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君は本当に格好いいよ

俺は唖然としていた。

普段は声など荒げる事などほとんどなく子供らしくないレイが、声を上げて天に向かって「大丈夫、やり直せる」と狂喜しているのである。ただし、その様が子供らしいと言えば、普段の方が子供らしい。


今のレイは、なんだか追い詰められた人みたいで病的だ。

それにほら、彼の笑い声を不審に思ったのか、教会近くの商店や民家から続々と家人たちが出てきているじゃないか。


俺は何でもないと彼らに振り向こうとして、騒ぎを作っていた本人であるレイが俺を引っ張り引き留めた。

レイの青い目は、いつものように澄んでいる。


「レイ?」


「帰ろうか。友よ。君のお姉さんの小説が途中だった。早く帰って続きが読みたい。君は彼女の新作は読んだかい?」


「新作、ですか? 女中の物語でなく?」


「ハッハ。古いぞ、君。常に最新の情報をアンテナを広げねば」


最新の情報に、アンテナ?

俺は視線を周囲に走らせ、自分達を囲みつつある大人達の異様さを知った。

だから申し訳ありませんと小声で謝り、殿下を蹴った。


レイは塗装されていない道に転んで泥まみれとなり、俺はレイをさらに痛めつけるふりをしながら転がったレイを引き起こして輝ける金髪に泥を塗って汚す。

そして彼に囁く。


「隙を見て逃げてください」


「無理だな。まさか、孤児院周囲の家々の住人が、すでに盗賊か何かになり変わっていたなんて、僕こそ気がついていなかった」


「申し訳ありません。俺がもっと早く気がつくべきでした」


一般の民家や小さな商店から出てきた大人達は、どこから見ても単なる町の一般人にしか見えない。俺達を囲む人間はどこから見ても牧歌的な無害な人々にしか見えない服装だが、どの彼らも手には包丁や鎌どころか、普通に人殺しに仕える短剣などの武器を持っているのだ。彼らは見た目通りの一般人ではない。


俺とレイは気がつくのが遅かった。

否、俺こそこの違和感に早く気がつくべきだった。


遠くに見える孤児院が孤児院の癖に、子供の姿どころか声も聞こえなかったところで違和感を感じるべきだったのだ。俺もレイも無駄に騒ぎ立てない子供だったばかりに、子供が教会の前庭にも孤児院の建物すぐ横に一人も見えないことを、今の今まで全く不思議に思わなかったのである。


「何のためのスキルなのか。いや、スキルに頼って目で周囲確認をしていなかったせいだ」


「落ち込むな。何ごとも経験。今日の出来事が明日には血となり肉となる」


「レイの実年齢は俺のじいさんくらいですか?」


「かもね」


俺のサーチには彼らという点が見えるが、単にただの一般人を示す灰色の点なだけだ。こうして目で武器を持っているのを見て、ようやく一番近くの人物を示す点が赤く変化した。俺は、目で見える範囲の大人達を視線で確認する。


ピコ、ピココと音が出ればそう聞こえるように、どんどんと灰色だった点が敵を示す赤色に切り替わっていく。


凄いな、全員が真っ赤なアラート物件だ。


農家のおかみさんのような無害そうな中年女性が、隣に立つ雑貨店の親父に話しかけるのはどこにでもある風景だが、彼等の言葉は汚い犯罪者のものだった。


「あそこの孤児は全員船に乗せたはずだがな」


「奉公から帰って来たガキかもしれねえな。奉公先が祭りだからと温情見せたばかりに、里帰りしたガキが追加商品になるのか」


俺はレイの手を掴み、彼に小さく囁いた。

俺がする事に何でも従ってください、と。


レイは俺よりも一つ下だが、俺よりもかなり背が低く見える。

俺は十二歳くらいを演じ、レイは奉公ができる八歳くらいを演じれば、俺と彼が伯爵家の嫡男と王子様ということを隠していけるはず、だ。




「すまない。君に何て謝って良いのか。君にしか真実を告げられなかった弱さで、こんなろくでもない状況に君を引き込んでしまった」


実は人身売買の犯罪者達に船に乗せられてから、俺の記憶はとぎれとぎれだ。

俺がまず奴らの手からレイを逃がそうと行動を起こしたが、突きこまれた棒にて一瞬で抵抗ができなくなったせいだ。


魔物のニードルバイソンに使う電撃棒を、あどけない子供に使うとは。

いくら俺でも昏倒する。


けれど、レイがこの国の王子とバレてはいけないと、朦朧としながらも俺はレイを罵って叩くふりして顔に泥を擦り付け、自分は貴族の息子だとがなり立てた。

犯罪者共はどうやら「孤児院の子供」は全員生きたまま引き取り先に送り届けたいようだから、これならばレイは孤児院の子供として殺されはしないんじゃないか。俺はそう状況を読んで暴れたのだ。


結果、俺は小うるさいガキだと鞭打たれ、捕えられていた子供達は俺が痛めつけられる姿を見せつけられた事で全員が脅えて静かになった。


いや、泣くのを止めないレイがいた。


「君はばかだ。君が死んでも僕はもう君を取り戻せないというのに」


彼はいつもは余裕綽々のくせに、年相応の子供みたいに泣きじゃくっているのだ。

演技のし過ぎだよ、レイ。

そうだ、俺の記憶がとぎれとぎれなのは、お前のその姿を忘れてやろうっていう、俺の友達がいのお陰だろうな。


「だね。お前は良い男だよ、ジェット」


俺は殴られて内出血したせいで重たくなっている瞼を無理矢理にこじ開ける。

俺の視界には、いつものニコニコしたディがいる。

俺はディの大好きな顔が見れた嬉しさでそのまま意識を手放そうとしたが、俺と目が合った瞬間のディの瞳の色にぞっとして意識がハッキリした。


ディの瞳が、魔物のような無機的な物に変わったのだ。

瞳の輝き方が変わっただけで、笑顔が俺の心を温めるものから寒からしめるものへ変わってしまうなんてね。


「ゆる、ゆるして……くだ、さいいいいいい」


俺が叫んだのではなく、これは大人の男は情けなく叫んだ命乞いの悲鳴である。

俺を痛めつけていた大男が、今や俺よりも小柄なディに必死に泣き叫んで命乞いをしているだななんて。

俺は無様に意識を失っていた自分が情けない。

君の勇姿を見逃してしまっていたなんて!!

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― 新着の感想 ―
(;゜Д゜) こ、これは 大変だ!親分てえへんだ! どどどどどどどどうなるんやあわわわわわわわわわわわ(;´Д`) 誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…
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