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42.爆弾

第42章 爆弾

翌日、安藤はあの謎の男性を再び見つけることはできなかった。

しかし、その男が安藤の視界に現れた数分間は、彼の想像を大きく掻き立てた。


「偽札?犯罪者なのか?だが、その後の行動を見る限り、わざと偽物を使って人を騙そうとしているわけでもないようだ。」

「着替えの技術が非常に熟練している。俺よりたった1分早く出ただけで、もう変装を終えているなんて。これは長期間の訓練を経なければできないはずだ。」

「変装の理由も理解できる。偽札の件で目立ってしまったから、すぐに装いを変えて群衆に紛れようとしたのだろう。」

「こんな人間がこんな場所にいるのは、一体何のためだ?」


もし監視の任務でここに来ているなら、その後安藤が精神力で周囲の通りや裏路地を探ってみたものの、もうその男の姿を見つけることはできなかった。


安藤にとって、あの出来事はまるで小説の冒頭二章だけを読んで、その先の続きが更新されないような感覚だった。

結局、彼はこの件を一旦頭から追い払うことにした。


その夜、安藤は初めて秦野の母親と顔を合わせた。

彼女はごく普通の中年女性で、手には労働の跡がくっきりと残っており、日々の苦労が伺えた。


彼女は非常に気さくで、安藤を家に招いてお茶を振る舞った。

安藤は招待を断りきれず、一緒に家へ上がった。


彼は改めて秦野家の家の中を見渡した。古い家ではあったが、内装には洗練された趣味が感じられた。

父親が拾ってきたガラクタが散らばる自分の家とは大違いで、ここでは家具一つ一つの色合いや形、大きさまでがしっかり考えられているようだった。


「君は安藤っていうのね。秋子からいろいろ話を聞いてるわ……」


「お母さん!」


秦野が赤面しながら飛び出してきて、安藤を捕まえて話し込もうとする母親を慌てて引き離した。


「早くご飯作ってきてよ!私が招待してるんだから!」


「はいはい、わかったわよ。ところで、お父さんはいつ帰ってくるの?」


「さあね、日が暮れないと絶対に帰ってこないよ。」


「もうすぐお正月なんだから、私だって早めに店じまいしたのよ。あの人も早く帰るつもりでいるんじゃないかしら。」


母親は笑顔でそう言いながら、台所に向かって年越しの準備を始めた。


「手伝わなくていいの?」


安藤が尋ねると、秦野は肩をすくめて無力な表情を見せた。


「邪魔になるから来ないでって言われてる。」


「そ、そうか……」


二人の会話はそれほど多くはなく、安藤はここで少し居心地が悪かった。彼は他人の家、それも女の子の家に招かれること自体が初めてだったため、できるだけ品よく振る舞おうとしていた。


「光幕でもつけて見てて。私、台所を見てくる。」


秦野が壁にかかった光幕をつけてくれた。画面が映し出され始める。

この光幕はテレビのようなもので、ただ魔法の仕組みを使っている。天井にある小さな投影石が画面をスクリーンに映し出す仕組みだった。


映し出される番組は地球ほどの充実度はなく、この世界の審美感は情報技術の未発達さを反映して、発展速度が遅い。光幕の番組は地球の数十年前のテレビ番組を思わせるものだった。


しかし、それでも何もないよりはましだ。安藤はソファに座り、このような体験を楽しんでいた。自分の家には光幕がなく、一日中ソファに足を組んで寝そべるような経験はなかったからだ。

しばらくして、安藤丞)が帰宅した。家の中で服を着替えると、笑顔でリビングにやってきた。こうして数人で年越しの夕食を囲むことになった。


「父さんさ、少しは料理を覚えたらどうなの?この味と比べたら、あなたのは……」


「おいおい、父さんにはそもそもその才能がないんだよ。これでも何度も練習した成果なんだぞ。」


安藤は秦野の母親が作った料理を一口味見した。どれも個性的で、自分の口にぴったり合っていた。学校では決して味わえない家庭の味だし、家では父親がこんな料理を作ることもない。


「こうなると、いずれ自分でやるしかなさそうだな。」


父親の料理を食べ続けてきたが、特別美味しいわけではなく、どこか物足りなさを感じていた。


「ふふ、また来ればいいのよ。おばさんが教えてあげるわ。それに秋子も少しは作れるんだから、学校でも教えてもらいなさい。」


秦野はそわそわした様子で黙り込んでしまい、何を考えているのかわからない。


ところが、安藤が料理を楽しんでいる最中、突然精神力に鋭い痛みが走った。一瞬、集中力が途切れてしまう。


隣にいる秦野も同じような反応を示したが、安藤ほど深刻ではなさそうだった。


「どうした……頭が少しクラクラする。」


数口食べ続けていると、安藤は自分の口と鼻の感覚が分からなくなるような錯覚に陥った。


十数秒後、安藤はようやくこの状態から回復したが、その瞬間、頭の中で自分の家の玄関前に全身武装した兵士たちの姿が浮かんだ。


「A組、爆破準備完了!」


黒い制服を着た7人の兵士が、安藤の家の扉に小型爆弾を仕掛けていた。


「おい!待て!お前たち、何をしているんだ!」


安藤は玄関へ駆け寄り、ドアを開けると、ちょうどその7人の兵士と鉢合わせた。


「指揮官、隣家の子供が我々に気づきました。」


「無視しろ。計画を続行せよ。今夜中にあの祭司を捕らえろ。」


安藤は彼らの動きが自分を完全に無視していることに気づき、焦りを感じた。


「警告しておく!そこは俺の家だ。全員手を止めろ!」


安藤は冷静さを保ちながら魔法陣を展開し、一瞬で火球を発射できる状態にした。だがここで魔法を使えば建物ごと吹き飛ぶ可能性が高いため、一歩踏みとどまった。


「指揮官、この少年、魔法使いです!行動を阻止しようとしています!」


「何?一旦作業を中止しろ。この少年は一体何者だ。」


「俺が言ったことが聞こえなかったのか?ここは俺の家だ。お前たちは何をしている?どこの組織だ?」


安藤の怒りの声が響き渡る。彼の手元の魔法陣は魔素を吸収し始めていた。1秒もかからず魔法を発動する準備は整っていた。


「落ち着け、少年。我々は魔剣局の者だ。今夜は逃亡犯を逮捕するために来た。」


「逃亡犯だと?そんな奴、俺の家にはいない!」


「お前……」


数人の兵士は即座に防御態勢を取った。彼らの武器は安藤に向けられる。


その瞬間、家の中にいた他の家族も走り出てきた。安藤丞は全身武装の兵士たちを目の当たりにして震え上がった。


「その、俺が借金をしてるのは事実だけど、ここまでする必要あるのか……」


彼は震える手で鍵を取り出し、兵士たちの目の前でドアを開けた。


「その……中を調べたいなら、一言言ってくれれば……」


兵士たちのリーダーは動きを止め、ドアに貼り付けた爆弾を外しながら無線で報告した。


「指揮官、誤報です。この家に住んでいるのは一般人で、祭司ではありません。」


「そんなはずはない。高位魔法使いの精神力反応を感知したはずだ。そちらの探知機はどうなっている?反応に誤りがあるのか?」


兵士のリーダーは探知機を手に取り、画面に映る大きな赤い点を確認した。だが、機器を回して周囲を再確認すると――


「反応はこの家の中ではなく、向かいの部屋だ……いや、待て。どうやら信号源はこの少年自身から発せられているようだ。」


彼は安藤の周りを一周して確認し、無線で報告した。


「指揮官、信号源はこの少年です。情報が間違っているようです。」


「何だと――?」


無線の向こうから高い声が怒鳴り声のように響き、リーダーは耳にあてたヘッドセットを外して苦痛の表情を浮かべた。


「その……本当に申し訳ありません……」


彼はドアに貼り付けていた爆弾を取り外しながら言葉を続けた。


「君、ちょっと協力してもらえないかな?今回は我々のミスだ。助けてもらえるとありがたい。」


安藤は怒りを抑えきれなかった。彼の家を爆破しようとしたこの一連の行動に対して、納得のいく説明を求めた。


「お前たちは魔剣局だと言ったな?今日の件、しっかりした説明がなければ済まさないぞ!」


安藤は不満を抱えながらも、彼らの後について行くことにした。しかし彼はすぐに気づいた――この兵士たちは全員普通の人間であり、魔素の波動が全く感じられないことに。


一可いっか、お前……」


安丞は心配そうな目で息子を見つめた。本来ならば家族で過ごすはずの大晦日に、どうしてこんな事件が起こるのか。


「大丈夫だよ、父さん。ただの誤解みたいだ。それに、どうせならこの件でちょっとした補償でももらうさ。さもないと、納得できない。」


その言葉を聞いた兵士のリーダーは、ヘルメットの下で苦々しい表情を浮かべた。


「クソッ、情報提供者の『ファルコン』は何を考えてたんだ?どうして学生の家を誤報したんだ?全部奴の責任だな!」


「指揮官、少年を連れて戻りました。この後の処理は……」


「指揮官?」


無線は応答をしなくなった。


「やばい、小楠こなんがまた引きこもったんだな。」


他の兵士たちは揶揄するようにぼやいた。


「まあ、せっかく現場に来たのにこんなことが起きたんだから、彼女も無理はないだろう。」


そんな会話を交わしながらも、兵士たちの動きは非常に機敏だった。整然とした足取りで、彼らは一台の箱型車両に乗り込んだ。外観は普通の家族用車両に見えるが、中にはさまざまな機器や装置がぎっしりと詰め込まれていた。


車内にはすでに若い女性が座っており、机に突っ伏して動かなくなっていた。


「咳咳、指揮官、指揮官、全員戻りましたよ。」


兵士たちはヘルメットを外し、その顔には硬い表情が浮かんでいた。


蒋原大志じょうげんたいし……うう、またやらかしちゃった……もう指揮官なんて呼ばないで。」


鄭崎小楠ていさきこなん、気にするな。今回は情報提供のミスだ。ファルコンに責任を追及するべきだ。」


蒋原は彼女をなだめ、安藤を座席に座らせた。


「先ほど感知した精神力の波動が君のものかどうか、確認させてもらう。君の現在の実力は?」


「中級魔法使いだよ。2週間前に試験に合格したばかりだ。」


安藤は魔法使いのバッジを見せた。それを見た蒋原の顔には驚きが浮かんだ。


その時、車のエンジンがかかり、前方から不気味な恐怖感が安藤を襲った。


「水球術!柔水盾!岩の盾!精鉄盾!」


安藤の前に次々と魔法陣が現れ、彼と周囲の人々を守る防御魔法が展開された。その際、車体の構造が破壊されることも構わず、彼は全力で魔法を放った。


「ボンッ!」


車の前部から火花が飛び散り、激しい衝撃波が車体を粉々に吹き飛ばした。魔法で防御していたおかげで、兵士たちは命を守ることができたが、その衝撃で全員が吹き飛ばされた。

幸いなことに、夜の年越しの時刻ということもあり、道にはほとんど人影がなかった。ただ、周囲の空き家や建物の一部が衝撃で破損していた。


安藤は地面を何度も転がり、体中が痛みに襲われる中、しばらくしてやっと吐き気を抑えつつ体を起こした。


「くそっ……やつら、本当に爆弾を持ち込んでたのか……」


彼は周囲を見渡し、先ほど車内にいた人々を思い出した。事態があまりにも突然で、全員無事かどうか確信が持てなかった。


「俺の……俺の脚が……!」


前方から運転手の悲鳴が聞こえた。駆け寄ってみると、彼の両脚が車体の残骸に挟まれ、血まみれの断片が残されているだけだった。


「水療術!」


安藤は急いで膝をつき、簡単な回復魔法を使って止血を試みた。


「誰か!生きている人はいるか?助けてくれ!」


安藤の声に応じて、爆風で四散した兵士たちが次々と立ち上がり始めた。蒋原も眩暈から回復し、無線機に向かって叫んだ。


「本部!突撃A組が爆弾攻撃を受けた!至急応援を要請する!」


「人数を確認!生存者は報告せよ!」


「1!」

「2!」

……

「7!」


蒋原は少しだけ安堵の息をついた。どうやら全員が生き延びたようだった。彼は安藤のもとに駆け寄り、運転手の悲惨な状態を目の当たりにした。


「くそっ……」


「お前らの応援はいつ到着する?こいつの出血を止められない……」


「魔法だけじゃ足りない。俺がやる!」


蒋原は近くの破損した服屋から布切れを引きちぎり、それを即席の止血帯として運転手の両脚にきつく巻き付けた。運転手が苦痛で叫ぶのを無視しながら作業を続けた。


「我慢しろ!我慢だ!俺たちはお前を助けようとしている!」


数分後、救急車と応援部隊が現場に到着した。重傷を負った運転手を除き、他の兵士たちは骨折程度の怪我で済んだ。安藤自身も病院で検査を受けたが、大きな問題はなかった。


その後、安藤は魔剣局に連れて行かれることになった。


魔剣局の建物に足を踏み入れた瞬間、安藤の精神力はあの「謎の男」の存在を再び感じ取った。

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