第0話「記憶」
もうすぐ引きこもり始めて20年が経過しようとしている。
一人暮らしをする訳でもなく、実家に居座りつづけている。
親の脛をかじっている、クズニートということになるだろう。
目を覚ませば、部屋の前に食事が置いてある。
料理素人の俺でも栄養を考えられているのは分かる。
そんな、料理を毎日3食、欠かさずに作ってくれている。
こんな俺を、まだ気に掛けてくれているのだろう。
本当に感謝しかない。
日中のほとんどは、ネットサーフィンをする。
たまに、昼寝をしたり、本を読んだりするが、PCを眺めている時間とは比にならない。
誰とも顔を合わせず、そのまま眠りにつく。こんな生活を繰り返す日々。
正直、こんな日常には飽きてきた。
できる事なら、職に就き、家庭を築きたいものだ。
でも、体は動かない。びくともしない。
頭でいくら考えていても、体は言い訳を探す。
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二週間後
母親が死んだ。いや、通り魔に殺されたのだ。
母は俺のことをずっと励ましてくれていた。
辛かったね、大変だったね、無理しなくて大丈夫だからね、とか。
母に助けられたことは本当に多い。
なのに、俺は何もしてやれてない。
今回、母が死んだのも俺のせいだ。
俺がもっと真っ当に生きていたら、こんな事は起きていなかったかもしれない…
俺が引きこもっていなかったら…
もっと早く行動するべきだった。
もう手遅れだ。
母はもう戻らない。
どうして、俺が生きていて母が死んでるんだよ。
おかしいだろ。
俺こそが死ぬべき存在なのに。
まだ、親孝行の一つや二つもしてやれていないのに。
もう遅いじゃないか。
お願いだよ…誰か嘘だと言ってくれよ。
くそ、情け無いよ自分が。
もう、やめてくれ。
もう嫌だ。
何もかも。
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四日後
葬式を明日行うことになった。
父親が葬式に出る出ないお前の自由だ、と部屋の扉を境に言ってきた。
久しぶりに聞いた父親の声は、どことなく弱々しかった。
親に迷惑ばかり掛けてきた、俺が葬式に行っても良いのだろうか。
何も努力せず、変わろうとしてこなかったのに。
俺には行く資格がない。
そんなことを思いながら布団に入った。