38.刺客が現る
電気——それは地球の科学技術を急速に発展させた立役者の一つである。しかし、ここ泰倫星では単なる攻撃手段として使われているに過ぎない。
この事実に安藤は心底うんざりしていた。泰倫星ではエネルギーの基盤は電気ではなく、いたるところに満ちている魔素がすべてを支えている。
テレビやコンピューターの代わりに光幕があり、電灯や電話の代わりに魔素灯や通信器がある。
安藤には、地球のような高度なテクノロジーをここに持ち込む力はなかった。それは人類数百年の科学の結晶であり、彼自身はただの普通の高校生に過ぎないのだ。
しかし、それでも彼にはできることがある。
訓練場では、安藤が地面に座り込み、右手を動かしながら何やら奇妙な儀式をしているようだった。しかし、物理を勉強した人間なら一目で分かるだろう——彼はアンペール力の方向を確認しているだけだと。
「渦電場……磁場の方向はこうで……電流の通る金属は……」
彼は小枝を使って地面にいくつもの図を描き込んでいた。それは他の人から見れば意味不明な落書きにしか見えなかったが、実際には彼が電磁推進のための計算を進めている証拠だった。
「よし、まずは簡単なところから試してみるか。電撃だ!」
安藤の目の前に二つの魔法陣が浮かび上がり、彼はすぐに身体の毛が逆立つような感覚に襲われた。魔素が集まると、強力な電流が空気を貫き、草地を轟音と共に打ち抜いた。
焦げた地面からは白い煙が立ち上り、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。
安藤は眉をひそめた。この低位魔法は彼の期待とはほど遠いものだった。電流が不安定で、電圧も一定しておらず、まるで魔法を創った人間が「とりあえずダメージを与えられればいい」という考えだけで作ったようだった。
「威力を落として微弱な電流から試すか……」
彼は魔法陣に吸収される魔素を元の1%まで減らし、魔法陣が辛うじて維持できる程度にまで調整した。
空中では細い電流がチラチラと瞬いていた。その様子を見て、安藤は顔を明るくした。
「次は渦状に流れを制御して直線的な磁場を作るんだ。」
彼は電流をコイルのように螺旋状に導こうと試みた。しかし、わずかに進んだところで電流は途切れ、散り散りになってしまった。安藤の精神力では完全な電場を形成するには足りなかったのだ。
「くそ、また失敗か……」
問題は明らかだった。空気中で電場を操作するのはあまりにも複雑であり、特に均一で安定した電場を形成するのはほぼ不可能だった。
「やっぱり電気は導体の中を流れるものだよな……導体?金属ならいけるか!」
安藤の頭の中で解決策が閃いた。金系魔法は金属を操作するのに適しているではないか。
「魔法の使い方について、まだまだ理解が足りなかったな。もっと応用力を身につけないと。」
安藤は反省しつつ、新たな方法を試し始めた。金系低位魔法「鋼鉄の腕甲」を使い、周囲から鉄分を集め、空中にわずかな鉄粉を浮かべた。
「よし、次は通電だ!」
彼は鉄粉に小さな電流を流し込んだ。しかし、磁場が形成される瞬間、鉄粉が干渉を受けてバラバラになってしまった。
「しまった、鉄粉が磁場で乱れるの忘れてた……」
彼は頭を掻きながらつぶやいた。アニメで見た超能力のようには簡単にはいかないらしい。
背後から足音が聞こえ、安藤が振り返ると、心紋がまた来ていた。
「やっぱりここにいた。今日はどんな新しい魔法を試してるの?」
「今日はね……電磁砲を作ってるんだ。」
「何それ?」
彼女にはそれが何を意味するのか全く分からないようだった。
「できたら教えるよ。」
心紋はいつものように安藤から離れた場所に腰を下ろし、彼の実験をじっと見守った。
心紋は目を凝らして安藤の実験を見ていたが、今日の魔法はこれまでとは全く違っていて理解に苦しんでいた。
「どうして鉄粉を集めるの?鉄と電気って関係あるの?」
「どうして螺旋状に並べるの?」
「鉄粉に電気を流したら何が起きるの?」
彼女の頭には疑問が次々と浮かんだ。「この人の頭の中には一体何が詰まってるんだろう?切り開いて見てみたい!」と心紋は思った。
彼女も安藤の真似をして鉄粉を集め、電気を流してみた。すると——
「えっ?なんで鉄粉が動いたの?」
「面白い!」
まるで新大陸を発見したかのように、心紋も自分の実験に夢中になった。
一方、安藤の方でも徐々に成果が出始めていた。
「鉄粉の位置は重要じゃない。電流が安定して一瞬でも流れれば十分だ。」
彼は再び挑戦した。空中に浮かぶ鉄粉が円筒形に並び、小さな鉄片をその底に配置した。安藤は天井を一瞥し、心の中で思った。
「まあ、大丈夫だろう。小さな実験だし……」
「電撃!」
安藤は魔法陣に可能な限り多くの魔素を注ぎ込んだ。鉄筒の底から手首ほどの太さの電流が流れ込むと、鉄粉全体が一瞬明るく輝き、大地が微かに揺れたように感じられた。
鉄片は瞬時に視界から消え去った。
安藤は慌てて魔素を解除し、周囲に飛んだ鉄片を探し始めた。
しかし、彼は気づいていなかった。天井の片隅に目立たない小さな穴が開いており、その穴の向こうには——
校長室
夏侯彦太郎は校長室で悠然とお茶を楽しんでいた。
「ふぅ……落ち着くな。」
忙しい日々の中、こうしてお茶を飲むひとときだけが彼の唯一の休息時間だった。
その時、彼の敏感な精神力が何かがものすごい速度で接近してくるのを感じ取った。
「何だ、これは……?」
物体の速さは彼の想像をはるかに超えており、しかもその物体は自分自身を正確に狙っているようだった。
つい先ほどまでリラックスしていた夏侯の身体は、一瞬で緊張状態に戻った。
「誰だ?刺客か?」
鉄片は回転しながら校長室の窓を突き破り、ガラスが粉々に砕けた。魔素の波動は全く感じられなかったため、夏侯は防御魔法を発動する暇もなかった。
咄嗟に椅子ごと後ろに倒れ込むことで、鉄片は彼の鼻先をかすめて飛んでいった。その瞬間、冷たい金属の感触が彼の皮膚に触れた。
「危なかった……」
彼は背筋が凍る思いだった。もしあのまま椅子に座り続けていたら、間違いなく命を失っていただろう。
鉄片は壁に突き刺さり、巨大な亀裂を作り出していた。
夏侯はゆっくりと立ち上がり、倒れた椅子と茶器を片付けた。その顔は怒りで真っ赤になっていた。
「くそっ!せっかく淹れたお茶が台無しだ——!」
外にいた職員たちは校長室から怒声が響くのを聞き、顔を見合わせた。
「また校長を怒らせたやつがいるのか?」
「知らないが、自業自得だ。あの人、俺の南国茶葉を勝手に持っていきやがったんだぞ。」




