表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ルームメイトと、運命的な夜

作者: 佐藤山猫

 部屋に戻ると、ルームメイトのリコが飛びかからんばかりに抱きついてきた。

「アイちゃんのにおいだ!」

 犬みたいにすんすんと鼻を使っている。

「スカート皺になるよ」

 せっかく贈ったやつなのに。

 私の背に回された手から硬い感触。ザイルだ。掲げてリコは言った。

「アイちゃん! お願い! うちを縛って!」

「またヘンなことを……」

 リコはたまにおかしい。最たるのはこの「縛って」だ。

 ザイルで自分を手巻き寿司みたいにして、身動きが取れないようにして、押し入れに閉じ込めて欲しいと言うのだ。

 はじめは面食らったけど、慣れというのは恐ろしい。

「はいじっとして」

 今では抵抗なくグルグルにしてしまえる。

 まあ、言われるのもたまにだしね。


 で、そんな生活が確立されてもうすぐ一年。

「はあ。今日は疲れたなあ」

 夜シフトの人の急な欠勤。代わりで、昼からずっと働いていた。すっかり帰宅も遅くなってしまった。

「そろそろリコがいつものお願いをしてくる頃だよな」

 独りごちながら夜道を行く。

 早く帰りたくて、人の気のない路地を縫った。街灯にも乏しくて、満月の光だけが頼りだ。

 幽霊でも出そう。

 寒気を覚えてなんとなく振り返ると、半裸の中年男性がいた。

 ──目が合った。ってことは、ずっと私の後頭部を視ていたってこと?

 ヒッと息が漏れた。

 悲鳴をあげようにも、喉が強張って使い物にならない。

 竦む身体。無理やりに駆け出した。

 私以外の足音がする。肩越しに振り返ると、変質者が追いかけてきている。

 ただ無言で、私を追跡するだけ。荒い呼吸と、血走った目。

 怖い。


 あっ。

 躓いて、転んだ。

 たちまち変質者が近付いてくる。

 

 !?


 目の前が真っ白になる。


 激しい物音がした。

 

 はっと正気を取り戻すと、変質者が大型犬に組み付かれている。

 大型犬。否、狼みたいな。

 喉笛に歯を立てている狼の、腰のあたりに布が巻き付いている。見覚えのあるスカートだ。私がリコに贈ったもの。震える声で呼びかける。

「リコ」

 反応した。

 私の方を向いて、身を屈めて、飛び掛かってくる。尻尾を振って、すんすん鼻をひくつかせて犬みたいだ。

「リコ。ありがとう」

 私もリコを抱きしめ返した。


 夜が明けて、落ち着いた後で聞いたこと。

 リコは人狼で、満月の夜に変身してしまうこと。

 暴走しないように、満月の日は縛ってもらっていたこと。

 そして、


「アイちゃんがいなくて寂しくて、においを追っちゃったんだと思う」


 恥ずかしそうに上目を遣うリコに応えて、私は抱擁をした。


お読みいただきありがとうございました。

感想の他、ブックマークや☆等もお待ちしております。

☆はひとつだけでも構いません。数字に表れることが嬉しく、モチベーションになります。よろしくおねがいいたします。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ