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君の認識が頑ななのは脳筋だからですか?

ジェットに引っ張り込まれたのは講堂の裏の林の中。

ここなら人目は無いと言いやがったが、ここに来るまでにジェットに私が連れ去られた場面を講堂にいた人間全員に見られている。

だけど、今の時点で人目が無いのは確か。


私はジェットに掴まれていた自分の手首を捩じることでジェットの手から剥がし、ついでにジェットの鳩尾に軽く拳を入れた。

身体強化無しで。

伯爵家のご嫡男のジェットに怪我をさせてはいけないが、私のこの憤りは昇華させて欲しい、そんな気持ちの行動でしかないから。


「いったあ」


「お前の攻撃は見切ってる」


「見切っているってのは、まず受けないこと。しっかり拳を受けて偉そうにするな。避けろよ。大体、私は身体強化もしていない状態で殴ったんだから、貴方様にダメージが無いのは当たり前でしょうが。……くっそ。石男め。拳痛めた」


「ああ、悪い」


ジェットは私の右手を両手で包み、回復魔法で一瞬にして癒す。

騎士を目指す彼は剣術体術を極めようと鍛錬を欠かさないが、そのせいで体を壊しかけて以来、壊した体を癒すべく回復術も極めているのだ。

全く、この「無駄な永久機関」め。


「オブシディア様が筋肉脳なのは分かっていた事ですけどね、入学式でやらかしてくるとは思いませんでした」


「俺もお前がここまでしてくるとは思わなかった。ちくしょう。今回のお前の任務については俺は純粋に喜んだというのに、こんなことをしてくるとは!!」


「何を怒っているんです? 私は、まだ、何もできてませんけど?」


「自分を見てみろ!!」


「え?」


私は自分の体を見下ろす。

男子生徒が金色の組紐の飾りもある派手な紺色の上着とスラックスの軍服風上下であるのと対照的に、女生徒は白い襟とカフスが付いた修道女見習いが着るような地味な紺色のワンピースだ。男子の制服では着崩せる猶予もあるが、女生徒の制服はどこも弄れない。だからこそ、金のある家の女生徒は明日から私服に身を包むだろう。それぐらい面白みのない服だ。


「どこもおかしい所はないはずです」


「ああ、おかしくないよ。良く似合っている。可愛いくらいだ」


「吐き捨てるように言われても嬉しくないです。私の恰好がおかしくないなら、どうしてこんな場所に引っ張ってきたのですか? 私は業務上目立っちゃいけないんですけど?」


「わかっている。だけど我慢ができなかった」


「だから、なにがです?」


殿下(レイ)の妃候補を見極めるために学園に潜入してきたんだってことは、レイに聞いていたしわかっている。だが、そこまでする必要はあるのか? いくら女性徒の動向を探らねばならないとしても、大の男が女装してまでする仕事か?」


「いや。私は女ですが?」


「わかっている。そういう設定なのは」


「そういう設定も何も女です」


「分かった勤務中だものな。だが、言わせてくれ。せっかく普通の生活ができる機会なんだから、お前は生来の自分に戻ってもいいだろうと俺は思う。殿下が君に今回の仕事を振ったのは、殿下こそ俺と同じ気持ちだからだ」


「いや。だから、生来の姿だし、髪だって伸ばしたんだし」


何を尻すぼみになりながら言い訳しているかな、私は。

だけどと、私は自分の足元を見つめる。

黒い革靴の丸い靴先が、昨日まで履いていた戦闘用ブーツと違うと輝いている。


ワンストラップの丸っこいフォルムをしたこのシューズは、今回の任務の為だと支給されたものではない。街歩きした時に見つけ、履く事は無いと思いながらも購入していた私物である。ストラップに花型に切り取られた革飾りが飾られているという、一目で欲しくなった可愛い靴なのだ。


殿下はそんな私を知っていて、私に普通の女の子の格好ができる時間を与えたいと、今回の任務に私を抜擢してくれたのだろう。


だから、私は殿下のお気持ちが嬉しくて、今日の入学式まで自分の姿がちゃんと女の子に見えるように頑張ったのだけどな。


ジェットが私を女だと認識していなかったのは、今までの私が髪の毛など男性がするぐらいに短く刈っていたし、女に見えない恰好ばかりだったからだろう。


ちゃんとしたご令嬢を知っているジェットの目には、今の私の姿は男が女装している姿にしか見えないのは仕方がない。まだまだ髪の毛は短いし。

もともと平民の私の髪など平民でよくある黒っぽい茶色でしかないし、髪質だって巻き毛でもサラサラ真っ直ぐでもなく収まりの悪い癖毛だ。


「似合わない……よね」


「似合うから問題なのだ!!」


私は怒鳴ってきた声にビクッと震える。

そして、呆気にとられた。

片手で口元を押さえてそっぽを向いてしまったジェットだが、なぜか首から上を見たことも無いぐらいに真っ赤にしているのだ。

蒼炎の騎士のくせに。

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