40.放課だ!
勉強の件が一段落した安藤は、心紋のために簡単な教材を自作して渡した。自分ができる限りのことはやったので、もしこれでも彼女が理解できないなら、この魔法を諦めるしかない。とはいえ、安藤には他の魔法を10個でも20個でも開発する自信がある。
今日は授業再開の初日であり、同時に今学期の期末試験の日だった。
先週の野外訓練の成績も期末総合成績に加算され、この結果が次学期のクラス分けに大きく影響する。
「魔素親和度」「詠唱速度」「魔素容量」「格闘技術」「魔法総合試験」のどれか一つでも不合格なら劣等班に振り分けられるのだ。
安藤は予想通り、最初の「魔素親和度」の試験で引っかかった。
仕方なく、彼は水晶球の前に歩み寄り、いつものように手をかざした。
水晶球の中でいくつかの魔素がわずかに浮き上がり、全体が微弱な白い光を放った。
「魔素親和度、4級!」
ルーシー先生は苦笑を浮かべた。現在、クラス全体で6級未満なのは安藤だけだ。他の生徒たちは実力の向上に伴い親和度も少しずつ上がっているのに、安藤だけは極端に成長が遅いのだ。
だが、安藤自身はこの状況をよく理解していた。4級という数字は5つの魔素が均等に分配された結果であり、実際の能力はその5倍に相当する。しかし、このランク付けは単純な線形ではなく、「4級×5」が「20級」に相当するわけではない。
「あとでこっそり水晶球を借りて再テストするしかないな……」
自分の才能は、しっかり隠しておくべきだ。
一つでも不合格があると、それ以降の試験でどれだけ優秀な成績を収めても劣等班に振り分けられる。しかし、安藤にとってそれはむしろ望むところだった。環境を変える手間を考えると、今の平穏な生活の方が好ましいのだ。
次の「詠唱速度」の試験では、安藤の成績が全員の度肝を抜いた。
「ファイアボール!ウォーターボール!」
一息つく間もなく、2つの魔法が次々と形成され、テスト用の的に向かって放たれた。
2連発にかかった時間はわずか1.5秒!しかも二重詠唱を使わずに出した記録だ。
「パチパチパチ……」
ルーシー先生も驚きの声を上げた。この詠唱速度だけを見れば、安藤は彼女自身をも凌駕していた。高位魔法使いである彼女でも、精密な詠唱には2秒以上かかることがあるのだから。
他の生徒たちの平均成績は8~9秒程度だったため、安藤の記録は際立っていた。
以降の試験も順調に進み、他の生徒たちはもはや安藤の成績に驚かなくなっていた。
「また記録更新したのか?」
「またかよ?」
「またまたまた……」
最初は驚いていたクラスメートたちも、数時間のうちにすっかり慣れてしまった。
全ての試験が終了した後、ルーシー先生が安藤を呼び止め、再び話をした。
「本当に優等班に行く気はないの?親和度は天賦の才能の問題かもしれないけど、あなたの総合レベルはすでに非常に優秀よ!」
(実際には、学校の多くの教師をも凌駕しているが、それは口に出さなかった。)
「先生、優等班には行きたくありません。ただ、お願いが一つあります。」
「お願い?何かしら?」
ルーシー先生は真剣な表情で答えた。自分にできることなら、この生徒をできる限り助けたいと思ったのだ。
「丞を学校に雇ってもらえませんか?僕は中級魔法使いになったので、教職員扱いでなんとかならないかと……」
ルーシーの目が一瞬輝いた。すぐに安藤の意図を理解した彼女は答えた。
「この件、教務部に掛け合ってみるわ。これまで前例はなかったけれど、あなたのレベルなら学校が一歩譲る可能性があるわね。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
安藤は興奮して飛び跳ね、休暇中に丞と相談するつもりで帰宅の準備を始めた。
「そうだ、もう一つ。」
ルーシー先生が安藤を呼び止めた。
「優等班にいる心紋さんと、あなたはいったいどういう関係なの?」
「えっ?普通のクラスメートですけど……」
安藤は顔を赤らめ、初めてこのような質問を受け、どう答えるべきか分からなかった。
「これ、彼女の成績表を見てみて。」
安藤は成績表に目を向けた瞬間、複雑な表情になった。
「魔素親和度——3級、詠唱速度——2.4秒、魔素容量——A+……」
「3級?」
「ええ、彼女は本気で劣等班に行くつもりね。」
入学時に9級だった彼女が、明らかにわざと親和度を低く見せているのだ。
安藤の額には青筋が浮かび上がった。
「あの子、たぶん自分の考えがあるんですよ……聞いた話では、優等班の学習環境があまり良くなくて、進歩の妨げになるとか……」
「そう……それなら理解できるわ。ただ、劣等班にこだわる必要はないでしょう?普通班でもいいのに。」
ルーシーが考え込んでいる隙に、安藤はそっと教室から抜け出した。
「心紋のやつ、本当にすごいことするよな……他の方法で不合格にすることもできたのに、親和度を選ぶなんて。完全に演技だ。」
試験が終わり、安藤は寮に戻って荷物をまとめ、家に帰る準備をしていた。
帰り道、彼は教室から出てきた林と出会い、軽く挨拶を交わした。
「帰省するの?」
「うん、丞さんに会いに帰るよ。」
「それじゃ、また新学期に!」
「またね!」
リュックを背負い、安藤はふらふらと学校を後にした。頭上を先輩たちが飛び回っているのを見て、どこか懐かしい気分になった。数ヶ月前、自分もこうしてこの学校に足を踏み入れたのだ。
家に向かう途中、安藤は道端で声をかけられた。
「お兄さん、タクシー乗らない?」
車内から運転手が呼びかける。
「いや、金がないから!」
安藤は笑いながら答え、足早に家への道を歩いていった。
道中は特に怪しいものも見かけず、安藤は静かに家へと戻った。玄関に着くと、新しい鍵が取り付けられていた。丞が安藤が家に入れなくなることを心配して、ドアにメモを貼っていた。
「息子よ、鍵はいつもの場所に。」
安藤は微笑んだ。丞との長年の習慣で、「いつもの場所」がどこかすぐに分かった。マンションの1階、左手3番目の植木鉢の下だ。
鍵を取り出して家に入ると、部屋はすっかりきれいに片付けられていた。壁の黒ずみや汚れはなくなり、家具も新しいものに変えられていた。もっとも、それらは中古品や廃品回収所で手に入れたものに違いない。丞の倹約ぶりは相変わらずだった。
「タダでもらえるものにお金を出す必要なんてない。無料で済むならわざわざ買う必要はない。」
安藤は丞のそんな哲学に慣れっこだった。この考え方は、すでに彼自身の中にも根付いている。商売の世界では「タダほど高いものはない」というが、安家の人間には全く当てはまらない。
夕方になり、安藤は部屋で静かに瞑想していた。その精神力はすでにマンション全体の動きを探知できるほど高まっていた。丞が階段を上がってくる気配を感じ取ると、安藤はすぐに立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「おお、帰ってたのか!」
玄関のドアが開くと、丞が大きな荷物を抱えて立っていた。その顔には少し疲れた表情が浮かんでいたが、息子の姿を見るなり、笑顔に変わった。
「放課になったから、この一ヶ月は家にいるよ。」
二人は軽く抱き合い、丞はさっそく簡単な夕飯を作り始めた。
夕食中、二人は近況を語り合った。
「最近いい仕事を見つけたんだ。観光案内をする仕事で、人を案内して客を連れて行くたびにマージンがもらえるんだよ。」
丞は楽しそうに話していたが、安藤はその仕事内容が発伝や客引きに近いものだとすぐに察した。
「その目はなんだ。ちゃんと正当な仕事だぞ!観光地やホテル、娯楽施設なんかを案内するんだ。俺、ルーミンでは長いことやってるから、その辺りは詳しいんだよ。」
「丞さん、実はちょっと提案があるんだけど……」
安藤は学校での手配について話し、丞にこう尋ねた。
「学校で働いてみない?雑用みたいな仕事になるかもしれないけど、給料は少なくても安全だと思うんだ。」
丞は箸を止め、真剣な表情で安藤を見つめた。
「お前がそう言うなら、もちろんだとも!」
丞の目には少し涙が浮かんでいた。学校で働けば、安藤も安心して学業に専念できるだろうという思いから、彼は無条件で息子の提案を受け入れたのだ。
「職員宿舎が用意されるらしいから、この部屋を借りなくても済むようになるんだ。それで家賃も浮くし、他のことにお金を使えるよ。」
「いいな、それは助かる!」
丞は笑顔を浮かべながら食事を続けた。
「本当に何の意見もないの?」
「あるもんか。魔法学院で働くなんて、どれだけ格好いいことか!普通の人じゃ入れない場所に、俺の息子が連れて行ってくれるんだぞ!」
「じゃあ、この話で決まりだね。」
「お前が決めたことなら、それでいいさ。」
二人の間には穏やかな空気が流れていた。安藤は、丞と一緒にいるときだけ味わえる安心感をしみじみと感じていた。
その時、静かなノック音が玄関に響いた。
「こんなタイミングで誰だろう?」
安藤は精神力で確認すると、それが秦野であることを察知した。
「何か用?」
安藤はドアを開け、秦野を丁重に迎え入れた。今回はきちんとお茶まで用意して彼女をもてなそうとした。
「いやいや、そんな大した用事じゃないよ。隊長が帰ってきたって聞いて、ちょっと顔を見に来ただけ。」
秦野は安藤のあまりの歓迎ぶりに少し照れた様子だった。
「まあ、ゆっくりしていけよ。前回は家が散らかってたけど、今回はちゃんとしてるから。」
安藤は笑顔でそう言った。家にいると、自然と気持ちが明るくなるのだ。
「いや、今日はこれで失礼するよ。ただ、年明けに家族同士で一緒に食事でもどうかなって思って。」
「新年?」
安藤は一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「いいね。うちも特に予定はないし、この一ヶ月はここにいると思う。」
「それじゃ、その時に声をかけるね!」
「ありがとう!」
秦野を見送った後、再びテーブルにつくと、丞が驚いた顔で言った。
「あの子、お前のことを隊長って呼んでるのか?」
「うん、同じ班で5人チームなんだよ。俺がリーダーなんだ。」
安藤は笑いながら説明した。
丞はそれ以上何も言わなかったが、息子がいつの間にか自分の期待を超える成長を遂げていることに気付いていた。
どれだけ高く飛び、どれだけ遠くまで走るようになろうとも、丞は静かにその姿を見守るつもりだった。
安藤にとって、ここはいつでも帰れる場所だった。疲れた時に、少し休むための家があるということが、何よりも彼の心を温めてくれたのだった。




