27.中階試験
安藤は教室に駆け込み、授業を待っていたが、授業の開始を待たずして驚きの知らせがもたらされた。
「みなさん、期末の大会は何らかの理由で中止され、代わりに野外訓練を行います。」
「ええっ?」
「おお!」
「ふーん。」
反応は人それぞれだった。安藤だけでなく、既にチームを組んでいた数人も、この知らせにがっかりしていた。長い間練習してきたのに、まさか大会が中止になるとは思ってもみなかったからだ。
「失望しないでください。訓練でもグループごとの得点制を採用します。皆さんのやるべきことは減らないどころか、むしろ増えるかもしれません。」
この言葉を聞いて、安藤は考え込んだ。
「野外訓練か……」
この話は前に韓田から聞いたことがあり、何となく嫌な予感がした。なぜなら、事故が起こりやすい要因が多すぎるからだ。
魔獣学の授業では、いわゆる「野外」とは大陸中央に位置する巨大な山脈を指し、炎国、サイビル、南方諸国の境界地帯に広がっていると教わった。
ルーメン城は炎国の最南端にあり、海辺の都市でもある。海と山に囲まれているため、野外訓練の目的地は自然と魔獣の住む山脈になるだろう。
だが、数百人の生徒をわずか数十人の教師で安全を見守れるのだろうか?
南部の山脈には魔狼や血を求める猟犬が多く、それぞれが低階魔法師と同等の力を持っているうえ、群れで行動するため、一度遭遇すれば10匹、20匹が一度に襲いかかることもある。
そして、教師が言ったように5人1組での行動となるなら、速度で競うことになりかねない。
「ふふ、皆さん、心配しないで。今回の試験の目的は、主に野外での生存能力を高めることであり、戦闘技術は二の次です。」
ルーシー先生は生徒たちの不安げな表情を見て満足そうに笑みを浮かべた。
「訓練のルートはすでに軍の方々に掃討してもらっており、わずかな魔獣に出くわすことはあるかもしれませんが、皆さんのチームで対処できる程度のものばかりです。」
ルーシー先生はそう言ったが、彼女の経験上、多くの生徒が魔獣を目の当たりにしたときの最初の反応は逃げ出すことであり、反撃する心などなかなか湧かないものだ。
たとえば、魔狼は発育した成体であれば、全長3メートル、高さ2メートルに達し、極めて攻撃的である。魔法の力で分けるなら確かに低階に属するが、その身体強度は低階魔法師を圧倒するほどだ。
「先生、もし万が一のことが起こったらどうするんですか?」
「逃げることも試験の一環よ。」
ルーシー先生の微笑の中に、安藤は冷たさを感じ取った。彼女は本気だった。
すべてのチームには教師が同行するが、この情報は生徒たちに伝えられない。危機感を失わせてしまえば、訓練の効果が得られなくなるからだ。
「試験の総合目標は当日にお伝えしますが、例年通りであれば、魔獣を討伐するか、ルートに沿って何かを見つけ出すといった内容でしょう。」
ルーシー先生は過去の例を思い出し、今年も同様だろうと考えた。
彼女自身もこの決定には多少の疑念を抱いていた。学校が毎年恒例の大会を中止するなど極めて珍しいことだからだ。
さらに、全生徒が野外訓練に参加するという決定も、異例中の異例だった。野外訓練は学生の三年間で必ず経験する課題であるが、一年生が参加することはほとんどない。
現在、一年生のうち低階魔法の試験に合格しているのはわずか56%。この人数は多少増えるかもしれないが、それでも大した割合ではない。そんな生徒たちに魔狼や猟犬と戦わせるのは、無謀と言わざるを得ない。
「学校の目的は生徒を一時的に校内から離すことなのかもしれない……」
彼女は一つの可能性に気づいた。
ルーシー先生はその考えを胸にしまい、授業を再開した。
今回の授業内容は「タイレン史」だったが、安藤の思考は既に野外訓練に飛んでいた。
「物資の供給はどうするんだ?当日行って当日帰るわけじゃないなら、野外でキャンプして、火を起こし、食事を作る必要がある。こうした準備を怠ると、翌日には疲労で戦闘力が落ちるに違いない。」
そして、魔獣との戦いについてだが……正直なところ、安藤は自信がなかった。テレビ番組や図書館の本で魔獣について知識はあるものの、実際に血の滴る大きな口を開け、血の匂いを放つ魔狼が目の前に現れたら、逃げるという選択ができるだけでも意志が強いと言えるかもしれない。
学校での模擬戦と実戦はまったく別物だ。実戦は血を見ることになるのだから。今の生徒の多くは、鶏一羽さえも殺したことがない。そんな彼らに魔獣を討たせるなど無理がある。
「何かがおかしい……おかしすぎる。」
安藤は考えれば考えるほど疑念が膨らんだ。学校がどれほど準備をしても、野外活動のリスクは避けられない。特に低学年の生徒にとっては難易度が高すぎる。
彼は校内の競技場も確認したが、大会に向けて準備が進められていたはずだ。それが突然、計画変更されるとは……。
「学校は一体何を考えているんだ?」
安藤は眉をひそめた。もし生徒が事故に遭ったら、誰が責任を取るのか?校長ですら、職を失いかねないだろう。
「まぁ、深く考えても仕方ないか。自分ができるのは計画に従うことだけだ。」
彼はため息をつき、既に決定されたことなら、それに合わせるしかないと考えた。
「野外キャンプに必要な装備は学校が用意してくれるのかな?まさか自費じゃないよな。」
安藤は学校からの生活補助を思い出したが、それは食費で精一杯だった。装備を買うお金なんて、とてもじゃないが捻出できそうにない。
「安藤!何を考えているんだ?」
「えっ!」
突然名前を呼ばれ、安藤は全身を震わせた。まさかルーシー先生が彼の名を指名するとは思わなかった。
「どこまで話していたか分かるか?」
「えっと、その……」
ルーシー先生は近づき、安藤の教科書が目次のページで止まっているのを見て、すかさず手刀を彼の頭に落とした。
「ちゃんと聞きなさい!」
「はい……」
授業が終わると、安藤は急いで階級認定試験の会場へ向かった。すでに数人が列を作って待っていた。
安藤はその中に見知った顔をいくつか見つけたが、あまり良い関係ではない者もいた。南宮衛春は緊張した様子で右手を挙げ、7つの気旋が彼の周囲に整然と浮かんでいた。
安藤は少し興味を持って南宮の様子をうかがった。「優等生の連中もテストを受けてるんだな……」
彼は少し首を伸ばして観察した。南宮は最初の2つの中階魔法を順調に放ったが、3つ目の魔法の途中で失敗してしまった。
「緊張しなくていい、まだ時間はあるから。落ち着いて。」
試験官の先生が彼に優しく声をかけた。南宮には十分な実力があるが、テスト中の緊張が足を引っ張っているようだった。
「ありがとうございます、先生……」
南宮は再び集中しようとしたが、魔素の集まりが最終段階で乱れてしまい、魔法が崩れてしまう。
「うーん、惜しいな。来週もう少し練習してくれば、きっと合格できるよ。」
先生はタイマーがゼロになったのを確認し、残念そうに不合格の記録をつけた。
「来週は少しリラックスして挑むんだよ。魔法師にとって自信は何よりも大事だからね。」
「はい……ありがとうございます。」
南宮衛春は悔しそうに肩を落としながら部屋を出て行った。明らかに心が乱れている様子だったが、彼は並んでいる安藤に気づくことなく通り過ぎて行った。
「来週が野外訓練だから、そのことも頭を悩ませてるんだろうな……」
安藤は彼の後ろ姿を見送り、野外訓練の前に中階魔法を認定してもらいたい気持ちが、南宮にとって大きなプレッシャーになっていることを察した。
その後も低階の試験を受ける生徒たちが続き、合格する者もいれば失敗する者もいた。試験は1人あたり2分以内で行われ、すぐに安藤の番がやって来た。
試験官の先生が安藤のバッジを受け取り、データを読み込みながら質問した。
「君は1年生の劣等生クラス、安藤くんだね?今回は低階のテストを受けるのかな?」
「先生、ちょっと質問してもいいですか?」
「なんだい?」
試験はまだ始まっていないため、質問は許される。
「中階の試験を受けさせてもらうことはできますか?」
「中階だって?」
先生は驚きながら少し考え込み、顎に手をやった。
「前例はないが、そうだな……まず低階の基準を満たしてもらって、それに合格したら中階に進むことにしようか。」
「ありがとうございます。」
安藤は別に見栄を張ろうとしているわけではなかった。単に今は授業の合間の時間で、後ろに並んでいる人も増えてきたので、また待たされるのが嫌だったのだ。
「火球術!」
「水球術!」
「岩爆!」
3つの魔法を安藤は10秒もかけずに次々と正確に放ち、テスト用の的に当てた。
「おお、なかなかの腕前だね。」
先生は感心しながらデータを確認し、的から送られてきた数値を見た。
「威力も基準を超えている。低階試験は合格だ。では、中階試験を始めようか。」
先生はデータを入力し、低階の成績を記録した。
安藤は少し息を整えた。エネルギータンクの魔素は使い切っていたため、次からは自身の魔素だけで挑むことになる。
「炎能爆発!」
煩雑な詠唱を省略し、精神力を直接制御することで、3つの気旋が正確に魔法陣のコアに収まり、体内の豊かな魔素が噴き出した。
安藤の全身が炎に包まれたかのように輝き、肌の細胞から魔素があふれ出して体質を強化した。
「素晴らしい。中階魔法、炎能爆発も合格だ。次へ進んでいいぞ。」
「ふう……」
安藤は深呼吸し、次に爆裂炎柱と烈火盾を立て続けに発動した。
試験の全過程を30秒以内でこなし、中階試験も無事にクリアした。
「合格だ。これで君も中階魔法師だ。バッジを取りに来なさい。」
安藤は自分の体の状態を確認しながら場を離れた。連続して3つの中階魔法を放っても、体に空虚さを感じることがなく、むしろ余裕さえ感じた。
「先生、もう1つ質問がありますが……」
「何かな?」
先生は次の生徒を案内しようとしていたが、安藤がまだ立ち去らないのを見て振り返った。
「高階のテストも受けさせてもらえますか?」
「……」
先生は驚きの表情で、しばらく安藤を見つめていたが、その視線には「君、自分の限界わかってるのか?」という疑問が浮かんでいた。
「安藤くん、高階はさすがに無理だろう。私も中階の魔法師だからテストできないし、君の今の体調も万全じゃない。しっかり準備してからまた来なさい。」
先生は額の汗をぬぐいながら苦笑した。安藤のやる気には感心するが、さすがに高階テストをこの場で受けたいというのはやりすぎだ。
安藤は苦笑しながらうなずいた。実のところ、3つの高階魔法を連続で放てるかは確信が持てなかったが、限界を試してみたかっただけだった。
高階魔法の知識は頭に入れてあるが、実践の機会がまだなかったのだ。劣等生クラスでは高階魔法の練習場を使えるチャンスがなく、練習するには心紋が連れて行ってくれるのを待つしかなかった。
前回の戦いで魯川婷子が見せた強力な渦は彼に強い印象を残した。飛行術を持たない者があの渦に巻き込まれたら、完全に無力化されるに違いない。
「そういえば、自分はもう高階の門に片足を踏み入れてるのかもしれない。となると、山階もそう遠くはないはず……」
それでも、心紋はまだ自分の身体の状態を心配してくれている。彼女のペースなら、1年が終わる前に山階に進むのは確実だろうに。
テスト室を出ると、外で待っている生徒たちが驚きと羨望のまなざしを安藤に向けていた。
「あれが劣等生クラスの生徒か?」
「そう。一年生の劣等生クラスから天才が現れたんだって。さっきのテスト結果を見れば分かるだろう。」
「まじかよ……俺、一学年上なのに今日中階のテストに来たんだぜ。恥ずかしすぎる……」
「こんなやつがどうして劣等生クラスにいるんだ?学校が何か勘違いしたんじゃないか?」
安藤は周囲の噂話に耳を傾けながら、思わず足早にその場を立ち去った。どうやら学校で少し有名になってしまったようだ。
恐らく、以前の種子チームとの戦いが注目を集めたのだろう。ため息をつき、彼は人前で目立つのが好きではないと改めて実感した。人間関係が複雑化すると、対応が難しくなることが多いからだ。
「出る杭は打たれるってやつか……馬鹿なふりをして生き残る術を身につける方が良さそうだな。」
それが、安藤がこれまで生き延びてきた方法だった。
彼は心紋のことを考えた。彼女は生まれたときから期待、敵対勢力の陰謀、教師や同級生からの羨望と嫉妬に囲まれて生きてきた。彼女は疲れないのだろうか?
「俺ならもう嫌になるな……」
人前に出るだけで注目され、外での一挙手一投足にも注意が必要だ。下手に話せば言葉を断片的に切り取られ、攻撃材料にされることもある。
安藤はさらに足を速めて寮へと向かい、余計な注目を避けることにした。
「おかえり?」
寮に戻ると、林がベッドに横になり、のんびりとした様子で声をかけてきた。
「最近、ちょっとだらけてるんじゃないか?」
安藤は眉をひそめた。外出時に彼がベッドにいるのはともかく、帰ってきたときにもまだ寝ているのはさすがに気になった。
「なんでだろう、最近、やけに眠くてさ……」
林はそう言いながら大きなあくびをし、目をこすった。
「おい、まだ10時にもなってないぞ。」
「しょうがないだろ、体内時計は時計を見てくれないんだ。」
安藤は仕方なくため息をつき、身の回りを整えると、ベッドに腰掛けて今日の冥想を始めた。




