第九音《変律ノ調》
◇アバン:舞台袖、五人の想い(M1)
音楽祭本番のステージ袖。
ついに出番が来る。
五人の少女たちは、それぞれの想いを胸に、静かに深呼吸する。
> 天音「……詠、変な顔になってるぞ」
> 詠「へ、変な顔ってなによ!」
> 澪「……あの時の音を、忘れなければいい」
> 琴羽「みんなで、奏でようね。今日も、きっと――大丈夫」
> 理央「支配すべきは他者ではなく、自らの律」
> 理央「……さあ、行こう」
そのとき――
風が止み、空間がきしむ。
突如、空間に歪みが走り、周囲の音が不自然に揺らぎ始める。
> 澪「……このコード、ズレてる……?」
ギターがいつも通りに鳴らない。
天音の太鼓が刻んだ拍も、微妙に他と合わない。
「何かが変だ」と気づいた瞬間、敵が現れる。
> オルタレーター「さあ、調和の世界に“変律”を刻もうか?」
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### Scene 1:演奏の崩壊と動揺(M2)
音がにぶく、もつれるようにずれていく。ステージ上の空気が変質したかのように、ピッチが微妙にうねり、ディレイが発生する。音と音の距離が伸びたり縮んだりする錯覚。
理央のベースは低域がにごり、グリッサンドが歪んで震える。澪のコードは本来の進行を保てず、弦を押さえる指が迷い始める。
>澪(コードが……ズレてる。違う。違う音。分かるはずなのに……)
視界が狭まり、空間がよじれる。
自分の“音感”が破られていく。
ギター少女にとって、それは自我の根幹を否定される感覚だった。
琴羽の鍵盤はリバーブの深淵に沈むように響き、
和音が一つ、また一つと崩れていく。まるで桜の花が風に散っていくように――彼女の旋律が、静かにほどけていく。
>琴羽「……桜、が……まって……どうして……」
詠の声はぶれ、息が浅くなる。
音を出そうとするたびに胸が締めつけられ、呼吸が保てない。
>詠「っ、く……ごほ、ごほ……っ」
>詠(歌えない……!)
観客たちも異変に気づき始め、ざわつきが広がる。
観客A「今の、音外してない……?」観客B「調が狂ってる? トラブル……?」
舞台袖で演奏を見守る音楽教師たちの表情も強張る。
教師「ノイズか? いや、ただのエフェクトじゃない……」
詠「みんなの音が……合わない……どうして……?」
オルタレーター「キーが変われば、音はすべて狂う。君たちの調和など、脆い幻想だよ」
五人の視線が交錯する。調和の崩壊は、まるで心の崩壊を象徴していた。
詠が小さく呟く。
詠「……やだよ。ここで、終わりたくない」
そのとき――風を切って、あの小さな影が飛び込んでくる
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### Scene 2:ミヨリの登場と音楽講座(M3)
危機の中、ミヨリが音の波を割って飛び込んでくる。
ステージ脇から、軽やかな音符をまき散らしながら音の軌道に乗って滑空してきたのは――ミヨリ。
しっぽから流れる音階の光が、ステージに柔らかな残響を残す。
小さな身体に似合わぬ存在感で、ふわりと中央に舞い降りた。
ミヨリ「まったく、おぬしたち、音がズレとるぞぃ!」
詠「ミヨリ……!?」
ミヨリ「こういう時は、まず“調”を見直すんじゃ。いいか、よく聞くのじゃぞ――“カポ”の出番じゃ!」
ミヨリは自信満々に、詠のギターに小さなカポを取り付ける。
詠「なにそれ、ちっちゃい金具? ……こんなもので、音が戻るの?」
ミヨリ「うむ、“カポタスト”というんじゃ。フレットに取り付けて、音の高さ=キーを物理的に変えるんじゃな」
澪「……なるほど、コード進行は変えずに、調だけを上げる……」
ミヨリ「その通りじゃ。調がズレたままじゃ、どんな名曲もノイズに変わる」
詠はおそるおそるコードを鳴らす。…音が合っている。
詠「……ほんとだ。揃った……!」
ミヨリ「琴羽よ。おぬしの鍵盤はシンセじゃろ? 転調しても、トランスポーズで対応できる」
琴羽「うんっ、転調の幅は2度だよね!」
ミヨリ「その通り。“音の幅”がそろえば、音はまた繋がるんじゃ!」
ミヨリ「でもな、並んどる“音の幅”が同じなら、ちゃんと“同じ旋律”に聴こえるんじゃよ!」
琴羽「……度数ってやつ、ですねっ」
ミヨリ「正解じゃ! “5度”や“3度”の関係がズレなければ、転調しても成立する!」
詠と琴羽が視線を交わし、うなずく。
詠「カポで合わせるなら、そっちも転調に対応してくちょうだい!」琴羽「了解! こっちはトランスポーズで追従するよ!」
二人の音が、今度は“正しく”重なった――。
そして、再びステージに音が戻る。
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### Scene 3:各奏者の対応力覚醒(M4)
ステージに再び音が戻った。だが、それはまだ“調律前”の状態。
ミヨリの導きと二人の再始動に刺激され、残る三人も、それぞれの方法で“音の乱れ”と対峙する。
◆ 澪の覚醒:耳で支配する旋律
ギターを抱え直し、澪は静かに瞼を閉じた。視覚ではなく、感覚でコードを探る。
澪「……私には“見える”。音の軌道が」
音の波形が五線譜のように脳内に広がる。指板を走る指は、歪みきったコードの中から一筋の正しさをたぐり寄せていく。
彼女は単音を紡ぎながら、空間の“調”を探るようにスケールをなぞる。メジャースケール、マイナースケール、モード、次々に指が移り変わる中で、今の調性に合った音階がひとつ、澪の指先に残る。
澪「この転調、DメジャーからE♭に上がってる……つまり、使うべきはE♭メジャースケール……」
スケールに沿ったコードフォームを脳内で展開しながら、ズレた世界の中でも、彼女の耳は確かな“根”を聴き分けていた。
澪「こんなズレ……耳で合わせれば済むだけよ」
◆ 理央の覚醒:律を掴む支配の音
理央はベースを見下ろし、静かに口元を引き締めた。
演奏は、論理と再現。乱れたコード進行も、構造を理解すれば再構築できる。
理央「……根音は残っている。ルートがあれば、構成は起こせる」
オルタレーターの放つ転調ノイズを“律の網”で打ち返すかのように、ベースの低音が波を切り裂いていく。
理央「律は、支配するためにある――私が軸を定める」
◆ 琴羽の覚醒:光をまとう共鳴の和音
詠と連携し、トランスポーズを使って転調対応を済ませた琴羽は、なおもその先を見据える。
彼女のシンセは、単なる楽器ではない。“音色”という色彩を操る筆。
琴羽「みんなの音を、……ちゃんと抱きしめるんだ」
左手でコード、右手でパッド。彼女の指先からは、調整された波形が優しく舞台を包み、乱れた空間を癒やすように響き始める。
琴羽「……一緒に、響こう」
◆ 天音の覚醒:刻むは律動の礎
太鼓。打面。テンポ。変わらぬはずのものすら、ノイズに蝕まれつつあった。
けれど、天音は知っている。
リズムとは“整えるもの”ではない。“支えるもの”だと。
天音「……ズレは、正すんじゃない。支えるんだ」
彼女の手が打面を叩くたび、ズレていたテンポが一本の芯を持ち始める。
浮いていた澪のコード、揺れていた詠のメロディが、鼓動とひとつになる。
天音「これが、私の音」
舞台に、五人の音が揃った。
それは、ひとつの“調”ではなく、五つの“解”が繋がった瞬間だった。
オルタレーターが再び手を掲げると、空間が揺らぎ、複数の転調フィールドが出現する。
五つの“変律ゾーン”――それぞれが異なる調で構成されていた。
オルタレーター「さあ、調律の迷宮へようこそ……。五人の音を、引き裂いてみせろ」
空間がズレる。音が歪む。律動が乱される――しかし、誰一人として動じない。
理央「……ならば、五人で一つずつ受け持てばいいだけのこと」
澪「E♭は任せて。スケールは把握してる」
琴羽「私はF♯で。色合いも調整済み……うん、きっと大丈夫」
詠「私はD! これでギターが一番映えるし、ミヨリのカポも生きる」
天音「リズムに調なんて関係ねぇ。どこだろうと叩き通すだけだ」
五人は互いの音域と調性を補完しながら、それぞれの“変律ゾーン”に身を投じていく。
転調攻撃――それは本来、調和を崩すためのもの。
しかし、彼女たちは“崩れる”のではなく、“受け入れて、対応する”。
音がずれたなら、そこに合わせる術を知っている。
テンポが崩れたなら、支える覚悟がある。
旋律が異なるなら、それごと包み込めばいい。
ミヨリ「ようやった、ようやった! これぞ、音の戦じゃ!」
そして再び――五人の音が、ひとつになった。
空間が揺れ、オルタレーターの転調フィールドが破られていく。
その中央に立つ少女たちの音が、今、敵の支配する“律”を、超えて響いた。
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### Scene 4:変身とライブバトル開始(M4.5)
ステージに、五つの律が揃った。
その瞬間、空間が震える――
異なる“調”が一つに収束し、《音場》が再構築される。
ミヨリ「来たぞ、五人の律が重なった……今こそ“契”を結ぶときじゃ!」
五人の胸元に、淡く輝く紋章が浮かび上がる。
それぞれの“音の祝福”が反応し、輝きが放たれる。
理央「支配する音ではない。響き合う律――その名は」
五人「《五色ノ契》!」
次の瞬間――変身が始まる。
◆変身シークエンス:五色の律動
■ 詠:燃えるような桜色の光が舞い、ギターと共にジャンプ
詠「行くよ! みんなの音を、私が導く!」
祝装が咲き誇る
■ 澪:深海のような藍の光が旋律をなぞる
澪「……音は、裏切らない」
祝装が静かに灯る
■ 琴羽:淡く咲く風桜の風がキーボードを包み込む
琴羽「一緒に……響こうねっ」
祝装が優しく発光する
■ 天音:雷鳴のような赤橙の鼓動が轟く
天音「刻むのは、私の律動――!」
祝装が炸裂
■ 理央:紫の律紋が螺旋を描き、ベースと共に収束
理央「すべては式に還元する」
祝装が編み上がる
彼女たちは五つの音色を背負い、再構築されたステージに立つ。
空間が変わる。音が変わる。
“演奏”が、“戦い”になる――。
> オルタレーター「君たちの調律が、本当に正しいか試させてもらおう」
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### Scene 5:《ライブバトル:オルタレーター戦》(M5)
舞台に五つの音が揃い、ついに反撃の時が訪れる。
祝音少女《五色ノ契》――その音が、変律のノイズへと真っ向からぶつかる。
演奏開始の号令もいらない。
詠が一歩、前に出る。
詠「いくよ……“今の私たち”の音で!」
ステージが音と共に輝き出す。
澪のギターが、先陣を切って空間を切り裂いた。
澪「“この調”なら、届く……!」
コードはE♭。ズレた空間に合わせ、五人の音がそれぞれのスケールで応じる。
天音の太鼓が、拍を刻む。
理央のベースが、その根を打ち込む。
琴羽のシンセが、和音とパッドで全体を包む。
詠のボーカルが、旋律に命を吹き込む。
♪五つの“調”で 一つの歌を――
同時に、敵も反撃を開始。
転調攻撃――それは、フレーズの途中で調を変えることで、五人の演奏を崩す音波。
しかし――崩れない。
ミヨリ「ぬふふ、さすがじゃの!」
詠は咄嗟にギターのポジションをスライドさせ、カポで対応。
澪は耳で軌道を読み、スケールを合わせる。
理央はルートを先読みし、理論で律を打ち返す。
琴羽はトランスポーズと和音調整で包み込み、
天音は全体のテンポを保ち、音の重心を支える。
オルタレーター「なぜだ……なぜ調が崩れない……!」
理央「“共通律”を編んだのよ。五人でね」
五つの異なる旋律が、ノイズの変調に“共振”する。
澪「変わる音に、変わって応える」
詠「でも、変わらないのは――」
全員「――この気持ち!」
五人の音が一点に重なる瞬間――
最終楽章《Re:Tune》が始まる。
♪Counter-Key! 変わり続けるこの瞬間を
Counter-Key! 五つの音で包み込むよ
もう迷わない 誰もひとりじゃない
“共に響く” それが私たちのAnswer!
音の波動がオルタレーターを包み、浄化していく。
空間の歪みが晴れ、観客席に歓声が戻ってくる。
ミヨリ「祝音、調い申したっ!」
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### Scene 6:オルタレーターの浄化・消滅(M6)
共鳴音がオルタレーターを包み込み、調の狂いを無力化する。オルタレーターは音の中に消えていく。
オルタレーター「君たちの音は……調和すらも超えていた……か」
空間が静けさを取り戻す。ざわついていた観客席にも、今は静かな感動の波が広がっていた。
観客の声「……ありがとう」「戻ってきた音、忘れない……」
ミヨリが五人に近づき、少しだけ真剣な表情で語る。
ミヨリ「しかし、これは始まりにすぎん。次に来るのは、もっと根っこを壊す奴じゃ」
五人は、それぞれの楽器を見つめながら、静かにうなずいた。
Scene 7:次なる律への前兆(M7)
ステージの後、控室で休む少女たち。
演奏の疲労と達成感に包まれる中、ミヨリが空を見上げ、不穏な気配に眉を寄せる。
ミヨリ「この先は“律そのもの”を歪ませる敵が来るぞい……」
その言葉に、五人は一瞬息を飲み、静まり返る。
詠「やってやろうじゃん……次も、五人で」
理央「ええ。次は“形式”そのものが壊される……予感がする」
澪「スケールも、コード進行も……壊されるなら、わたしの“耳”で拾う」
琴羽「でも、きっと大丈夫。今日、みんなで音を重ねられたから」
天音「うん……壊されても、また立て直せばいい」
ミヨリはふわりと浮かび、静かに頷く。
ミヨリ「うむ。その調子じゃ。おぬしたちの“祝音”がある限り、この世界はまだ大丈夫じゃよ」
空の高みで、見えない何かが“律”を軋ませるような残響を放つ。
次なる脅威は、すでに足音を忍ばせていた。
Scene 8:ノイズ本部《パワハラ会議》(M8)
一方その頃、ノイズ本部――。会議室の空気は凍りついていた。幹部たちが沈黙する中、中央には怒りの気配をまとう少女の姿。
>カナミ「主任アレグロが敗れ、次の《係長オルタレーター》まで落とされた……」カナミ「ノイズの名が泣くわ。ふざけてるのか……!」
その声と同時に、壁が音でひび割れ、ガラスが砕ける。幹部たちは誰も反論できず、俯く。
>カナミ「もういい。次は“律”を壊す者に任せる……」
>カナミ「出ろ、《ディストノーム》。次はお前の番だ」
新たな敵、課長ノイズ《ディストノーム》が、沈黙のまま前に進み出る。
ディストノーム「律の再構築……承知した」
暗転。
(第10音《歪律ノ調》へ続く)