39.優等生と劣等生の立場逆転
安藤は施設内をくまなく探したが、消えた破片を見つけることができなかった。
「強力な衝撃で粉々になったのか……?」
頭を掻きながら考え込むも、結局答えは出ない。
しかし、少なくとも実験は大成功だった。「電磁砲試作一号」魔法の基礎はこれで確立できたのだ。
彼は場外でしゃがみ込んでいた心紋の隣に歩み寄った。彼女は地面に撒いた鉄粉で遊びながら、楽しそうに笑っていた。
「安藤!これ、どうして動くの?」
彼女の指先で光る電気が、下の鉄粉を小さな虫のようにぴょんぴょんと跳ねさせている。
「これは物理だよ、君には分からないと思うけど。」
「教えてよ!お願いだから!」
なんでこの台詞がこんなにも堂々と出てくるのか。
どうやって教えればいいんだ?小学校の義務教育から始めなければいけないのか……?
安藤は頭を抱えたが、この魔法は元々彼女へのプレゼントとして考案したものだ。
「磁力について何か知っている?」
……
安藤の解説を聞いた心紋は、最初は目を丸くしていたが、次第に困惑した表情に変わっていった。
「電気が何かの周りを回る?磁力がまたどう回る?それって一体何の話?」
安藤の説明は確かに人間の言葉のはずだが、それが繋がると途端に理解不能になるらしい。
安藤は笑いを堪えた。この優等生然としたお嬢様が、地球では典型的な劣等生になるとは。
「慌てないで。君は体系的な教育を受けていないんだから、理解できなくても普通だよ。」
安藤は彼女を慰めようとしたが、彼女の一言で思わず本性を暴かれそうになった。
「安藤!タイラン星にはこんな知識なんてないの!私も李家でこんなことは習ったことがない。どこでこんなのを学んだの?」
彼女は安藤の襟を掴み、顔を近づけてくる。息遣いが聞こえるほどの距離だ。
「えーっと、祖伝……そう、祖伝の知識なんだ!」
「また誤魔化してる!」
彼女は手を離し、不機嫌そうに地面にしゃがみ込んだ。まるで大変な裏切りに遭ったような顔をしている。
安藤も困り果てた。この事実を全部話すべきなのか?それはあり得ない。自分の異常性だけでも十分目立つのに、これ以上の秘密を晒せば命取りになる。
悩んだ末、彼は彼女の隣にしゃがみ込むと、小声で言った。
「言いたくないんじゃなくて、言えないんだ。これは僕の命に関わる問題なんだよ。父さんにだって話してないんだ。どうしても学びたいなら、教えるからこれ以上どうやって知ったかは聞かないでくれる?」
「ふん!」
心紋は何も言わず、安藤を睨みつけた。
「早くして!」
「え?何を?」
「続きを教えなさいよ!さっきの話、全然分からなかったの。もう一度説明して!」
安藤は思わず顔を引き攣らせた。
その後、彼は考えをまとめ、抽象的な説明よりも実際の実験の方が理解を深めるだろうと判断した。
磁場の分布について話す際、磁化した鉄粉を使った演示を行ったところ、心紋は一瞬で「磁場」という概念を理解した。
「つまり、これは目には見えないし触れないけど、確かに存在しているってこと?」
「そうだよ。これも一種の物質と考えられる。」
「じゃあ、金属をそこに置いた時、引き寄せられるのは金属と磁石が反応するからじゃなくて、金属と磁場が作用するからってこと?」
「その通り!その通りだよ!」
安藤は思わず目頭を抑えそうになった。生徒を教えるのは本当に大変だ。
「でも、なんで変化する電場が磁場を生み出すの?それってまるで魔法使いが法陣を刻んだみたいなルールじゃない?」
心紋の疑問は素直だが深い。この世には本当にそんな不思議なルールが存在するのだろうか?
「それは……僕にも分からないよ。世界にはまだまだ人類が解き明かしていない神秘があるんだ。」
「なんだか深い話ね……」
「気にしないで。難しすぎることはざっくり理解するだけでいいんだ。大事なのは計算方法を学ぶことだよ。さあ、アンペール力の計算を教えるね。」
心紋の顔が一気にしかめっ面になった。魔法を学ぶ時にはこんなに苦しんだことは一度もなかったのに。
……
半日かけても心紋を完全に教え切ることはできず、この傲慢で誇らしげだったお嬢様は、初めて肩を落として寮に帰っていった。その目には涙さえ浮かんでいるように見えた。
「なんだ、ただの方程式じゃないか。できなくてもいいのに……」
「でも、どうして君にはできて私にはできないの!」
彼女の声には泣きそうな響きがあり、自信が初めて打ち砕かれた様子だった。
「それは……君の学区には義務教育がないからだよ……」
「僕だって一日で学んだわけじゃない。君は本当にすごいよ。こんな知識、僕は九年かけても覚えられなかったんだから!」
「本当?」
「本当だ!」
「ふーん……」
なんとか彼女の壊れた自尊心を拾い集め、部屋に送り届けた。安藤は頭を抱えた。自分の教育の才能がここまで弱いとは思わなかった。今日一番の壁は、彼女が学べないという事実だった。
「なるほど、高校受験前に人が神頼みする理由がやっと分かったよ……」
仕方なく、この問題はしばらく放置するしかなさそうだ。どうやら長期計画になりそうだ。
翌日、安藤は心紋を訓練場に連れて行く代わりに、紙とペンを持って誰もいない教室に連れて行った。そして手取り足取り、計算方法を教え始めた。
「この x を右側に移して……」
「なんで右側に移すの?等式の両端は同時に足したり引いたりしかできないんじゃないの?」
「えーっと……両端に x を足したと思えばいいんだ。結果として x が右側に移動したように見えるだろ?」
「ああ、なるほど!」
心紋の頭の中で、ぽっと何かの灯りが点ったようだった。
午前中いっぱいを費やし、この学年で一番有名なお嬢様は机に突っ伏して動かなくなった。どうやらCPUが過熱しているらしく、頭の上からは湯気が立ち上っているかのようだった。
「安藤……」
心紋は机に突っ伏したまま、力なく声を上げた。
「もう勉強したくない……」
「パシッ!」
安藤は額を押さえた。これではいけない、ここまで教えたのに。今の時点で小学5年生レベルの知識に到達したところだというのに。
「継続は力なりだよ。少し休憩して、午後また頑張ろう。」
「でも、まだどれだけ学ばないといけないの?どんどん難しくなるばっかりじゃない!数学ってなんでこんな訳の分からないものなの?魔法にはこんなの全然必要ないのに!」
彼女は突然ペンを放り投げ、苛立ちのあまり立ち上がった。その姿はまるで算数が苦手な小学生そのものだった。
「ぷっ……あ、いや、落ち着いて、聞いてくれ……」
安藤は笑いを堪えるのに必死だった。「これなんて一生学びきれないよ。人類全体で一生かかってもすべてを理解することはできないんだから。」と言いたかったが、それでは彼女のやる気を完全に削ぎかねない。
「もう少しだけだよ。僕の魔法を使いこなせるようになるのに必要なのは本当にあと少しだけだから。」
「少しだけ?」
心紋は疑いの目を向けた。
「そう、ほんの少しだけ。」
安藤は指を二本立て、その間に小さな隙間を作った。その隙間は、小さいながらも宇宙全体を包み込めるかのように大きく見えた。




