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安全にダンジョンを脱出しましょうか、と

ジェットはしゃがみこんで悶えている。

思わず蹴り込んでしまいたくなる不格好さだ。

私は蹴りたい心のまま右足を持ち上げ、だが蹴り込む瞬間に私の足を止めてしまうジェットの呟きが聞こえてしまった。


「可愛い」

ぐっ。


「可愛すぎて、男だって忘れてしまう」

ぐぐっ。

むず痒い。


可愛いは正義と誰かが言っていたが、こういう意味なのか!!

可愛いなんて褒めて来た奴を裁く事ができなくなる、そんな意味。


私は自分を恥ずかしげもなく褒める男を蹴ることはできず足を下げ、その代わりとして荒々しくジェットの腕を掴んで引き起こす。

その後はジェットを引き摺る勢いで、私はダンジョンへと彼を引っ張って行く。


「…………ほ、ほら、行きますよ。ダンジョンです。入らなきゃ、せっかく早く来たかいが無いじゃないですか」


「ああ、そうだ。そうだな、あ」

「あ」


!!


ぐにゃっという違和感を同時に感じた瞬間、多分私達は冷静に同じことを考えたと思う。ダンジョンの転移装置に乗った時と同じ感覚だなって。


足元がハッキリすれば、私は急いで周囲を検索する。

ダンジョンというものは、実は真っ暗な場所ではない。魔素で作り上げられた魔物とも言える存在なためか、ダンジョン内は魔素の輝きで仄かな明るさがあるのだ。もちろん、松明など灯りが無ければ先に進めない程の明るさでしか無いが。


だが今回はその明るさがあったお陰で、私は周囲の様子をすぐに確認できた。

ダンジョンによくある石造りの通路であるが、蔦の這うどこぞの遺跡風な白い壁面からして見知っている十階までの浅い層とは違う、と。


「ちっ。未踏階か」


「お前もか。ちなみにお前は何階までだ? 俺は三十二階だ」


「奇遇ですね。私も同じですよ。このくそダンジョン規定は、ソロは三十二階層までって決まってますからね」


「それじゃあ、新たな世界への到達に喜ぼうか」


ジェットは腰から大剣を抜く。

そして私はこれから二人がここを突き進むために明りを作る。


「リュミエール」


手の平で生まれたこぶし大の明かりは頭上へと飛び、そこで弾けて輝いた。

私達が既に囲まれているのを教えるようにして。

目測で敵の数は十六匹。


緑色の肌のそれらは、尖った耳に尖った鼻先、そして腰布だけを付けている。そのいで立ちと肌の色はゴブリンと同じだが、身長がジェット程度はあることでゴブリンではない。その上位種だ。


「ホブゴブリンか。大したことは無いな。罠どころかお遊び程度の悪戯なのか」


ジェットが小馬鹿にしたような声を出した。

それでも彼は覇気を周囲に廻らせ、ノロマな敵をさらに動けなくさせる。

どこでだろうとジェットである彼に信頼が湧くと同時に、このダンジョン名が愚者のサイコロストゥルトゥスアーレアとは良く名付けたものだと、心の中で感心の声をあげる。


このダンジョンが発見されてから十五年、王都内であるのにもかかわらず未だに誰にも踏破されていないのには理由があった。

転移トラップが踏破された階にても無作為に発動し、数々の冒険者達を行方知れずにして来たからだ。


けれども冒険者もギルドも、折れなかった。冒険者達はダンジョンに潜り、ギルドは報告を数年かけてまとめて来た。そこで、踏破された階層での転移トラップが発動した場合は、踏破された階層内での転移だけ、と推論できたのだ。


ソロが三十二階までと決められたのは、それが理由だ。

ちなみに、ストゥルトゥスアーレアの現在の到達最深階は、「暁の遠吠え」というクラン探査による四十五階層である。


三十二階までは潜った事のある私達が今の場所を知らないというならば、ここは私達が知らない三十三階から四十五階までのどこかの階層ということだろう。


「さてどうしようか」


「どうしましょうか」


ここで私達が悩んだのは、この事態、ではない。

転移石を求めて上を目指すか下を目指すか、それだけだ。


「ぎゅわっ」


瞬時に魔物を一匹仕留めた男は、剣を軽く振るって「とりあえず」と呟いた。

私も、自分の得物を腰から引き出して襲い掛かって来た二匹を屠る。私の得物は小型のシャムシールで、両手に構えての二刀使いだ。

回転しながら刃を振るった事で、綺麗に斜め切りとなったホブゴブリン達の胴体だったものが床にドコドコっと落ちた。


「さすが。とりあえず、この階の魔物をせん滅してから考えよう。離れるなよ」


「とりあえず、私からは距離を取って下さい。巻き込みたくありません」


私は飛び出して後方の魔物達へと斬りかかる。

風の疾風魔法を纏っての切り刻みならば、敵の手足どころか胴体ぐらい簡単に輪切りにしてしまう。いまや十三匹に減ったホブゴブリンだが、これ以上囲まれては上手く剣が振るえなくなる。背後から来た奴らは私が担当し、前方はジェットに任せればよいだろう。


「ホブゴブリンの囲みぐらい、一刀だ。下がれ」


私は突っ込むための基軸の足を、回避のための踏み込みに使った。

進むはずが斜め後ろに飛び退いた私の目の前で、暗かった迷路に青白い閃光が閃き、瞬時に爆風だって起きた。


ジェットは大きく振るった一太刀にて、私達を囲んでいた前と後ろの魔物を討ち払ってしまったのである。

ホブゴブリン如きに技を使うとは、なんというオーバーキルな自分の無駄使い。


「オブシディア流餓狼爆裂剣。俺達の露払いには調度良いだろ?」


なんか、物凄くイラアッとした。

だから言ってやった、技名がカッコ悪いですねって。

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