加護をなくした少女はやっと自由に泣いて笑える。
「明日から二・三日雨を降らせるから、その間に読む本とお菓子を買っておきましょう」お母様はそう言うとアンナと街に買い物に行った。
アンナはお母様と手をつないで街を歩くのが大好きだった。
翌日から、雨が降り出した。まだ子供の野菜や麦を慈しむような優しい雨。その翌日はまわりの山々の木々が大きく育ち水をたっぷり含むように・・・山のほうに黒雲が漂っていた。
雨が上がると綺麗に洗われた世界が広がっていた。
この国は豊穣をつかさどる王家をみなが尊敬している平和な国だった。
そして豊穣の王家の他に雨のレイナード家、太陽のサニダ家の二家門がこの国の豊かさを支えているが、この二家門の力は隠されている。
アンナの家は特命伯爵と封爵されていて、代々長女が雨を降らす能力を持ち、爵位を継いでいる。今の特命伯爵はアンナの母のキャサリンだ。
アンナの父親は外交官で仕事が忙しく留守が多い。だからお手紙をたくさん書いてくれた。そして帰って来るときはおみやげをたくさん買って来てくれる。
アンナは特に本が大好きだ。最近は外国語の本も買って来てくれる。それを辞書を引きながら読むのは大変だけど楽しい。
アンナの世界は大好きなお父様と大好きなお母様。大好きな家と大好きな本箱と大好きな物で満ちていた。
最近の心配はお母様の体調が悪いことだ。どうしても雨が振ってしまってそれを止めるのが大変なのだ。
キャサリンはこの時期の雨はまずいと雨を止めようとするが、どうしても振ってしまう。王家やサニダ家に問合せをしているが、返事が来ない。
キャサリンは幼いながら力を持つアンナの助けを借りて、なんとかこの時期を乗り越えたが、体は限界を超えてしまった。
キャサリンはとうとう起き上がれなくなった。アンナの首に代々伝わっているペンダントをかけて
「アンナ、いつも穏やかにすごしてね。いつも笑って。このペンダントがそれを助けてくれるけど、一番大切なのはアンナの気持ちよ。全てを愛してね」と言った。
それからキャサリンは少し眠った。外は雨が続いている。
「お母様、もう頑張らなくていいのよ。わたしがやるから」とアンナは言うとペンダントを握り締めた。
段々、雨は小止みになった。雨が上がると虹が出た。
「お母様、見て雨があがったわ。虹が出た」と話しかけるとキャサリンは目を開けて外を見て微笑んだ。それからアンナを見て頬に手を当てた。それから目をつむった。
アンナは涙をこらえて
「お母様」と言った。キャサリンは目を開けてくれなかったけど、微笑みは消えなかった。
雨がまた降り始めた。
葬儀が終わるとお父様はすぐに仕事に戻った。アンナはペンダントを握り締めてそれを見送った。
それからアンナはお母様が作ってくれた教科書を読んだ。やるべきお仕事はすべてそれに書いてある。その通りにするのは完璧にできる。だが、お母様が、亡くなるまえに書いていた覚え書きが気になる。なにかがおかしい。
それでアンナはお天気と実りの関係や、この国と他国の違いを学ぼうと町の図書館に通っている。
そしてアンナの生活が大きく変わった。お母様が亡くなって二ヶ月ほどした時、女の子を連れた女性が現れて、自分がここの女主人となったと言ったのだ。
確かに執事のヘンリーに見せた手紙にはお父様の字で
「この女にまかせると書いてあった。
この女の名前はミラベル。連れてきた女の子はマリアン。アンナより三ヶ月先に生まれているが、自分のことをアンナの妹だと言い張った。姉でも妹でもどちでもいいが、マリアンとアンナの髪は同じ色、お父様と同じ色だった。
マリアンが
「お姉様は妹を大事にしないとね」と言うと
ミラベルが
「そうですよ。アンナさんは我が儘ですね」と言うのが常だった。
アンナが大事にしていた縫いぐるみも、お父様が外国から買って来てくれた万華鏡もあおぐといい匂いのする扇子もマリアンの物に・・・ドレスもマリアンの物になり、ついにお部屋もマリアンの物になった。
「困ったわね、この家には余分なお部屋がないわね・・・そうだ」とミラベルはわざとらしく手を叩くと庭の小屋を指差して、あそこはどう?静かよ」と言った。
アンナはペンダントを握り締めて我慢した。微笑みは無理だけど涙は流さなかった。
それから、アンナは執事のヘンリーが持って来てくれる食事を一人で食べる生活になったが、ペンダントを握ると寂しさを忘れられた。そこにお母様がいるようだったから・・・
ミランダが来てから、初めてのお父様からの手紙が届いたが、アンナ当てのものはなかった。ミランダ当てだけだった。
それからもお手紙は届いたけどアンナ当てのものはなかった。そのうちマリアンへの手紙が混じるようになったが、アンナ当てのものはなかった。
手紙がないと告げるとアンナが泣きそうになりながら、じっと耐えるのをミラベラはほくそ笑みながら見ていた。ミラベラはこの瞬間が好きだった。
キャサリンが死んで三年が過ぎた。その間お父様は一度も家に帰らなかったが、手紙がミラベルとマリアンに届く。たまに二人に贈り物が届く。たまに二人で出かけて、二・三日帰らなかった。
アンナはペンダントを握って耐えたが、そんな日は土砂降りになった。
やがて、王太子の婚約者候補が選ばれてアンナもその一人になった。これから二年、王宮に通って教育を受け王太子とも会って合格したものが婚約者となるのだ。
アンナは選ばれ、マリアンが選ばれなかったことでマリアンが小屋に来て暴れたが誰も止めに来なかった。
椅子の脚が折れてしまい、アンナは庭から石を拾って来て脚の下に置いた。
マリアンが暴れる間、アンナは無表情でじっとマリアンを見ていた。マリアンはふとその表情に気づくとあわてて出て行った。
「なに気持ち悪い」とつぶやきながら・・・
王宮へ行く日は迎えの馬車が来る。王宮に行くからと言ってドレスを用意することもない義母。執事のヘンリーが自腹で既製品のドレスを用意してくれた。アンナは感謝してそれを着ると馬車に乗った。
候補者候補は五人いた。
「ブラック侯爵の次女。ジェーンです。みなさんよろしく」と挨拶したのは黒髪に青い目の陽気な令嬢だった。
「サンダー侯爵の長女。マチルダと申します。よろしくお願いします」と言ったのは金髪に青い目の令嬢だった。
「チェイス伯爵の長女。タバサです」と挨拶した令嬢の髪に飾られているのは見事な金細工だった。
「ルブラン伯爵の三女。サリナです」と挨拶した令嬢のドレスのレースは見事だった。
「アンナ・レイナード特命伯爵です」と伏し目がちに挨拶した令嬢は異質だった。着ているのはどうも既製品のようだが、首にかけているペンダントの宝石は虹色が美しかった。大きさも色も見事だった。そしてなにより不思議なのが自身を特命伯爵だと名乗ったことだ。そこに侍従の声がした。
「自己紹介も済みました。今日は、初日ですのでお茶を楽しみましょう。王太子殿下も一緒です」と案内された時、息を飲んだ者もいたが、全員がにこやかにうなずいた。
案内された部屋は小さな部屋で用意された席は七つだった。椅子に腰掛けながらどなたが来るのかしらとみな、疑問に思ったが口にださずに口元に笑みを浮かべて座っていた。
そこににぎやかな笑い声が聞こえたと思ったら、ドアが開いて王太子と王女が入って来た。
「そのまま、立ち上がらないで」と王太子は部屋に入りながら言った。
「うふふ、お堅いのは、なしね」と王女も言った。
王太子はテリウス・ハーベスタと言う。王女は妹のエリーザ。
二人とも実った小麦のような金髪に青空のような目をしている。
エリーザが太陽のように笑いながら、
「みなさん、名前を教えてくださいな」と言ったところからお茶会が始まった。
アンナ以外の令嬢は学院で知り合っているし、貴族が開くお茶会でも親しい間柄のようだった。
アンナは学院に行かせて貰っていないし、お茶会にも行ったことがなかった。
「アンナさんは令嬢ではなくご自身が伯爵でらっしゃるのですね」とエリーザが尋ねると
「はい、わたくしが特命伯爵でございます」とアンナが答えると
「伯爵と特命伯爵はどう違うのでしょうか?」サリナ・ルブラン伯爵令嬢が聞いた。
「わたくしも存じません。ただそのように受け継いだだけです」とアンナは静かに答えた。
「お兄様は王太子としてご存知ですか?」とエリーザがテリウスの尋ねると
「わたしも知らないな」と、テリウスが答えた。それからちょっと考えると
「レイナードと言う家名だと外交官のブライト・レイナードの令嬢になるのだろうか?」続けた。
「はい、わたくしの父でございます」と答えた時、テリウスの顔に蔑みの笑いが一瞬浮かんだ。すぐにそれは消えたが
「そうか、つい頼ってしまって忙しくさせておる。この前帰ってきたのは三ヶ月ほど前だったな。寂しくさせてすまない」とテリウスが言うとアンナはペンダントを握り締めた。
「さようですか?」とアンナが答えると
「そうだ。そうだった」とテリウスが答えると
「あぁなんだか知ってると思ったら、ブライトの・・・でもブライトは報告と相談で先週もお母様じゃない女王陛下と会っていたわ、家に戻らずに任地に戻ったのよ。わたくしちょうど会ったから挨拶したわ」とエリーザも言った。
「お土産の余りをたまにくれるのよ。子供の頃貰った万華鏡は今でも覗いてるわ。この髪飾りは先週貰ったの」とエリーザが笑うと座がより明るくなり、子供の頃の宝物が話題になったが、アンナは今、知ったばかりの事実に打ちのめされていた。
その様子を目にしたテリウスとエリーザの表情を見た令嬢たちは目配せしたが、宝物の話を続けた。
そうだったのか。ミラベルとマリアンが家を空けるのは父と会うためだったのか。父はアンナと会いたくなかったのだ。今更、このことで傷つかない。父は母を裏切っていたのだから・・・
アンナは母のキャサリンから折に触れて何度も聞かされていた。王家と特命伯爵家、レイナード家とサニダ家は同等である。礼儀上王家を上に置くが、役割面では同等で、お互いに尊敬して助け合ってこの国の豊かさを守っていると・・・いや、そうでないとこの国を守れないと・・・
だが、王太子殿下と王女殿下の態度は一体なんなのだろう。
初対面のわたしに対して敵意を持っている。何故だ?国を守る気がないのだろうか?
お父様のことはもう諦めている。お母様の最後の願いのように穏やかにするのは、もう限界だ・・・
楽しげに話す声を聞きながら、アンナの心は悲しさと悔しさで潰れそうだった。ペンダントを握って必死に耐えていた。
外はいつのまにか雨が降り出していたが、誰も気にしなかった。
雨に文句を言いながら、令嬢たちは馬車に乗り込んだ。雨は翌日まで降り続いた。
次に王宮へ婚約者教育で行った日、四人の令嬢は微妙にアンナを馬鹿にした。
雨に濡れてみすぼらしくなっていた前回と同じ服装を遠まわしに馬鹿にしたり、家族の話をしたり、どの令嬢も過保護で物を買い与えたがる親に悩んでいるようだった。
だが、なにを言ってもアンナは表情を変えず、時々ペンダントを握るだけだった。
その日の王宮の図書館を使う許可を貰ったアンナは図書館に向かった。
「ブライト、帰って来たの」とエリーザの声がした。ブライトってお父様?と思ったアンナは声の方へ向かった。
「ブライト、いつもありがとう」とエリーザがお父様に向かって甘えて笑っていた。
ふとお父様の目がエリーザの後ろにいるアンナをとらえた。お父様の目はしっかりとアンナを見た。その目線を見たエリーザはアンナを見て、にやりと笑うと
「ブライト、お茶しましょう」と言うと手を引っ張った。ブライトはアンナに軽く会釈をするとエリーザと去って行った。
お父様はわたしを見てもわからなかった。雷がなった。大粒の雨が振って来た。アンナは急いで馬車に向かった。
馬車のなかで自分に言った。
「あんな関係ない人のことで心を乱しちゃだめよ。それに服が濡れるわ」
雨が上がった。馬車を降りるとき
「雨が上がってよかったですね」と馭者が声をかけて来た。
「本当に・・・うふ・・・ありがとうおせわになったわ」とアンナは返事をした。
教育が始まって半年過ぎた頃、二人の令嬢が脱落した。ブラック侯爵令嬢ジェーンとルブラン伯爵令嬢サリナだ。
「どうして、あの二人が落ちたのでしょう。もっと落とすべき人がいますでしょうにねぇ」と二人は聞えよがしに話していたが、アンナは気にならなかった。考えてみたら、教育のある日は、お昼とおやつがでるのだ。
いつも空腹の自分には、暖かい食事ができるだけでありがたい。そう思えば悪口なんてなんでもない。アンナは王宮に来る日は心が穏やかだった。
「わたしたち、出かけるわ」「出かけてくるわ」と二人が出かけて行った。二人がいないと家は無人になる。前は執事のヘンリーがいたけど、解雇されてしまった。
アンナはお別れも言えなかった。ヘンリーがいなくなった日はペンダントを握り締めて耐えたが、雨が一晩中続いた。
そんな事情で二人が出かけると、家はアンナだけになった。厨房に行ってみるとりんごが一個あった。アンナはそれを四分の一食べた。明日、半分食べよう。明後日四分の一食べよう。その翌日は王宮に行くからお昼を食べられる。
アンナはそう思いながら、着ていく服にブラシをかけた。
翌日迎えの馬車に乗った。午前中の講義が長引いてお昼が待ち遠しかった。
お昼の食卓に付いて、ゆっくりアンナは味わって食事をした。
食後のお茶を飲んでいる時、庭でエリーザの笑い声がした。そして王太子が
「令嬢方、庭に出ませんか?気持ちいいですよ」と誘って来た。
「「一緒に行きましょう」」と腕を取られてアンナも庭に出た。
アンナがしぶしぶ庭に出ると、
「お姉さま」と呼びかける声がした。マチルダかタバサの妹が来たのだろうかと思っていたが
「お姉さま。知らんふりしないで」と知ってる声に呼びかけられて驚いた。
「マリアン。どうしてここへ?」
「あら、お父様に会いに来たのよ」とマリアンがすまして答える。
「お父様!」とアンナが表情をなくすとそれを見ていた一同がくすりと笑った。
「えぇ、ひと月ぶりです。お父様に会うのは。楽しみですわ」とマリアンがアンナの反応に気づかないふりをして答える。そしてアンナに一歩近づいて言った。
「お姉さま、そのペンダントを下さいな。そんな粗末な服には合いませんよ」と言いながら手を伸ばした。
アンナはその手をバシっと叩くと
「離れなさい。近寄らないで」と言った。
「あら、アンナ暴力はいけないわ」とマチルダが言うと
「怖いわね。暴力なんて」とタバサが全員を見ながら続けた。
「これは許せません。わたくしのものはすべてこの女が奪ったわ。でもこれはダメ」とアンナは言うと
「お姉さま、ひどいわ」とマリアンが大声を出し
「お父様ーーー」と遠くの人影を見て手を振った。
アンナもそちらを見てお父様とつぶやいた。
ブライトはミランダと並んで歩いて来ていたがマリアンに呼ばれて手を振った。
それから急いで歩いて来ると
「どうしたんだ、マリアン」と聞いた。
「その人が・・・」とマリアンはアンナを指さした。
「彼女がなにか?」とブライトはアンナに声をかけた。
「はっ?」とアンナは声を出した。ほんとにわたしのことがわからないんだ。
「その人、そのペンダント」とマリアンが言うとブライトはペンダントをじっと見ると
「君、それは娘のものだ。返し給え」と言った。
アンナは一歩二歩と後ろに下がった。ブライトは一歩二歩と前に出た。
雨がぽつぽつと落ち始めたが、止まった。
アンナはふっと笑うとペンダントを首から外した。そしてそれを石畳の上に落とすと勢いよく踏んづけた。
「なにをする」とブライトが息を飲んだ。誰かの悲鳴も聞こえた。それに混じって
「よくやった、アンナ」と声がした。
青い髪の美しい男性が嬉しそうにアンナを見ていた。
ブライトが
「アンナ?」とつぶやきアンナをじっと見た。
「アンナなのか?どうしてここにいる?」と近寄って来るのを青髪の男性がアンナの前に立つことで防いでくれた。
「アンナ。こいつらと話したいか?」と聞かれて、アンナは首を横に振ったが
「えっとあなたは?」と男性に聞いた。
「ぼくはね」と言いながら男性は二つに割れたペンダントを拾い上げた。
「このなかにいたんだ。四季を支配している。カトールだ」
「カトール様ですか」
「カトールと呼んで欲しい。アンナ」とカトールが懇願えるように言うので、アンナは
「カトール」とカトールを見上げて言った。
「ありがとう、アンナ」とカトールは端正な顔をほころばせて喜んだ。
「アンナ、今までどうしていたんだ?心配ばかりさせて」とブライトが近寄ろうとするのをカトールが睨みつけて止めている。
「そちらの女から聞けばいい」とアンナが言うと
「おかあさまのことをそちらの女と言うなんて」とタバサが言うとエリーザが
「本当ですね。本当に聞いた通りひどいわ」と言い周りもうなずいた。そこへ女王があらわれた。
みなは礼を取りアンナも取ろうとするとカトールが
「必要ない」と止めた。すぐにアンナは悟り
「そうですわね」と女王を真っ直ぐに見た。
まわりが
「無礼だ」と騒ぐ中、女王は手をあげてその声を押さえた。
「ポーラ。なんの用だ。謝罪したいなら百日後に会おう」とカトールは言うと手を振った。すると扉があらわれた。
カトールはにっこりと笑うと手を差し出した。アンナがその手をとると扉が開いた。
「待っておねがい話を」とポーラが言うと
「アンナ、聞かせてくれ」と言うブライトにアンナは目を向けた。その目から涙が溢れた。
はっとしたアンナが涙を抑えようとして、空を見た。雨が振りださない・・・
「我慢しなくていいんだ。アンナ。あなたの加護はなくなった。もう加護は呪いのようだったからね。泣いても怒ってもいいんだ」
「いいんですね。泣いても。怒っても。おなかがすいたと泣いても。その男が母を裏切ったことを罵っても」
「なんのことだ。アンナ。わたしはキャサリンを裏切っていない」とブライトが声を荒げると
「なるほどあなたは裏切りと感じないんですね・・・マリアン良かったわね」とアンナがマリアンに向かって言った。
「どうしてマリアンが出てくるんだ?」と不思議そうに言うブライトの傍らにミランダは立つと
「旦那様、わたくし怖いです」と言いながらアンナを睨んだ。
カトールはアンナに向かって
「しばらく、ゆっくり休もう」と言うとにこりと笑った。それからポーラに向かってこう言った。
「これからこの国に雨は降らない。太陽も出ない。暑くもなく、寒くもなく、風も吹かない」
それから二人は静かに歩むとなかに入った。静かに扉が閉まり扉が消えたが、二人がどこかの庭を歩いているのが見えた。カトールがこちらを向いて冷たく笑った。
このあといろいろなことがわかるが、すべてをカトールは
「そうか」で片付けた。