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9.南宫衛春

その男子の顔に見覚えがあった。安藤はすぐに思い出した。入学試験の際、自分を嘲笑った南宮衛春ナンゴウ エイハルだ。


「俺が言いたいのは、この訓練場は今、俺たち劣等クラスの時間だということだ。」

安藤は時計を見て、既に夜の九時であることを確認した。


「ハハハ、劣等クラスだって?おい、こいつが劣等クラスだと言ってるぞ!腹が痛い、ハハハ!」

威張り散らしたその男は、周りの仲間に向かって嘲笑した。


「どこから来たか知らないが、とりあえず出て行けよ。李お姉さんが終わるまで待ちな。無礼な真似をするなよ。今こうやって話してやってるのは俺の機嫌がいいからだ。」

安藤は目を細めた。この一団は皆、自信満々の様子だ。おそらく、全員がすでに低階魔法師のレベルに達しているだろう。


「断る。今は俺の使用時間だ。優等クラスなら、専用の場所があるだろう。」

安藤は怯えなかった。彼は貧しい家庭で育ったが、学校では決して誰からもいじめられたことはない。


「フフフ、じゃあこの野郎にちょっと教えてやるか。」

南宮は前に出て、詠唱の構えを取った。


安藤は目を細めた。これは罠だ。

魔法学院では、学生同士の私闘は禁止されている。決闘場も存在せず、校内でのランク戦のような特定のイベント以外では、教師の監視の下でしか戦えない。

だから、安藤は先に詠唱の構えを取らないことに決めた。相手は何かしらの後ろ盾があって罰を免れるかもしれないが、安藤にはそんなものはない。


「立って何してるんだ?殴られるのを待ってるのか?火傷に気をつけろよ!」

安藤は右手を上げたが、詠唱を始めることはなかった。彼は待っていた。


「燃えたぎる炎を海のごとく変え、我が手に…」

南宮は詠唱を始めたが、その速度は意図的に遅く、目はずっと安藤の動きを監視していた。


「やっぱり雑魚だな。まだ魔法の形すら作れていない。」

彼の目の前には、幅十数メートルの炎の波が徐々に形成されていき、その熱気に後ろの仲間たちは思わず後ずさりした。


「南宮、殺すつもりじゃないだろうな?」

「フフ、分かってるよ。」

安藤はストレージボトルを起動し、その中の魔素をゆっくりと集め始めた。


その時、炎の大波が動き出し、安藤の左右の逃げ道を封じた。


「さあ、今ならまだ間に合うぞ。降参するならな。」

「ハハハハハ!」

後ろの連中は笑い声をあげた。


安藤はストレージボトルを見つめ、すでに黄色いランプが点滅しているのを確認した。

彼は深く息を吸い込み、周囲を見回し、自分が危険な状況にいることを確認した。


「俺はただの自己防衛だ、自己防衛だ…」


「古より続く聖なる炎よ…」

安藤が最初の一言を詠唱した瞬間、上のエネルギー探知機がすぐに警報を鳴らし始めたが、彼は止まらなかった。


「な、なんだあれは?火球術か?」

「なんでそんなに大きいんだ…」

「中階魔法か?」

「彼、劣等クラスの生徒じゃなかったのか…」

南宮の顔色も変わった。前方の強大な魔法の波動を感じ取り、もしそれを一人で受けたら、間違いなく死ぬと確信した。


「あり得ない!中階魔法だなんて、もしかして彼は6つの気旋を持っているのか…」


「行け!」

術式が完成し、直径4メートルの巨大な火球が弧を描きながら飛んでいった。


「逃げろ!」

優等クラスの学生たちは四散して逃げ、南宮の足だけが地面に縛り付けられたかのように動かない。


「嘘だ、あれはただの目くらましだ…お前たちも一緒に反撃しろ!」

彼が後ろを振り返ると、同じクラスの仲間たちはすでに彼の元を去っていた。


「待ってくれ!」

安藤は火球の飛行速度をわざと遅くし、南宮が逃げ始めたのを確認すると、すぐに火球の内部の魔素の制御を解除した。すぐに魔法は消え始めた。


「ハッタリか…」


優等クラスの学生たちが扉から飛び出すと、すぐに駆けつけた警備員たちに捕まえられた。


「またお前たちか!低階訓練場で違法に魔法を使って!」

「違うんです!僕たちじゃありません!南宮一人がやったんです。それに中にあの劣等生がいます!」

優しい仲間たちは一瞬で南宮を売った。


「南宮?またかよ?」

警備員は頭を掻きながら、訓練場から慌てて出てきた南宮を見つけた。


「動くな!規則違反をしておいて逃げようとしてるのか。今回は全員千字の反省文を書いてもらうぞ!」

南宮は教師を見つけ、助けを求めて走り出そうとしたが、訓練場の中には劣等クラスの生徒しかいないことを思い出した。

言おうとした言葉は胸の中で詰まり、顔は真っ赤になり、何も言えなくなった。


「中にまだ人がいるのか?」

「はい、まだ劣等クラスの一人が残っています。」


警備員はすぐにその甘ったれた生徒たちに頭をはたいた。


「いつも弱い者いじめばかりしやがって。中階魔法を覚えたら、他人の前で威張り散らすなんて、ルーミン魔法高校はお前らみたいな連中を育てたのか?」


「僕たち、僕たちは…」

優等クラスの連中は言い訳もできず、まるでどうしようもない状況に追い込まれた。


その時、安藤がのんびりと訓練場から歩いて出てきた。警備員がその生徒たちを叱っているのを見た。


「先生、お疲れ様です。」

警備員も安藤を認識し、彼に軽く会釈を返した。


彼はすでに状況を完全に理解し、優等クラスの生徒たちが安藤をいじめようとしていたと判断していた。


「お前は早く寮に戻って休め。あとは俺がこいつらを片付ける。」

「ありがとうございます、先生。」


南宮は安藤の去っていく姿を見ながら、悔しそうに歯ぎしりをしていた。彼が劣等クラスの生徒の前でこんな目に遭うのは初めてだった。


安藤は後ろからの熱い視線を気にせず、悠然と歩き去ろうとしたが、その時、茂みの中からカサカサという音が聞こえた。


彼は近寄って音の出所を探ったが、何も見つからなかった。


「野良猫か?」


寮に戻ろうとしたその時、後ろから大きな声で叫ぶ声が聞こえた。


「安藤!大会で本気を見せてやるからな!」


「くそ、俺の名前をあんな大声で叫ぶなよ、恥ずかしいんだよ…」


周囲を見回したが、幸いにもあまり人はいなかった。安藤は、ここに安藤という名前の奴なんていないとでも思わせるように、足早に寮へと戻った。


南宮が言っていた大会は、おそらく期末の全校魔法師大会のことだろう。秦子秋が以前安藤に話してくれたものだ。

今、期末まではまだ3〜4ヶ月の時間がある。それまでに安藤は十分な準備を整えるつもりだった。


「林、まだ魔素残ってるか?」


「は?お前何する気だ?」


「少し充電させてくれよ。今夜はちょっと使いすぎた。」


「くそ、いつかお前に吸い尽くされるわ。」


林が自分の体内の魔素を呼び出す方法を覚えた以来、安藤は彼がストレージボトルに魔素を充電できることを発見した。しかし、一度に少量しか充電できないため、林が贾原のようにベッドで寝たきりにならないか心配していた。


「それはお前がダメだからだよ。充電バッテリーにもならねぇんじゃん。」


「馬鹿言うな。来いよ、充電させてやる!男なら自分をダメだとは言うな!」


「いやいや、お前が死んだら俺が弁償できねぇんだよ。」


ストレージボトルは大気中の魔素を非常にゆっくりと吸収して充電するが、安藤にはその速度が遅すぎる。彼はこれが無限の核エネルギー充電器だったらいいのにと思っていた。それなら好きなだけ使えるのに。


「魔法が使えないなら、詠唱のコツを研究するか…」


彼は、黙念でも効果があることに気づいた。具体的な方法は明日の朝にでも試してみることにした。

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