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貴族になったら対面が大事

私がスピネル伯爵の娘となった代償として、私は奨学金特待生ではなくなった。

貴族子女専用の履修コースへと変更されてしまったのだ。

それに基づき、寮の部屋も平民用から貴族用へと再振り分けである。


そこで私は親父殿の家から学園に通う必要は無くなり、晩餐会の翌々日には馬車に荷物を積み込んだ格好で学園に向かう事になった。

そしてこの流れで、私には学園寮に申し入れたい事ができた。


平民だった時は、汚された私の部屋が整うまで「しばらくかかる」と言う事だったのに、スピネル伯爵の娘となったら三日もかからずに整った、という点だ。


使用人部屋程度の狭い部屋から、元の部屋の三倍の広さがある部屋に変わったというのに、壁紙の張替えに室内清掃がたったそれだけで終わったなんて!!


「部屋の用意がいつできるかわからない」


これも平民な私への嫌がらせだったのね。

私は隠密だし自分の財産はあるから、寮の部屋が使えないことに対してあまり困ったなど思わなかった。それだけ部屋が凄い惨状なのか、と考えただけだ。


もっと深く考えるべきだった。

日々の生活が奨学金頼りの平民学生が寮の部屋を使えなくなったらどうなるのか、ぐらいの脳内ロープレもしておくべきだった。


今さら気がつくなんて、なんて間抜け。

慈悲深きジェット様があれだけ怒るわけだよ。


脊髄反射的判断ばかりにしか見えないけど、常に的確な部隊指示だって演習で何度も褒められているジェットさんの思慮深さに気がつくべきだった。


平民が寮の部屋を台無しにされるイコール、退学勧告だってことに。


寮の部屋が使えなければ、学園に通える範囲で宿を借りることになる。

地方から出てきた子だけでなく王都に自宅がある子でも、一般庶民が住む住居地は学園に通える範囲に無いからだ。


その結果、宿代のための借金をする事になる。

十代の平民の子供に金を貸してくれる真っ当な業者があれば。


さらに追い打ちをかけるのが、学園敷地外に教科書も学園図書館の専門書を持ち出してはならない、という平民特待生だけの学園規則だ。

これでは自主学習がままならない。

一定の成績が保てねば、特待生は奨学金を切られてしまうのに。


「嫌がらせが陰湿どころか、平民に死ねと言っているも同じ。特待生の子達が同じ目に遭わないように目を光らせてかなきゃな」


脳内で親父が余計な事をするんじゃないと怒鳴っているが、私の脳内のことなので無視をする。リアルでは、報告する気なんて無いし。


「伯爵の指示は守ったようだな」

「ひゃっ」


物思いに浸ってたせいで馬車が止まったことにも気がついていなかったばかりか、扉が急に開いたと驚いてしまった。が、私は扉を開けた人物に対してどうしてここにいるのか問い詰めたい。


それも制服姿では無く、街の法律事務所や商会を訪問するお貴族様の装い、濃いグレーのスーツ姿で女子寮の前にジェットがいるのか。

装いに関しては、今の私もそんな感じのお嬢様ドレス姿ですけどね。


今日は平日だし、今の時間は普通に授業時間だ。

私は引越しだからと、学園の今日の授業を全て自主休講にしているだけだ。

心の中で首を傾げる私に対し、ジェットは当たり前という顔で右手を差し出す。

私はどこに親父殿の目があるかわからないからと、ジェットの手に自分の手を差し出して馬車から降ろして貰った。


「私を馬車から降ろすためだけに、あなたは授業を休んでいるの?」


「婚約者の部屋を整えるのは婚約者である男の役目だ」


「え、嘘。女子寮は男子禁制よ」


「入寮時などには男性親族の立ち合いは許されている。持ち込んだ荷物の確認や荷物を運び入れる作業員の手配と監督をせねばならないからな」


「自分の都合で入寮日を決めちゃってごめんね? あと、今日はありがとう?」


「お前よりも優先するものなど無いから気にするな」


「殿下は私よりも優先してよ? するよね?」


「殿下には、ゴドフリィもマイナムもいるだろう」


宰相の息子(ゴドフリィ)従僕(マイナム)も、ジェットの代りにはならないと思うのだけど?」


アダム・ゴドフリィはそれなりに戦えるかもしれないが、それは自分を守るぐらいだろう。マイナムはそもそも私の代りの御庭番なので、ジェットの代りにはならないし、私の代りにもならない…………と思いたいが。


「護衛として近衛騎士のバーンズとセドリックが詰めている」


「そうじゃなくて、殿下が心を許せるのはあなただけでしょう?」


「ん」


あ、照れた。

耳の先と頬骨の辺りをほんの少しだけ赤く染め、私から目を逸らす。

そしてジェットはその照れ隠しのようにして、彼が呼んでいたらしき三人の下男へと簡単な指示を飛ばした。言葉でなく指先の動きだけ、で。

ジェットの指の指示で男達が動き出す。彼らは私が乗って来た馬車の後ろへととりかかり、後部に括りつけてあった衣装箱を引き出し始めた。


「行こうか」


ジェットは掴んでいた私の手を自分の腕に絡ませ直し、そのまま私を誘って女子寮へと入って行く。傲慢そうで気位の高そうな貴族男性の顔で。いや、周囲を威圧する堅い顔なのはなぜか?


あ、収納魔法を使わずにこれ見よがしに荷物を運んできたのは、伯爵家の財力と娘に対する愛情の大きさを知らしめるため、と親父殿は言っていた。

だからきっとジェットが立ち会ってくれたのは、私の持ち物や私自身に今後以前みたいな被害が起きないようにするための牽制もあるのか。

ならこの怖い顔付きも納得。


「令嬢って無力なのね。男性親族になんでも頼らなきゃなのだもの」


「ミスリルやオリハルコンでできた剣を手に入れた冒険者は、それはそれは大事にするだろ。俺の大事な剣だって必ず自慢する。それと一緒なだけだ」


「令嬢って男の物かよ」


「違う、逆。女の方が男をアクセサリーにしてるって話。お前だって俺を自慢していいんだ。令嬢が婚約者を引き回すのはな、その婚約者を自分のお友達に見せびらかすためなんだから!!」


「あ」


気付いちゃった。

私の入寮をジェットが知らない、あるいは立ち会っていなかった場合、私に必要とされていないと思われて、ジェットの面子が潰されていたってことだったのか。

それでの怒り顔か。


「ごめんなさい。人がいないうちにちゃっちゃと終わらせようなんて考えちゃって。みんなが部屋にいる休みの日にすれば良かったね」


「いいよ。今日入寮してくれたおかげで、明日の歓迎会はずっと一緒にいられるからな」


歓迎会だからこそ、殿下の護衛は?

というか、あなたは運営側という生徒会役員だったよね?

婚約者って、婚約したぞって常に一緒にいなきゃいけないものなの?


「明日のドレスは後で持ってくる。き、気に入って、く、くれたなら、着てくれ」


「お、おおう」


ジェットの強ばり顔は、これ言うために緊張してただけだったか。

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― 新着の感想 ―
ほほう(;・∀・) そ、そうやったんか(;・∀・) えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ いやー、でもそれはね 無くしていか…
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