第七音《再音:not alone, not yet -re:link-
アバンタイトル:《空白の五線譜》
澪は屋上で、一人ギターを抱えていた。
空は晴れていたが、心は曇っていた。
音が揃わない。あの五人で、まだ“ひとつの音”になれていない。
思い出すのは過去の屋敷。誰も触れてはいけなかったクラシックギターだけが、彼女の孤独な友だった。
父の倒産で全てを失ったあとも、それだけは唯一、手放さなかった。
今は団地の壁越しに響く生活音と、古いアンプのノイズの中で音を紡ぐ。
Scene 0:《音楽祭の誘い》
一方別なところでは
神響女学院の掲示板に、目立つポスターが貼られていた。
「――音楽祭・参加者募集 学部・学年不問」
そこには大きく、手描きの五線譜と“響宴”のロゴ。
学園内の有志によるステージイベントで、上級生から初等部までエントリー可能な“合同演奏枠”も用意されている。
それを見つけたミヨリが、しっぽをふわふわ揺らしながらポスターを見上げ、声をあげた。
「詠よ! あれっての、五人で出るの、ありなのじゃ!」
突然の元気な一声に、詠は目をぱちくりさせた。
「……ミヨリ、それって――」
「のう! 響宴じゃと? わらわたちの“音”、今こそみなの者に見せてくれるわ!」
「“わらわたち”て……なんかテンション高くない?」
「ふふっ、でも、ちょっといいかも。ね、ミヨリ」
掲示板の《五人編成歓迎》の文字に、詠の目が留まる。
その目に、ふと光が宿った。
「……よし。五人で、出てみよう」
Scene 1:《沈黙の旋律》
放課後の屋上。詠の声がこだまする。
「……もう一回、やってみよう?」
だが誰も、うまく反応できない。
澪だけが黙っていた。沈黙は、拒絶か、それとも戸惑いか。
Scene 2:《再出現ノイズ:テンポスナッパー》
空間が歪む。黒い霧が音楽室を包み、あのノイズ《テンポスナッパー》が再び現れる。
拍子木の音が空間のテンポを狂わせ、演奏はすべて乱れていく。
「くそっ、またかよ!」天音が叫ぶ。
「音が……つかめない……っ」琴羽の指が止まる。
「演奏が崩れる。基準拍がズレてるのよ……」理央が分析する。
Scene 3:《拍を揃える魔法》
「わたしが、基準を示す」澪が一歩前へ出る。
ギターの音が響く。
静かに、正確に、空間に拍を刻んでいく。
「この音を基準にして」
理央が低音を合わせる。
天音が鼓動を重ねる。
琴羽が旋律を添える。
四人の音が、再び揃いはじめた。
「詠、歌って」
「え……わたし、まだ――」
「今なら、届く」
「君の音が、必要なんだ」
詠の足元に、祝具が展開される。
「……うん、歌うよ」
♪ 挿入歌《not alone, not yet -re:link-》(Vo.花咲 詠+ユニゾン)
【サビ】
♪ not alone, not yet
(ユニゾン)
♪ ひとりじゃ届かない旋律も
♪ 信じるだけで 少しだけ近づける
♪ もう一度 声を重ねてみるよ
♪ まだ未完成なこのバンドで
♪ 未来を――鳴らしたいんだ!
テンポスナッパーが最後の抵抗を見せるも、
五人の音は崩れず、ついに黒い霧を打ち破る。
Scene 4:《仮初から真実のアンサンブルへ》
「……今の、ズレてなかったよね?」詠がそっと口にする。
「不完全だけど、同じ方向を向けた」理央が答える。
「……何度でも、合わせていこう」澪の目が、やさしく光る。
彼女たちの音は、まだ未完成。
けれど、それは確かに“音楽”だった。
Scene EX:《黒い会議室》
黒ノイズの漂う、異様な静寂。
会議机に座るひとりの少女。
脚を組み、指でリズムを取っていた。
だが、それは音にはならない。ただの無音の律動。
「ふぅん。テンポが狂ってたってわけ」
「……下っ端の処理にしては、時間かかりすぎ」
静かに立ち上がる少女の瞳に、紫の雷が灯る。
「じゃあ次は……“主任さん”の出番、ね」