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今後の学園生活について新たなる不安に気付く

私は新しい教科書を床に落としただけでなく、そのまま身動きできなくなった。

ジェットがそんな私に心配の声をかける。


「どうした?」


「教科書の中身が、中身が」


「また何か落書きでもされていたのか? それは未使用品のはずだろう」


ジェットは怒り声で私が落とした本を拾い、中を見て…………すん、という風な無表情と化した。その後は他の教科書も開き、パラパラとページをめくって内容を確認していく。そして全ての中身を確認した彼は、私の頭に右手を乗せた。

まるで私を慰めるかのように。


「これは辛いよな。俺でも耐えられない。それほど勉強が好きでない俺でも、くく、これは耐えられないよ。くふっ」


「笑うな!!」


「いやあ、だって知らなかった。クラスごとに教科書の中身が違うなんて、俺は知らなかった。確かに奨学金特待生用の教科書は殿下の特別クラス(アッパーアドバンス)のものよりも難しいものだったが。クフフ。ロワーがこれほどとは。ハハハハ」


下級クラス(ロワー)って言い方もムカつく。馬鹿にして」


「これはそのままだよ。王族や侯爵家などがいる特別クラスはそのまま家格だけの特別クラスだが、それ以下のクラスについては家格だけでなく成績順も考慮されている。一年生だから一般クラスは全て初級クラスだが、そこに(アッパー)(ロワー)がついている。例年は一般クラスが二つだけだから上と下だったが、今年は一般クラスが三つになったので上初級、初級、下初級、だな。真ん中のただの初級クラスはもうちょっと難易度上がっているのかな。ぷふふ」


「笑い事じゃない。教科書違うのに学力考査問題は一緒でしょ」


「あ、そうか」


「そう。奨学金特待生は奨学金関係あるから、テスト順位発表が一般生徒と別なのはわかる。教科書に差異があるのも理解できる。でも、そもそも違う教科書を使われて同じ実力考査問題って、物凄く無理がある。ロワーの子達は可哀想」


「だよなあ。ロワーから上位順位に喰いついてくる人間がいたから思いもよらなかったが、そもそもロワーの人間は最初からハンディがつけられてたってことだもんな。それなのにアッパーだと自分を驕っていたのは恥ずかしいな」


「まあ、騎士科と一般は違うだろうし」


「一年時は全員が一般だって」


「あ、そうか。一年時の成績と人物評価で男の子は騎士科に進められるかどうかだったね」


「そう。希望だけじゃ騎士科にはいけない。頭が良すぎても無理だ。無駄な体力と程よい単純脳を持つ男しか騎士になれないのさ」


「ジェットは計算の上に鍛えられた体だし、単純脳というには繊細で思慮深いと思うよ」


「お褒めの言葉をありがとう。だがここで告白するが、俺が一年時はアッパーだったのは、入学試験で残念だったので、特別クラス落ちしただけだよ。アンバーだったら特別クラスは間違いないだろう」


「でも、生徒会役員で騎士科の首席でしょう?」


「死ぬほど頑張ったからな。お前と殿下が翌年に入学して、俺の残念な成績を見られたら死ねるってね。それで学年十位には喰い込んだが、そのせいで生徒会役員なんて役まで貰ってしまった。こっちは誤算だったよ。だが頑張れたのは、やっぱりアッパーのクラスであったからかもな」


ジェットはそこでうーんと考え込んだ。

公正で義務感の強い彼だから、同学年の一般科の下位クラスの人達のハンディとかを思って考えちゃったのだろう。


「よし、決めた」


「え?」


「ディ。俺の一年時の教科書を全部やる。それで俺が勉強を教えてやるから安心しろ。来年はアッパーに上がっていればいいんだ」


「でも、ジェットには」


騎士科の講義に実技演習とそのための鍛錬の時間。それだけでなく伯爵を継ぐために領地経営の経営学も履修している。ついでに生徒会活動に王宮の騎士団での訓練。


「休める時間が無いじゃない」


「ディが俺の癒し。だったら、ディのための時間ぐらい、いくらでも作るさ」


ジェットは私の右手を両手で包みこんだ。

心配するなっていい笑顔をしてくれくれているが、そうじゃない。


「嬉しいけど、時間作れるなら殿下は? いいの? 放っておいて?」


「ああ。殿下は殿下でできるだけ同学年の子達と触れ合いたいらしい。それに卒業後は俺は殿下との行動を優先せねばならないから、お前との時間を大事にしろと言ってくれている。友人思いで嬉しいが、そこまで手放しで好きにしろって言われると、少々虚しくなるよな」


飼い犬のリード外して、好きに走って来いってやるようなもんだよね。

大体の犬は飼い主の前から走り去るどころか、不安いっぱいの顔で「捨てるの?」と飼い主を見上げるだけだと思う。


殿下はジェットを大事にするあまり、独りよがりな変な方向に走っているようだ。


「殿下はディの兄みたいな気持ちだからだろうな。今回のことで殿下は俺達に呆れるどころか、これで気が楽になったと喜ばれた」


「殿下が? 私はそんなにウザイ御庭番だった?」


「そうじゃないんだよ」


ジェットは私の手を握る手に力を籠め、自分の額さえも付けてしまった。

まるで私に懇願しているみたいだ。


「ジェット」


「ああ。俺も同じ気持ちだ。これで君は俺達の知らないところで野垂れ死ぬことができなくなった。絶対に俺達の元に帰って来るしかなくなった」


私は空いた手でジェットの頭を抱え、彼のつむじにキスをした。

いつもと違って髪を撫でつける整髪料の香りがして、彼がもう出会った頃の子供じゃないと改めて思い知らせてくる。


「私はどこにも行かないよ。誰も死なせない。だから必死にレベル上げしたんだから。だから、大丈夫だって」


「――大丈夫じゃない。それに何だこれは!!」


「ほえ」


私はジェットの頭に乗せていた自分の頭を持ち上げる。

ジェットこそ自分の顔をゆっくりと上げ、私と目線を合わせて来た。

真っ直ぐに私を見つめ、聞き間違いないぐらいハッキリと言い放つ。


「こんなものはキスじゃない。キスするならちゃんとキスしてくれ!!」

王族や高位爵位の子女は、特別クラス(アッパーアドバンス=最上級)

一般科の一年生のクラスは初級エレメンタリー

二年生は中級インターン

三年生は上級アドバンス

ここにアッパーロワーが付きます

騎士科は一年時の成績で希望者から選出されます。卒業後には王宮の騎士団に進むのですが、一般兵から騎士に上がった人間と違い、最初から幹部候補生です。なので、実力と人格と後ろ盾もある有望な青年達しかいないとして、特別クラスの人達以上に尊敬を集めているのが騎士科なのです。

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