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36.音爆



二人は喧騒の市街地を抜け、地下通路をいくつも通り過ぎていた。安藤は、この世界の人口密度に驚愕していた。

「魔都の一番混んでいるところでも、こんなに人はいないだろう……」


「彼らはどこに住んでるの?まさかここに寝てるの?」

安藤は眉をひそめた。洗濯もせず風呂にも入らない人々が、地下通路の角に転がり、酸っぱい悪臭が通路全体に漂っていたのだ。


「お金があれば家に住めるけど、お金がなければ路上で寝るしかないのよ。」

心紋は何気ない様子で言った。それはありふれた光景で、彼女にとっては特に珍しくもなかった。


「早くここを通り抜けましょう。人が多いし、君は校服を着ているから、何かトラブルになるかもしれない……」


心紋は自然に安藤の手を掴み、彼を引っ張るように早足で歩き始めた。

「え?」


柔らかくて温かい感触に、安藤は緊張して力を抜いたまま、されるがままになっていた。相手はしっかりと手を離さない。


人通りの少ない場所に来たところで、心紋はようやく手を放した。安藤が硬直しているのを見て、不思議そうに尋ねた。

「どこか具合が悪いの?」


彼女がそんなことに気づいていないのか、それともただ自分が気にしすぎているだけなのか……。安藤は必死に首を横に振った。

「な、なんでもないよ。もうすぐ着く?」


目の前は小さな公園のような場所だった。道行く人々がのんびりと散歩を楽しんでおり、近くには湖があった。静かな水面には二つの月が映り込み、淡い月光が波紋を美しく照らしていた。


「そこよ——」


心紋は湖の向こう岸を指さした。そこには大きなドーム型の建物があり、見た感じは学校の訓練場によく似ていた。

「これも訓練場?」


二人は湖のほとりを歩きながら、その建物に向かって進んでいた。心紋も、この場所の雰囲気を気に入っているようだった。

「そうよ。これは李家の訓練場で、高位クラスの設備なの。」


「君って……」

安藤は彼女が自分をここに連れてきた理由に気づいたようだった。


建物の門に着くと、警備員は心紋の顔を見るなり、すぐに通してくれた。

「お嬢様、お帰りなさいませ。どうぞお入りください。」


「この人は私の同級生。黒いカードを発行してあげて。」

心紋は淡々と告げた。その口調に、安藤は普段とは違う印象を受けた。


警備員は安藤の身分情報を記録し、両手で金の模様が刻まれた黒いカードを差し出した。

「このカードがあれば、ここを自由に使えます。使用期限はありませんよ!」


心紋は安藤を見つめながら、得意げに微笑んでいた。安藤はその瞬間、金銭の力に完全に打ちのめされ、何も言えずにただ一言——

「すごい……」

安藤は黒いカードを受け取り、改めて訓練場の内部に足を踏み入れた。そこは学校の訓練場よりも広く、中心の闘技場に匹敵するほどの広さだった。内部は九つのエリアに区分けされており、現在は四つのエリアで誰かが訓練を行っていた。


「で?君がそんなに高位訓練場に来たかった理由は何?」

心紋は観客席に腰を下ろし、安藤の実験を見物する気満々だった。


「えっと、ただの実験、ただの実験だから……」

安藤は肩をすくめ、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。彼はもともと人の好意を素直に受け取るのが苦手な性格で、今日一日で心紋がいろいろと便宜を図ってくれたことに、どうお返しすればいいのか分からなかった。


「彼女、補助系統に雷を選んでいるんだよな……。後で何か雷系の魔法をプレゼントしようかな。」

そんな発想に至るのは安藤くらいのものだ。彼の頭の中では、自分で魔法を作り出すことが、まるでゲームで新しいアイテムを開発するかのように軽い感覚だった。


「じゃあ、始めるね。」

振り返りながら、安藤は笑顔で心紋に告げた。心紋はドリンクを手にしながら、観客席で軽く拍手を送った。


安藤は雑念を払い、集中モードに入った。今日ここに来た目的は、音爆魔法の実験が成功するかどうか確かめることだ。


「まずは風刃の速度をどこまで上げられるか試してみよう。」

「風鳴——利刃!」


安藤が詠唱を始めた瞬間、観客席の心紋は眉をひそめた。

彼女は気づいていた——安藤が放つ魔法の威力は、毎回普通の魔法使いよりも明らかに高い。自分自身も含めて。


洞窟で魔狼を仕留めたときのことをはっきり覚えている。同時に爆裂炎柱を放ったはずなのに、明らかに安藤の炎柱の方が太く、威力も強かった。

今回の風刃も同様だった。彼女はこれまで何度も風刃の魔法を目にしてきたが、ここまで大きな魔素の波動を伴うものは初めてだった。


「こいつ……」


どうやってこんなことが可能なんだろう?心紋は以前、古文による詠唱法を試した際に威力が上がったことを思い出したが、今では彼も中位魔法の多くを短時間で詠唱なしに発動できるようになっていた。それでも安藤の魔法の威力は異常だった。


「加速、もっと加速……」


風刃は四つの疾風が渦を巻きながら前方に進む魔法で、刃は進行中に触れた障害物を切り裂く。


訓練場には標的の人形が設置されていたが、今回安藤はそれを狙うことなく、風刃を空中に放ち、数十メートル進んだところで消失してしまった。

最初の試みは失敗に終わった。


心紋は安藤が何をしようとしているのか理解できなかった。ただ、彼が真剣に考え込んでいる様子を見て、邪魔しないよう静かに座っていた。


「魔素が足りないのか?音速を超えるには速度が全然足りない。それに空気抵抗が大きすぎる……」

「じゃあ、抵抗を減らす方法を考えればいい!」


アイデアを掴むと、安藤は再び挑戦を始めた。四つの風刃で構成されている魔法を二つに減らし、渦を巻く飛行を直線飛行に変更することで、無駄な魔素消費を抑えた。


そして、七度目の試行で、安藤は速度の極限を突破する鍵を掴んだ。

風刃が放たれ、疾風の唸り声の中に、突然「パチン、パチン」という断続的な爆発音が混じり始めた。


「きたぞ!」


「心紋!耳を塞いで!」

安藤は彼女に向かって叫んだ。観客席には防護設備が備わっていたが、万が一を心配したのだろう。


心紋は一瞬緊張した。

「これは高位訓練場よ。この人、本気で何かやらかすつもりじゃ……」


彼女の脳裏に、以前中位訓練場の天井を突き破った出来事がよぎった。この男がそう言うからには、何かが起きるのは間違いない。


心紋はすぐに観客席から離れ、出口付近の安全そうな場所に移動し、安藤の指示通り耳を塞いだ。

「ふぅ……」

安藤自身も少し緊張していた。距離を保ちながら防御を整えないと、自分が最初に被害を受けてしまうのは間違いない。


「柔水盾!」

安藤はまず一層の水盾を張った。しかし、それだけでは不安だったため、さらに二層、三層と追加し、水の膜が視界をほとんど遮るほどの防御を整えた。これでようやく安心できた。


「風鳴——利刃——疾!」


巨大な気旋が安藤の魔素を猛烈に吸い上げていく。今回は通常の魔法の2倍以上の魔素を法陣に注ぎ込んでいた。


風刃は視界の限界を超える速度で放たれ、標的の人形へと一直線に向かった。その瞬間、安藤は風刃の尾部に一瞬だけ現れた円形の白い霧を目撃した。


その直後、防護シールドが激しく震え始めた。遠くから見守っていた心紋は、防護シールドの表面にひびが広がっていくのを目にして、驚きのあまり口を開けたまま固まってしまった。その衝撃で下顎が外れそうだった。


衝撃波は安藤が張っていた三層の水盾をも無視して、彼を地面に吹き飛ばした。幸い、水盾が爆音の大部分を吸収してくれたおかげで、致命的なダメージは避けられた。安藤は灰まみれになりながらも立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。


「成功だ!成功したぞ!はははは!」


標的の人形は粉々になり、跡形もなくなっていた。


心紋は慌てて訓練場の中央に駆け寄り、辺り一面の惨状を見て言葉を失った。

「これが……風刃?」


「そう、風刃だよ。」

安藤は何の悪びれもなく答えた。


心紋は防護シールドのひびを指でなぞりながら、再び尋ねた。

「本当にこれが風刃なの?」


「本当だって。」


ここは高位訓練場だ。中位とは比べ物にならない強度を誇る施設であり、防護シールドが簡単に損傷するはずがない。

風刃は中位魔法の一つであり、心紋自身も詠唱を用いれば放つことができる。ただし、天賦の才能がないため威力は平凡なものだった。


しかし、安藤も火系を主修とし、水系を副修としているだけの身だ。風系魔法を試してここまでの威力を発揮するとは一体どういうことなのか?


心紋は、この男がつい最近中位に進んだばかりだということをすっかり忘れてしまっていた。


「覚えたい?」

安藤は頭をかきながら言った。今日の訓練場使用料やカードの手配をしてくれた心紋への感謝の気持ちから、この魔法を教えてもいいと思っていた。


しかし、心紋は首を横に振った。

「私の天賦は風系には向いてないわ。教わったところで使いこなせない。でも、あなたはどうして風系魔法までこんなに扱えるの?あなたって、いったい何系の魔法使いなの?」


心紋自身、風刃を放つには詠唱が必要だが、安藤は詠唱なしで発動している。


「えっと、その……」

安藤が言葉を濁していると、心紋の視線が徐々に鋭くなり、訓練場内の記録装置に目を向けた。


「ここではまずいわ。別の場所で話しましょう。」

心紋は周囲を警戒しながら言った。彼女はこの場が監視されている可能性を懸念していた。


二人は湖のほとりまで移動し、人がいないことを確認した後、心紋は安藤に小声で尋ねた。

「あなたって三系統の天賦を持ってるの?テストの時、どんな結果だったの?」


彼女は目を大きく見開き、もし三系統の天賦があれば、普通なら最初から優等班に配属されていたはずだと思った。


「えっと……属性は測定されなかったよ。親和度は1級だったけど、今なら2級か3級くらいあるかもね。」

安藤は彼女に嘘をつくつもりはなかったが、真実の一部を伏せていた。


「無属性……?」

心紋は考え込んだ。そして、絶対に人類に存在しないはずの可能性が脳裏に浮かんだ。

「無属性の人なんてたくさんいるわ。街を歩いている普通の人たちも無属性だとみなされるわね。魔法使いの資質がないから。」

心紋はそう言いながらも、頭の中では別のことを考えていた。


あるいは、無属性の中でも、中位魔法使いに到達する人々もいる。だが、天賦が足りないため、高位魔法使いの領域には一生届かない。


けれども、安藤は違う。

優れた魔法の天賦、並外れた魔素量、強力な精神力、そして奇妙な魔法威力の増幅や独特のアイデア。

どれ一つ取っても、無属性の定義に当てはまらない。


安藤は心紋の目が変化していくのを見つめていた。驚愕、羨望、不安、恐怖、そして最後には一抹の嫉妬が浮かび上がっていた。


「あなた、このままだと死ぬわよ!」

心紋の声が震えた。安藤が無属性であるはずがない。これまでのすべての手がかりから導き出される結論は一つしかなかった。


それは無属性の反対——全属性!


泰倫星ではこれまで全属性の魔法使いは一人も現れたことがない。200年前の伝説的な魔法使い、彭格雷スですら例外ではなかった。


「玉を持つ者は罪を招く」という言葉が頭をよぎる。

もしこの事実が明るみに出れば、無数の家族が彼に手を差し伸べるだろう。だが、同時に、暗闇に潜む魔の手が徐々に彼を引きずり込むに違いない。


安藤は黙っていた。いずれこのことは誰かに知られるだろう。特に、幾度も戦いを共にしてきた心紋には。


彼もまた、彼女がこの事実にどう反応するのかを見極めたかった。

「君、これを家族に報告するつもり?僕を連れて行くつもりか?」


安藤は半歩後ろに下がり、彼女との距離を少し開けた。

その小さな仕草が、なぜか彼女の心を深く刺した。


「私は……」

心紋は言葉を詰まらせた。


李家の一員として、家族を繁栄させる義務がある。李家の一員である心紋は、安藤を家に連れて帰り、彼のすべての秘密を研究し、魔法の世界を大きく変える可能性を見出すべきだ。


そうすれば、李家への貢献は計り知れないものとなり、全属性魔法の奥義を手中に収めた心紋は、分家の地位を脱し、李家の家主となり、炎国の次代の火神として君臨するだろう。


しかし、それなのに……

なぜ胸がこんなにも痛むのか?


「君が買った通信器、家族に電話してみたら?ボタンを押すだけだから、簡単だよ。」

安藤は心紋に通信器を差し出した。


私は……いや、できない……

「教えてあげようか?」

彼の言葉が、どこか遠い記憶を呼び起こす。


「天才少女って呼ばれるにふさわしい人ね。」

「心紋……」


心の中に響く声は、どこか懐かしさを感じさせた。


家族、炎国、世界、権力、争い……そして安藤……。


「私は李家の人間よ!あなたなんかに負けるわけがない!」


彼女は突然立ち上がり、通信器を安藤の胸に押し付けると、くるりと踵を返して立ち去った。一度も振り返らなかった。


安藤は急いで数歩小走りで彼女に追いついた。二人の間に言葉はなかった。

けれども、何かしらの答えが互いの心に伝わったかのようだった。

言葉で語る必要などないこともある。


……


「奥様、この少年です。」

警備員が光幕を操作しながら言った。その隣には豪華な装いの貴婦人が立っていた。


「彼が?」

貴婦人の目が細められ、いくつかの噂を思い出しているようだった。

「彼の映像をすべて再生して。」


「はい!」

警備員は安藤が入場してからの映像をすべて取り出した。


「風鳴——利刃!」

貴婦人は映像を早送りさせることなく、黙々と少年が奇妙な試行を繰り返す様子を見ていた。


ちょうど退屈を感じ始め、映像を切り替えるよう指示しようとしたその時——


「風鳴——利刃——疾!」


映像の画面が一瞬ぼやけ、防護シールドの警報が鳴り響いた。

貴婦人はすっと座り直した。


「あれは何?」

「風刃ですか?」


「巻き戻して。もう一度、スローで見せなさい。」


警備員は慌てて映像を巻き戻し、スローモードに切り替えた。

白い一筋の風刃が法陣から飛び出し、加速していく様子が映し出された。その尾部には、一瞬だけ白い円形の霧が発生していた。


その霧が生じた刹那、強烈な衝撃波が四方八方に広がり、少年は地面に転がりながらも立ち上がった。


「これは……一体何の魔法?」

法陣は明らかに一般的な風刃だった。貴婦人は長い年月を生きてきたが、中位魔法使いがこれほどの威力を持つ魔法を放つのを見たことがなかった。


たとえ自分がその場に立っても、防護シールドにひびを入れることなど不可能だ。


「調べなさい!彼の家系を、祖父の代からすべて調べ上げるのよ!」

「承知しました!」

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