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目が覚めたら二度寝したくなる天井

私は目を開けて視界に映った天井を知るや、思いっ切りの舌打ちをした。

そこで寝直そうと考えたが、さっさと起きて報告して自宅に帰る方が気楽なんじゃないかと考え直して起き上がる。


…………。


上半身を起こしたところで、寝直そうかなって意識が逃亡しかけた。やばい。

ベッドの横でなく正面に、わざわざ長椅子を運び入れて座っている人がいるのだ。

寝直してしまいたいが、目が合ってしまった以上動けない。

まるでコブラに睨まれた人間のような気持ちだ。


長いサラサラのミルクティー色の髪を揺らし、柔らかに微笑む若葉色の瞳を持った年齢不詳の優男と言えば、御庭番を束ねる親父殿、アーマド・スピネル伯爵様である。影を操る真っ黒なお方なのに、白地に金糸の刺繍がある衣装で光の精霊みたいなお姿なのは、世界に対する彼的な皮肉なのだろうか。


「おはよう」


「おはようございます」


私が目覚めたのがスピネル家のお屋敷の一室ならば、いるよな、もちろん。

私は下っ端らしく愛想笑いをしてみた。

うひって感じで顔が歪んだだけだった。

そしてそのまま、私は再び固まる。

笑顔のままの癖に、親父殿の威圧感が凄い。

が、頑張れ私!!


「ほ、報告を」


「いらない。オブシディアの小倅が全部報告してくれた。よって、君は今日からディジー・スピネルを名乗るように」


「何がよってなのか理解難しですが、スピネル了解、ディジーは嫌です」


「君の本名だろう」


「あそこの孤児院は、名前なしで捨てられた女の子は、春はデイジー、夏はアナベル、秋はローズマリー、冬はビオラって、四つのどれかなだけじゃないですか。捨てられた時期じゃなくて、生まれた時期の花にして欲しかったです。そしたら、」


「アナベルってイメージじゃないよな、君は」


「そもそも花のイメージじゃないと思います。だから、ディで、ディのままが良いです」


「名前など単なる記号。拘るなど小さいな」


「じゃあ、親父殿だって、ダンにトムにアーサーかジャックのどれかで呼ばれてください。その四つのどれかしか無いなんて、すっごく嫌だって思うでしょう」


「全く君は。でも君はデイジーだ。君の親父殿である私の命令だ」


「ひどっ」


「酷いのは君の方だ。報告も無しにダンジョンに勝手に潜り、転移トラップに嵌ってダンジョン警報を鳴らしてギルドを大騒ぎさせ、そして何食わぬ顔で八年前の「暁の遠吠え」の四十五階層到達以降進展のないあそこを攻略してしまうんだからな」


「うそ!!五十三階が最下層だったんですか? うっそ。四十六階のフロアボスはリッチだったし、五十三階のフロアボスはコカトリスですよ。デカいだけのコカトリス。ジェットの獄炎がオーバーキルでしたよ」


「はあ。四十六階のボスはただのリッチじゃない。記録によれば魔王討伐時代に魔物に殺された当時の有名な教皇、アンドレア・ゼナンサスがリッチ化したものだとされている。物理攻撃はノーカン、魔法攻撃も全属性耐性の難攻不落の化け物だったはずだが?」


「祓いたまえ清めたまえで、聖騎士と聖女ごっこしたらやっつけられました。私達、アンデットには強いんですよ」


「え?」


「ほら、リッチなんて結局は怨霊。浄霊してやればいいんですよ。ジェットの剣を私が浄化魔法で清めてあげたら、ジェットはとことん極めて作った聖なる炎を刃に纏わせて、ズバ、です。すっごく楽でした」


「そうか。その倒し方は誰にも言わないように。四十六階で足止めを食っていた「暁の遠吠え」メンバー全員が落ち込んで自殺するだろう。あそこにはジョブが僧侶も聖騎士もいたからね」


「では、四十七階に転送されたから、そこから頑張ったで良いでしょうか」


「頑張ったで普通は攻略出来ないんだよ!!」


私に向かってクッションが飛んできたが、私はひょいっと頭を下げて躱す。

親父殿は外で柔和な優男を演じているせいか、こうして身内に対しては激しやすく熱い男なのである。


「それで、最終層のフロアボスについて君は見たのか? オブシディアの倅は毒霧で全体像は良く見えなかったがドラゴンだろうと言っていたが」


「しっかり見ました。だからコカトリスって言っています。大きさは二十一階ボスの白い大タコの半分くらいでしたね。頭はワタリガラスで前足含む上半身は狼、腰から下はドラゴンのシッポじゃなくて大蛇のシッポでした。ドラゴンじゃ無かったなんて、とんだコケ脅しボスでしたよ」


「お前は!!いや、オブシディアの脳筋も判断力が足りないからこうなのか。こんな見通しが甘くて良く二人とも生きていたよ」


「どうしました? 親父殿」


親父殿は頭を抱えてしまった。

何も知らない人が見れば芸術について悩んでいるように見えるかもだが、付き合いの長い私の目からすれば、見た目通りに頭を抱えているだけである。

なんだかんだ言っても頭が痛いことが多い、管理職のお人なのだ。


「君は、ダンジョンの階層の情景が世界各地の魔王軍が侵略した地のコピーであることは知っているよな?」


「そうなのですか? では、十六階層からの海の世界は本当にあるのですね。私はあそこの階層がものすっごく好きなんですよ!!」


「そうか。良かったな。話を続けて良いか? いいか、魔王軍の陣地のコピーだとするならば、最下層のラスボスはこの世界の何処かにいるってことなんだ」


「あら~。表に出てこないといいですね」


「そうだな。魔王軍幹部のアモンには出てきてほしくはないな」


「アモン? 有名な魔物何ですか?」


「お前と脳筋の息子が倒したラスボスのことだよ。何がコカトリスだ。私は今すぐにダンジョンギルドと陛下に報告しなければいけないじゃないか!!」


親父殿は優雅さなどかなり捨て、荒々しく立ち上がる。

けれどこの部屋を出ていく前に、魔力枯渇から回復したばかりの虚弱状態の私に余計な爆弾を落として行ったのである。


「お前とジェット・オブシディアは婚約が決まった。そのため、学園の寮が準備できるまでここからお前は学園に通う。よいか、今後はくれぐれも、伯爵令嬢とは思えない行動をするんじゃないぞ」


「ええ?」


「それから、今夜は婚約を祝う晩餐会がオブシディア家にて行われる。逃げるなよ、逃げたら殺す」


もともと私の口答えなど聞きたくなかったのだろう。

親父殿は言うだけ言って部屋を出て行った。

私は現状が怒涛過ぎて意味わからないけど、親父の本気の殺すは良く理解した。

けど、今日から親父殿を、パパ、とか、お父様、とかって呼ぶの? 軽く死ねるんですけど。

ダンジョンボス、本編で語られたものだけまとめ

二十一階→クラーケン

二十三階→大百足

四十六階→ノーライフキング

五十七階→アモン

とりあえず、ディとジェットは無駄にレベル上げしてたんで、二人揃うと向かうところ敵なし

そして親父殿はディのせいでリズム狂いまくりで、君と呼び掛けていたのがもうお前呼び。威厳消える。頭を抱えている所をディがよく見ているのは、頭を抱える理由がディ案件だからはお約束。

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(;・∀・)へぇぇぇぇ (;・∀・)ほぉぉぉぉ えーなぁ(*´▽`*) 二人の力を合わせた必殺技……! ウルトラマンエース時代の血が騒ぎますね(;・∀・)っ(古すぎる) (;・∀・)ふむふむ …
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