ver.2 作者の語り ❶明かされた恐怖
もうすぐ夏ですね。
少し早めですが、今回は「これしかネタがないのか」と言われるほど語り倒した、本当にあった作者の怖〜い話です。
夏といえば、林間学校を思い出す。
我々2年生は、見渡す限りの山に囲まれた辺境の地に放り込まれた。宿泊先は、特別な事情がない限り絶対に泊まらない民宿のような施設で、
「そんなにもケチりたいのか!」
「我々は山伏ではない!」
と生徒たちのヤジが飛んでいた。
部屋は男子5チーム、女子3チームに分かれ、一部屋に10人前後が収納された。私は廊下側に布団を敷き、マグロのように寝そべった。
それにしても、なぜ女子は恋バナが好きなのだろうか。しかもかなり際どい。私は終始半目で転がり、ベッドの話の時だけ1人で動揺しながら聞いていた。
消灯時刻から約2時間。ようやく我々は寝床についた。そこからしばらくはゴソゴソと物音がしていたが、やがて暗闇と静寂だけが残った。
私も少しずつ眠気が来て、本格的な睡眠に向かっていた。
その時!
「ぎゃあああ」
やたらとデカい猫の鳴き声が聞こえてきた。
声は低めで、空間の雰囲気も相まって、愛くるしさなど皆無であった。しかも1匹2匹ではない。少なくとも5匹ほど(あくまで肌感覚だが)異様な鳴き声を上げ続けていた。
木々に囲まれた完全な暗闇に響き渡る猫たちの異様な声。風が窓ガラスを揺らしていたこともあり、私は少しずつ恐怖を覚えていった。
そして「ぎゃあああああ」
と、一際大きく、恐ろしい叫び声が響き渡り、喧しさと恐怖で私は眠れなくなった。
しかし、本当の恐怖はここから始まった。
ゴソゴソと身体の向きを変えていると、廊下から誰かの歩く音が聴こえてきた。
教師の巡回だとすれば、明らかに時間がおかしい。消灯時刻はとうに過ぎている。
民宿の人か?
いや、それはない。
生徒か?
しかしこの部屋は全員揃っている。
わざわざこの時間に生徒が廊下を歩くか?
明らかにおかしかった。
先ほどの猫といい、この足音といい、異様な事態であった。
私はあまりの恐怖に、思わず隣に寝ていた友人を揺さぶったが、熟睡していて誰も起きない。
そうこうしているうちに、謎の足音はどんどん近づいてきた。
誰…?
誰が歩いてる? 人間なのは確かやけど…
どうしよう
皆寝てる
自分1人だけ起きているのがバレたら
目を開けた瞬間、異形が布団を覗き込んでいたら…
私は恐怖のドン底に陥った。
普段なら馬鹿馬鹿しい話だと笑い飛ばすところだが、まさか自分がこんな体験をしようとは…
私は布団を頭まで被り、ぎゅっと目を瞑った。
トン トン トン トン
足音が止まった。
私は、いっそのこと上を向いて目を瞑り、お化け顔負け、死んだような顔で寝たフリをしてやろうと決意した。
しかし、しばらくして足音はまたやってきた。
マズイ…これはかなりマズイ…
私は、それまでの人生で経験したことがないほどの冷や汗と動悸を覚えた。相変わらず走り続ける不気味な足音にうなされ目を瞑りながら体勢をコロコロ変えた。
その時、私はこの謎と恐怖に包まれた怪事件の鍵を握る、
ある重要なことに気がついた。
上を向くと、足音は止まり
横を向くと、足音が聞こえた。
つまり、廊下にいると思っていた敵が、床下にいる可能性が浮上したのだ。
私は確証を得る為、目を瞑りながら、横向けと仰向けを繰り返した。
そして、ついに私はこの怪事件の真相に至った。
私は自分に絶望した。
足音の状態が、床に反響した自分の鼓動だったからだ。