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ヴォルフラムが名前を呼ぶと、戸惑いながらもユスティーナは部屋の中へと入ってきた。


「すみません。盗み聞きするつもりでは無かったんですが……」


まるで花が萎れたように項垂れ、扉の前で立ち尽くすユスティーナの姿に、ヴォルフラムは苦笑する。そして手招きをした。


「こっちにおいで」


声を掛けると彼女は丁寧に扉を閉めて、遠慮がちに近付いてくる。


「え⁉︎あ、あのっヴォルフラム様⁉︎」


彼女が目の前に来た瞬間、腕を引いた。すると小柄で細身のユスティーナは簡単に蹌踉めきヴォルフラムの腕の中にすっぽりと収まる。そして自分の膝の上に横抱きに座らせた。


「盗み聞きなんて悪い子だね」


「すみません……」


息のかかる程の距離でそう囁くと、彼女は頬を染め俯いた。


ダメだ……可愛過ぎる……ー。


ユスティーナのそんな姿に、先程までの頭痛が嘘の様に、今度は可愛さで頭がクラクラしてきた。






「弟が失礼な事をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


「いや、僕も少し大人気なかったと反省はしているよ。ただ君の弟だろうが誰であれ、ユスティーナが奪われるのではないかと考えただけで、冷静ではいられなかった」


半分嘘で半分本当だ。後半の部分は本心だが、実の所反省は全くしていない。言い方はどうあれ、間違った事など言っていない。自分からユスティーナを奪おうとする人間は誰であろうが赦さない。


「……情けないよね」


苦笑しながらそう言うと、ユスティーナは目を見開く。そしてオズオズと自分の胸に顔を埋めて来た。まさかの事態にヴォルフラムは心臓が跳ねた。


「ユ、ユスティーナ?」


「情けなくなんてありません……寧ろその様に言って貰えて、私は幸せ者です」


「ユスティーナ……」



つい先程までロイドと話した時間は無駄以外のなにものでもなかったと思っていたが、こんなに愛らしく甘えてくる彼女を見る事が出来るなら、悪くはない。


「ねぇ、ユティ。僕とロイドの話、聞いていたんだろう?……平気なのかい」


「……」


「ユティ?」


急に黙り込むユスティーナに、やはりショックを受けているのだと感じた。腹違いの弟と血の繋がりがないと言う事は必然的に父とも血縁関係にないと言う事になる。余計に落ち込むに決まっている。


「あの……実は私、知っていたんです」


「は?」


意外な言葉にヴォルフラムは思わず間の抜けた声を出した。

そしてゆっくりと顔を上げたユスティーナは、困った様に笑った。




「母が亡くなる少し前に聞かされたんです。聞いた時は勿論驚きましたし、正直言って悲しくてショックでした。でも母は「家族は血の繋がりが全てじゃなくて、心の繋がりが大切なの」そう言いました。その言葉を聞いて、私はそれを信じました。今もそれは変わりません。だから、例え血が繋がっていなくても、父は私の父でありロイドは私の弟で、二人は私の家族です」


でも、血縁とか関係なく父の事は少し苦手ですけど……そう付け加えて彼女は笑った。


「父が何時かロイドに真実を話す事は分かっていました。でもロイドならきっと、これまでと変わらず私を姉として慕ってくれる筈だと信じていたのですが……。流石に少し驚いちゃいました」


「……ユスティーナはどうしたい?僕としては何があろうと君を手放すつもりは微塵も無い」


彼女の意見を聞きながら、直ぐにそれを否定をする自分に内心笑えた。我ながら余程、余裕がない様だ。


ユスティーナが彼を選ぶならその時は……ー。




「ヴォルフラム様。私を見くびらないで下さい。私は貴方と生きると決めたんです。これはこの先どんな事が起ころうと変わりません」


「ユスティーナ」


真っ直ぐに自分を見つめる瞳に見惚れてしまう。瞬間、彼女の内面に秘められた強さをヒシヒシと痛感した。先日といい、彼女には驚かされてばかりだ。少しでも彼女がロイドを選ぶ可能性を考えた自分が恥ずかしいとさえ思った。


「ロイドと話してみます」


その後ヴォルフラムとユスティーナは暫し雑談を愉しんだ。そして帰り際彼女はそう言って去って行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさか先に知ってたとは… や、ユスティーナ見てて飽きないわ(笑)
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