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#4

 2日後フィヨドルたちが帰って来た。例の入手困難だという部品を持って。


「一体どうやって手に入れたんだ?!」


開発局の連中はみんな驚いている。フィヨドルの返答はひとこと。


「企業秘密」


早速中断していた新型機の修理が再開された。リシェリアの不安もやわらぐといいのだが。


 ここのところのリシェリアはいつもぼんやりしていて元気がない。何か考え事をしているようだ。


戦争で前の夫を亡くしているから、家の真ん前にある戦闘飛行艇(スカイフィッシュ)が恐ろしいのだろう。旅行に行きたいと言ったリシェリアの意図が今になって理解できた。


夜うなされるほど不安定になっている。あまりにも(つら)そうなので、揺り起こすと僕の顔を見て泣き出すのだ。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


どんな夢を見たのか、ずっと(あやま)り続けていた。


僕はそんな妻の支えにならなくてはならない。



 新型機の修理が終わったのはあくる日のことだった。


帰り支度を整えた開発局の連中は、スカイフィッシュがやって来るのを待っている。

僕たちは遠巻きに見守っているところだ。


ここにいる軍人たちの中に、スカイフィッシュを操縦できる者はいない。そのため新型機に乗るパイロットを連れて来てもらうのだ。


エンジン音が聞こえて来た。


「変だな」


僕のひとり言を聞きとがめたフィヨドルがこっちを見る。


「何が変なんだ?」


「あれは単座機の音だ」


新型機のパイロットを運んで来るのなら複座機でなくてはならない。だが近づいて来る音は単座機のものだ。


「どういう事だ?」



 異変に気付いた軍人たちも、アビュースタ軍のスカイフィッシュであることが視認できると警戒を解いたようだ。機首を下げて着陸態勢に入ろうとしている。


違う! あの角度では着陸できない!


「伏せろ!!」


僕は叫んだ。


「ダダダダダダダダッ!」という機銃の発射音と、「ボボボボボボボボッ!」という弾丸が地面に突き刺さる音。直後に続く悲鳴。


 軍人たちを一掃(いっそう)したスカイフィッシュはすぐ近くに着陸した。降りて来たパイロットが修理したばかりの新型機に向かって一直線に走り寄る。


こいつはスパイだ! 新型機を奪い取ろうとしている。


「あれを敵に渡すな!!」


血を流し地面に伏したままの指揮官が叫んだ。だがもう間に合わない。スパイはすでに新型機に乗り込んでいる。


僕は走った。スパイが乗り捨てたスカイフィッシュに向かって。エンジンはかかったままだ。シートベルトを装着しすぐさま離陸する。


新型機はすでに空の彼方

追い付けるか!



 新型機は今僕が乗っているスカイフィッシュより(すぐ)れている。だが、スピードに特化したものではない。だとしたら可能性はゼロじゃない。


「あ、あ。聞こえるか?」


通信機からフィヨドルの声がした。


「開発局のおっさんから伝言だ。できれば機体を取り戻してほしいけど、ムリなら撃ち落としてくれってさ」


「了解。できるだけのことはすると伝えてくれ」


「あんた、スカイフィッシュに乗れたんだな。ひとは見かけによらないもんだぜ」


フィヨドルが驚くのも当然だ。彼は僕の過去を知らない。


「ブランクが長いんだ。あまり期待しないでくれよ」


 そう言いながらも身体は全部覚えていた。操縦席に身体を(すべ)り込ませた瞬間に、僕の中で眠っていたスカイフィッシュ乗りが目を覚ましたかのようだった。


空は最高だ


こんな状況ではあるけれど胸の高鳴りは止められない。



 僕は懸命(けんめい)に新型機の後を追った。だが、前を行く機体との距離は開いていくばかりだ。

甘かった。向こうは最高速度までの到達時間が短いのだ。このままでは追いつけない。


そう思ったときだ。急に雲がわいてきて、あっという間に空を埋めつくしてしまった。


あんなに晴れていたのに。

近頃の天気予報ははずれてばかりだ。


だが、好都合だ。黒い雲の中を稲妻が走りまわっている。新型機は一刻も速く雷雲から出なくてはならない。それはこちらも同じだが、うまくすれば距離を縮められるかもしれない。


 雷雲を突き抜けると青空が広がっていた。太陽の中に新型機のシルエットが見える。


様子が変だ。時折ふらつきながら飛んでいる。雷に打たれたか。これならいけるかもしれない。


僕は一か八かの()けにでることにした。エンジンのセーフティを外して一気に加速する。エンジンをオーバーロードさせるのだ。やりすぎると火を吹く。


追いついた!


いかく射撃をして機体を振って見せる。着陸しろという合図だ。


もう逃げられないぞ。

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