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どうやら正解に辿り着いたようだけれど

ジェット・オブシディアがディという妖精に出会い、殿下とディによって挫折と惨めさを味遭わされたその日。

ああ、俺は次々と親しく知っている者達から裏切りを受けたさ。


姉の小間使い達が影で姉と母を馬鹿にしていた。

そして、俺の親愛なる優しき素晴らしき姉が、物語作家になる夢の為に積極的に人の悪口を聞いてネタになると喜んでいたということ。


制服を着て学園に通うのは、平民の特待生クラスや下位貴族家や裕福な商家の子女が通う制服着用女子の多いクラスに紛れ込んで取材をするためだったとは。

終わってやがる。


俺が完全に脱力した理由を、姉は自分ではなく環境に落ち込んだと思ったらしい。

そのまま座ったベッドに沈み込んでいきそうなドツボ状態俺の横に、姉は座る。


「あなたは優しいから私のことで傷ついて怒ってくれたのね。私が何を言われても楽しく聞き流せるのは、あなたという素敵な男の子がいつだって味方だからよ」


「あね様。俺を泣かせないで。そんな風にあね様は俺を思ってくれるのに、俺なんかね、殿下のお相手なんて良いものじゃない。殿下がストレス解消に、馬鹿にして揶揄って遊ぶだけのサンドバッグ。奴隷だよ」


「まああ。どういうこと。お聞かせなさいな」


俺はその日に起きた事を姉に語り、姉は俺を抱き締めてくれた。

だが殿下に対して憤慨もせず、殿下が悪いとも断じなかった。

多分、俺も語りながら、殿下が本当に憂いでいた事に気がついたからだろう。


姉が小間使い達が自分を馬鹿にしていると知っていても大ごとにしないのは、小間使い達を簡単に解雇できる力があるからこそだ。また我が家が伯爵家であるならば、彼女達を解雇すれば彼女達だけでなく彼女達の家族までも影響を受けることは想像すればわかること。


それに、彼女達を雇い入れる時に面接し、姉の小間使いにと振り分けをした女中頭こそ、その責を負って職を失う。

女中頭のメアリー・ジュネだけは、裏の顔のない忠義者と俺は言い切れる。


姉はちゃんと自分が行動を起こした先まで考えて、己が我慢する(楽しむ?)方を選んだのだ。

俺は今まで何も考えてもいないかったし、見えてもいなかった、と反省だ。


平民である使用人や我が家に仕える人達は、高位貴族の我が家の動向一つで身の上が地獄にも天国にもなるのだ。ならば、その家の子供である俺に心にもなくおべっかを吐き、おだてて気に入られようとするのは当たり前だ。

仕えた主人のせいで一蓮托生で糞を掴みそうならば、隠れて主人を罵倒する息抜きぐらい許されてもいいだろう。

姉の小間使い達のように。


「それでも俺は母と姉を侮辱したことは許せないよ?」


「飼い殺しって言葉をご存じ?」


……………………あね!!


なんていうこと。

俺は一晩で人間には裏と表があってしかるべきって、理解しちゃったよ。

そんな風に今まで自分を取り巻いていた人達を穿った見方をするようになってしまったのだ。つまり、笑顔を俺に向けている人のその表情が、心からなのか、単に俺を取り込みたいだけの作りものなのか、考えるようになったってことだ。


そうして考えて、俺はレイが俺を見下していた理由に気がついたのである。


俺は誰から見ても正義感に溢れた良い子だ。

けれど俺は人を見る目が育っていない。

そんな俺が誰かを、悪い人間、と断じたとしたら、俺の父の権力を利用したい人間は俺が間違っていようが俺に追従し、その悪人と名指しされた人間を大勢で囲んで断罪してしまうのでは無いのか。


俺は思ったことを姉に語っていた。

俺の話を聞くばかりだった姉は、そこで初めて涙を流した。


「幼い子供の成長を喜ぶ母親の気持がわかったわ。それにしても、自分が悪人になっても親友の成長を促すなんて、殿下はなんて尊いの!!いいわね。こういう親友もの。私の小説に足りないのは、登場人物の人間関係が甘かったからね!!」


「くそ姉」


俺は憤慨しながら姉にクッションをぶつけていたが、その実、俺は今後姉が書く小説を自分だけは絶対に読んでやろうと決めた。俺だけは姉の理解者で味方でいたいと思ったのだ。姉が俺にそうであるように。

もちろん、ダメ出しだってするし、俺のことを書かれたら許しておけんが。


だが、姉のお陰で俺の気持が軽くなったのは確かで、翌日は殿下に挑む気持ちにまでなっていたことは驚きだった。昨日はあんなにも意気消沈していたのに。


王宮にて殿下を前にした時、俺は素直に自分が足りなかった事を認めた。

そして、俺が殿下を守れるように、ディから戦い方を学びたいとも願った。


「俺には体術も剣技についても教師がついていますが、伯爵家の息子である俺の機嫌を取るだけです。本気で俺を痛めつけ、俺を高みに連れて行ってくれる指導が欲しい」


「ハハハ、凄い。君は合格だな。嬉しいよ。君がこのまま育ってくれたら、僕はきっと幸せな未来に辿り着けることだろう」


「レイ。君の本当の年齢は、俺の親父くらいなのかな」


レイは、かもね、って笑った。


「君の家に血統魔法があるように、王家の王座に近い者には異端の秘術(ゼノアルカナム)が備わっているからね」

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― 新着の感想 ―
ジェットさん 一回り大きくなりましたね( ̄▽ ̄) 上手く言えないけど、 なんか、頷いてしまった回でした。 ですよねですよねと言いながら読んだ。 ほんとそうですよ。 お姉さんの言う通りです…
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