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35.通信器


「あの、警官さん、話を聞いてください……」

安藤はすぐに保安員に連れられて女子寮から引き出されてしまった。

「ははは、通信器を持ってる?持ってないなら、私が一つあげるわ。」

心紋は上の階から顔を出し、長年の淑女としての修養のおかげで、壁を叩いて大笑いするのを何とか堪えていた。

「そんなお金どこにあるんだよ……」

安藤は首を振りながら答えた。この魔法世界の携帯電話が欲しいのは山々だが、一台数千銀元もする。銀元の価値は柔らかいパンと同じくらいで、彼が持っているのは学校の生活補助金のみで、毎日食事をするのが精一杯だったのだ。


心紋は部屋に戻り、服を着替えると、ぱたぱたと階段を駆け下りてきた。

「行くわよ!」

「え?どこに?」

まさか訓練場?安藤は一瞬、何が起こるのか理解できなかった。

「ふふ、美少女と一緒に街を散策するチャンスをあげるわ。」

「自分を美少女って言う人いる?」

「私!文句ある?」

「はいはい、あなたが最強です、最高です!」


心紋は彼を連れてキャンパスを出て、タクシーを捕まえ、街の中心部に向かった。

これは安藤にとって初めての、魯明市をじっくりと見る機会だった。高層ビルが立ち並び、地球と変わらないほどの近代的な風景が広がっていた。魔法車は浮遊しているため、地上の道路は歩行者が自由に行き交うことができた。


「ここに来るのは初めて?」

心紋は安藤の目が光っているのを見て、尋ねた。

「うん、初めて……」

色々な意味で初めてだった。

「うわ、あんなに大きな光のスクリーン、地球であれを作ろうとしたら大金がかかるよね……」


彼はビルの側面全体が光幕に変えられているのを見て、感心していた。その面積はサッカー場ほどもあるように感じられた。

空中庭園、ネオンで彩られたビル、高層の屋上で優雅にお茶を楽しむ光景など、安藤の視覚に新しい刺激をもたらしていた。


「ここは……本当の社会じゃないの。この偽りの繁栄に惑わされちゃダメよ。」

心紋はそっと言い、安藤の心に響いた。

「そうだね。」

野外での命がけの戦いを経験した後、この光景を見ると、ただ虚しさを感じるだけだった。


バーで酒に溺れる酔っ払いとダンサー、街角で物乞いをする乞食、ビルの屋上でゆったりとティータイムを楽しむ「上流階級」、そして生活のために忙しく働く普通の人々。

社会がどんなものかは、どこから見るかによって変わる。


「はい、運転手さん、ここで停めてください。残りは歩きます。」

心紋は言って、運転手がゆっくりと速度を落とし、降車ランプを点け、最寄りの駐車場に降りて停まった。


安藤と心紋は並んで街を歩き始め、安藤の心にあった憧れのフィルターが取れたため、街の風景が急に普通のものに見え始めた。


「僕たちはどこに向かってるの?専売店みたいなところ?」

安藤はこの辺りの商圏のことをよく知らなかった。通信器もさまざまなブランドがあるのだろうか?

「専売店?何それ?炎国の通信器は指定された場所でしか購入できないの。しかも、一人一台限定よ。」

「そんなに貴重なんだ……」

「別に大したことじゃないわ。これは国民のためを考えているのよ。国家が損失を出してまで販売しているのは、住民の生活を便利にするためなんだから。」


いくつかの大通りを抜け、両側の空が数百階建てのビルに遮られている。その上空も常に往来する車に覆われ、ここで長く暮らしている人々は、次第に圧迫感を感じることだろう。


「ほら、あそこよ。」

心紋が指さした先の角に、既に多くの人が列を作っていた。


彼女は直接行こうとしたが、安藤が一緒にいることを思い出し、黙って列の最後に並んだ。

二人は前の方から聞こえてくる会話を耳にした。


「身分証と銀元、ここに置いて。」

「えっと、4400銀元でいいんですよね?」

「違う、値上げしたのよ。今は4600。」

「え?いつ値上げしたんですか。お金が足りないんですけど、少しでも安くなりませんか……」

「お金がないなら次の方。仕事の邪魔しないで。」


安藤は眉をひそめたが、彼はこのスタッフが冷たいと思ったわけではなかった。価格が国家で管理されている以上、値下げの権限はないし、言っていることは業務上の処理として当然のことだった。

ただ、それでもなんとなく居心地が悪く感じた。


「心紋、炎国には貧しい人が多いの?」

「貧しい人?」

彼女は初めてその質問について考えたようで、無意識に周りを見渡した。

もしかすると、心紋が最初に思い浮かべたのは、いくつかの大きな家系を除くすべての人が「貧しい」という定義かもしれない。しかし、安藤の意図を完全に理解しているわけではなかった。


「何が貧しいと定義できるのかしら?彼みたいに通信器を買えないことが貧しいなら、橋の下で物乞いしている人はさらに貧しいわ。彼らと比べれば、この人はむしろ裕福なのかもしれないわね。」


安藤は黙った。この世界にはまだ進んだ思想がなく、金銭と実力がこの社会を動かす規則であるように感じられた。


しばらくして、二人の順番が来た。心紋は静かに言った。

「こんにちは。私たちは魔法学院の学生で、通信器を買いに来ました。」

「学院生か?身分証明をここに。学生割引で4400。」


心紋は五枚の大きな紙幣を差し出したが、その動きは安藤の優れた精神力で、周りの多くの視線を引き寄せたことが瞬時に分かった。

彼はあえて無意識を装いながら手元で小さな火を操り、魔法使いであることを示した。

そのおかげで周囲の視線は次第に消えていった。


「君は安藤だね?ここで識別をして。」


安藤は顔を近づけ、スタッフが出してきた小さな装置に手を置いた。

「指紋?」

「違う、これは体の魔法波動よ。人それぞれ波形が違うの。こんなことも知らないの?」


心紋が横から説明したが、彼は安藤が基本的な知識が欠けていることに気付いた。以前はただの田舎者だと思っていたが、今では彼の素性がさらに謎めいて見える。


「そうだった、思い出したよ……」

安藤は何かを隠そうとするかのように、話をはぐらかした。


通信器を受け取ると、まず最初に心紋と番号を交換した。この通信器は地球のスマートフォンほど高機能ではなく、短い棒状の装置で、横に回転ダイヤルがあり、数字を揃えて上部のボタンを押すと信号が送信される仕組みだった


安藤は手に入れた通信器をじっと見つめ、さっそく心紋と番号を交換した。この通信器は地球のスマートフォンほど高機能ではないが、短い棒状の形をしており、横にダイヤルがついていて、番号を揃えてボタンを押すと信号を送信できる仕組みだった。


「でも、これって無線通信なのかな?通信範囲はどのくらいなんだろう。衛星は存在しないみたいだから、どうやって何千キロも離れた相手に連絡するんだろう?」

安藤は通信器を手で回しながら、興味深そうに眺めていた。


「そんなに気に入ったの?早く言えばよかったのに。」

心紋は安藤が新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉しそうにしているのを見て、微笑んだ。


「いや、そんなことはない。ただ、どうしても仕組みが気になってしまってね。」

安藤は通信器の働きを地球の技術と比較する癖が抜けなかった。


「仕組み?魔素信号でメッセージを伝えるだけよ。詳しく言えば……あ、私もよくわからないわ。」

心紋は少し困った顔をしながら言った。「その辺りは天工学府で教えているわ。そこに行けばちゃんと学べるわよ。」


「天工学府か……前にルーシー先生もその名前を口にしていたっけ。」

安藤はその名前を記憶から引っ張り出した。


「そこって、卒業後に進む大学みたいな場所なの?」

安藤は研究生のような制度を想像していた。


「違うわよ。卒業後は基本的に働くの。軍隊に行ってもいいし、政府職員になるのも自由。ただ、天工学府は特別な才能を持った人しか入れないの。普通の人には無理ね。」

心紋は少し誇らしげに説明した。


「なるほど。」

安藤はこの世界の魔法使いに対する教育期間が短く、たった3年しかないことを理解した。


「じゃあ、もっと魔法を極めたいと思ったら、どうすればいいの?独学しかないの?」


「それは……」

心紋は言葉に詰まった。この質問には家族の秘密が関わってくる。安藤の真剣な表情を見て、心紋はしばらく考えた後、口を開いた。


「それは、大家族にしか知られていないわ。大家族には進修用のルートがあって、それを厳格に管理しているの。だからこそ、大家族が何代にもわたって栄え続けている理由の一つなのよ。」


安藤はその言葉に驚き、何かを悟ったような顔をした。普通の人々が上に行く道を塞ぐための仕組みがここにあったのだ。


「それで君は……」

彼は目の前の少女を見つめた。心紋も李家の人間だ。


心紋は頷き、答えた。

「卒業したら……私はたぶん雲中府に行くことになるわね。」

雲中府。炎国の首都で、浮遊鉱石によって空に浮かぶ都市だ。炎国の象徴的な存在であり、世界に誇るべき「空中の明珠」だった。


「大丈夫、そのときは僕が君に会いに行くよ!」

安藤は大きく笑いながら言った。その笑顔には、未来の険しい道のりを全く恐れない無邪気さがあった。


「ふふ、それは君が言ったことだからね。」

心紋も笑い返したが、その目にはどこか真剣さが宿っていた。


「絶対に。あと、この通信器の代金、ちゃんと返すからね!」

安藤は手に持った通信器を見ながら言った。数千銀元という金額の重みが手の中に感じられる。


「さて、学校に戻る?」

彼は時間を確認して、すでに夕方に近いことに気づいた。


「うーん……その前に、もう一か所連れて行きたい場所があるの。ここからそれほど遠くないわ。」


「どこに行くの?」

安藤は心紋がわざと秘密めかしているのに気づき、ますます興味を持った。


「行けばわかるわよ。」

心紋は微笑みながら答えた。

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