって挽回すれば良いんだ。そうそう、クラスで行った自己紹介では、クラス担当講師まで私の順番を飛ばすという暴挙をしてくれたわね。


「よし覚えたぞ、貴様」だけど。


だってこれって、権力持ちの多勢に与して、虐げられている平民生徒を自分こそ攻撃して来たってことじゃない。生徒を守るべき講師が!!ならば、私こそそんなくそ講師を排除する力を行使してやるというものだ。

私は殿下が王国を治める時に、どんな汚点失点も無いように消し隠す人間なのだ。ふふふ、お前等のその行動が己の首を絞めていると震えろ。


ハハハ。

本気でことを成すその時は、まずは蒼炎の騎士を真っ赤な血祭りにあげてやる。


だってねえと、私は女子寮の中庭に打ち捨てられた汚物を眺める。

汚物と言っても、元は私の私物なんだけど。


何があったのか?


学園生徒は殿下だろうが例外なく、全員が寮生活となる。

ただし、王族及び上流貴族の子女には、それなりの特別待遇はある。

身の回りの世話をする従者の使用許可だ。

私を敵認定した貴族の子女は、その特権を私の為に大いに活用してくれたのだ。


私が学び舎にいる間に、寮の私の部屋を従者を使って荒らしたのである。

勝手に私の部屋に侵入した彼らは、寮の部屋の窓から私の荷物の一切合切を放り出し、止めという風に生ごみや汚物をぶちまけてもくれていた。


今現在汚物となった私物を前に私が黄昏ているのは、私の脳みそが動かなくなっているからであろう。

瞬間的に悩んでしまったせいで、次の行動に移れないのだ。


無力な平民を装って、泣いてぐずぐずするべきか、面倒だから全部一気に灰も残さずに燃やしてしまうべきなのか。

どうしようか。


そもそも学園の寮に持ち込んでいた荷物など、貧しい平民学生を演じるための小道具でしかない。古着の学園指定の魔法ローブ。飾りも何もない使い古された下着。

母親がいたら編んでくれていそうな膝掛け毛布、などなどなど。


思い入れなど元から無い。大事なものは収容魔法の中にある。

だから、私はゴミとなった荷物にただ面倒だなって感慨しか湧かない。

怒りや悲しみなど湧くはずない。


「誰がこんなことをした?」

「うお!!」


ゴミの前に佇んでいただけの私の後ろに、ジェットが音もなく立っていた。

転移魔法を使ったのか、というぐらいの突然すぎる登場だ。

ついでに目の前の彼は、一見すんとした顔をしてる静かな佇まいだが、実は冬眠失敗したホーングリズリーぐらいに殺気立っている。

心臓に悪い。


「ここは女子寮なんですけど?」


「今夜は男子寮と女子寮で合同歓迎会が行われる。それで来た」


…………答えになっていない。


歓迎会の打ち合わせで女子寮の寮監に会いに来た、と言う事だろうか。

ジェットは男子寮の寮監長ではないけど、生徒会役員だから?


「お疲れ様です。打ち合わせでしたら、どうぞお気になさらず先をいらっしゃってください」


「合同歓迎会と言っただろう」


「言いましたね」


「どうして俺がどこかに行かねばならない」


「基本どこかに行って欲しいですけどね。何の用ですか?」


「どうしてわからない」


だから何が言いたい?

ジェットの状況説明がヘタなのは、脳筋だからか?

今はジェットが言わんとしていることを解読してやる気力も親切心も枯渇しているから、どこかに行ってくれないかな。私は君を理解をしたくもないの、今は。


「お前を誘いに来たが、無理そうだな」


あ、駄目だ。私は脳みそどころか聴覚も死んでる。

私を誘いに来たって、言ってる?


「誰を誘いに?」


「お前だ。女子は男子のエスコートが必要だろう」


「何を当たり前のことがわからないんだこいつは」という言外の言葉をジェットから感じたが、私こそ「お前は何を言っているんだ」という感じだ。


「それでこんな有様じゃ、歓迎会どころではないな。まず片付けよう。それで今夜だけでも必要なものはあるか? 俺が融通できるものは渡す」


私はゴミの山では無く、ゴミができた原因をまじまじと見つめる。

何を言っているんだろう、この人は?

この状況はあなたのせいなのに、更なる火種を投下されるおつもりですか、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ