19.優等生の悩み
「心紋、何ボーッと見てるんだよ。君、スパーリングパートナーなんだからね。」
安藤は今日も見学している心紋を見て、少し退屈そうにしている様子を指摘した。
「どうやってスパーリングするの?私がダミー役になるの?」
「いやいや、格闘スキルでも磨こうよ。今日は君が最終的に試合を終わらせたって言ってたじゃん。何か感想とかアドバイスを話してあげたら?」
安藤はまるで道端で話を持ちかける仲介人のようだった。
「特に言うことなんてないわよ。相手はみんな適当にやってただけだし。明日君たちが試合に出るときも、あまり緊張しないでね。対戦相手はポイント順で決まるから、君たちと対戦するのは絶対に新米だよ。」
「注意すべき点は、魔素の配分を考えることね。一気に魔法を全部ぶっ放すのは勢いはいいけど、実際のダメージはゼロに等しいから。」
「はい、李先生からの貴重なアドバイスに感謝!みんな、拍手!」
「うるさいわね!」
帰り道、安藤は心紋に尋ねた。
「毎日こんなふうにこっちに来てて大丈夫?来過ぎじゃない?」
心紋は首を振りながら答えた。
「君、私の同級生たちが夜になると何してるか知ってる?飲んだり遊んだり、女の子を探しに出かけたり、魔法を真剣に研究している人なんて一人もいないのよ。だから、夜に会う心配はまったくないわ。」
「なんか、君、クラスメイトに不満がありそうだね。」
「当たり前でしょ……」
心紋は鼻で軽く笑いながら答えた。
「いつも余計なことばかりして、授業中は騒ぎを起こして授業の進行を邪魔するし、先生も何も言えない。叱ることもできないし、教えるのにもビクビクしてる。優秀な生徒には出席率が求められてなければ、私は毎日図書館にいたいくらい。」
クラスメイトへの不満を話し出すと、心紋の話は止まらなかったが、安藤はただ微笑みながら聞いていた。
「でも君の寮、あっちじゃない?ここまで来て一緒に帰るなんて遠くない?」
二人は優等生エリアの生活区に近づいていた。
「今日は君が元気がなさそうだったから、少し話し相手になってあげたのよ。」
「……」
心紋の心が一瞬ドキッとした。
「そんなこともわかるの?」
「もちろんわかるさ。それに、気分が悪いときはどこかで発散しないと、たまると体にも悪いよ。」
「発散するのは簡単よ。明日の試合で相手を思いっきり叩きのめすだけ。」
彼女は拳を握りしめ、楽しそうな表情を浮かべた。その様子を見て、安藤は思わず身震いした。
「明日、君たちと当たらないことを祈るよ。」
「ふふ、できれば堂々と君を叩きのめしてみたいものね。」
「ちょっと、僕も君の“半分先生”みたいなものじゃないか。」
「たった半分だから、関係ないわ。」
さらに少し進み、安藤は心紋を寮まで送り届けると、一人でその場を後にした。彼の劣等生の立場が近くにいすぎると、彼女にも迷惑をかけるかもしれないからだ。
「おやおや、我らが努力家の班長が帰ってきたぞ。」
「班長、お疲れさま!」
「班長、かっこいい!」
どうやら彼らは今日の勝利を祝っていたようだった。
「班長も一杯飲んでいきなよ。」
一人がビール缶を差し出したが、心紋は丁寧に断った。
「私はお酒は飲まないの。ごめんなさい、先に休むわ。」
彼女はまっすぐに廊下を進み、自分の寮の部屋へ向かった。
「時田清志Tokita Kiyoshi、君、彼女にも手を出すつもりか?」
近くにいた南宮衛春はその行動に驚いていた。
時田は下品に笑いながら言った。
「何がだ?天才少女もベッドの上では同じさ、へへへ。」
ドアを閉めると、安藤と話している間に癒されていた心紋の怒りが再びこみ上げてきた。
「この出世も見込めない豚どもが……」
「私を酔わせようとでも?」
心紋は、先ほど差し出されたビールに問題があることを鋭く感じ取っていた。他の人のビールは箱から取り出したものだったが、彼女に差し出されたものはカウンターから取られたものだった。それはしばらく前からそこに置かれていたものに違いない。
しかし、それをはっきりと言うことはできなかった。あの下品な男は市長の親戚であり、仮に告発しても何も起こらないだろう。なぜなら、彼はまだ何もしていなかったからだ。
「バン!」壁に拳を叩きつけ、心紋は怒りを抑え込んだ。
彼女は幼少期から心火を持ち、その性格には一抹の炎が宿っていた。
「安藤……」
なぜか、彼と一緒にいると、心が穏やかになる。この騒がしい世界で、彼は一時的な平和をもたらしてくれる存在だった。
「ハクション!」
安藤が寮に戻ると、林の前で大きなくしゃみをした。
「ちょっと、君の鼻水が!」
林は自分の腕に水滴がついたのを感じて驚愕した。
「僕、今お風呂に入ったばかりなのに!」
「まぁ、兄弟だろ?」
「汚いな!」
安藤は林にティッシュで丁寧に拭いてあげたが、林はまだ何かブツブツと文句を言っていた。
「今日の調子はどう?」
「悪くないよ。チームで協力するのは達成感があるね。」
「戦闘は一瞬で変わることがある。指示が間に合わない時もあるから、そういうときは自分で場の状況を判断するんだ。」
安藤は林に言った。
「努力するよ。」
林も少し緊張していた。魔法師たちの熱血な戦いをたくさん見てきたが、いざ自分が出場するとなると心臓が止まらないほどドキドキしていた。
炎国はすでに100年以上も戦争を経験していないため、多くの人々は平和な環境に慣れてしまい、戦争の時代の残酷さを忘れてしまった。
現在の各種大会も本物の対戦ではなく、場外には厳重な安全対策が施され、降参すればすぐに教師が救助に駆けつける。
林の緊張は、この社会の縮図のようなものだった。
大量の魔法師たちは実戦経験がまったくなく、自分の快適な環境に閉じこもり、それを出ることができなくなっていた。
「リラックスして、負けたらまた練習して強くなればいいさ。これからもチャンスはたくさんあるよ。」
チームの初期の連携には時間がかかるものだと安藤は理解しており、2、3日の訓練でこの数人が経験豊富なベテランになるとは思っていなかった。
「明日の相手があまり強くないといいな……」
初戦での勝利は縁起のいいスタートだ。




