表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/63

50




『あれ、姉さん、何処か行くの?』


屋敷を出る直前、入れ違いで帰ってきた弟のロイドとすれ違ったが、ユスティーナは急いでいたので足を止める事なく一言だけ返した。


『ちょっと暫く出掛け来るから』


『は?暫く出掛けるって何処に……え、姉さん⁉︎』

 

困惑する弟の声を尻目にユスティーナは馬車に乗り込んだ。




と言った筈が馬車に揺られる事、既に十日余り……。


『遠い……』


村と聞いて多少の距離は覚悟したが、思った以上に遠かった……。


『ユスティーナ様、もう直ぐ村に到着する様です』


侍女のエルマはユスティーナが心配だと言って付いて来てくれた。一応護衛を兼ねた侍従等数人を連れているので平気ではあったが、正直エルマが来てくれて心強かった。


『ここが、ロジェ村』


着いたのは森に隣接した閑散とした小さな村だった。人の姿が全くない。ユスティーナは暫く村の中を見て回る。


『ユスティーナ様、何だか不気味ですね……』


『……誰か、いないのかしら』


エルマが身体を縮こませながら後ろから付いて来る。確かに不気味なくらいに静か過ぎる。人がいないのもおかしい。


『旅の方々でしょうか』


『⁉︎』


そんな時、一人の初老と思われる男に話しかけられた。



お茶のいい香りが部屋に漂う。老爺に案内され彼の家へと通された。


『どうぞ』


『ありがとうございます。あの、貴方は……』


『私はこの村の村長を務めております、ハドリーと申します。それでお嬢さん方は、この様な辺鄙な村に何の御用ですかな』


『ルネ様と仰る女性に会いに来ました』



その日はもう夕刻であった為、明日案内すると言われたユスティーナ達は、村長の家に泊めて貰える事になった。夕食をご馳走して貰い、床に入ると旅の疲れが出たのか、隣のエルマからは直ぐに寝息が聞こえてきた。だがユスティーナは中々寝付けずにいた。此処まで来てなんだが、今更ながらに不安になってきた。ヴォルフラムの事を知りたい、だがその反面知るのが怖いとも思う。


そう思ってしまうくらい私はもう、彼の事が……。全ての真実を知った時、彼を嫌いになってしまうかも知れない事が、怖い。どんな彼でも受け入れる事が出来る程、きっと私は強くない。事実がどうであろうと、どんな彼でも受け入れ赦し愛せるくらい、もっと強くなりたいのに……ー。



翌朝、まだ空が白む中、ユスティーナは目を覚ました。結局余り眠れなかった。だが頭は妙に冴えている。隣を見ると、エルマはまだぐっすりと眠っていた。起こさない様に静かに起き上がり部屋を出る。

家の中は物音一つしなく、隣の部屋の侍従等もハドリーもまだ眠っている様だ。


外の空気を吸おうとユスティーナは家を出た。朝の澄み切った冷たい空気に触れ、少し身体を震わすと、何となく森の方へと歩いて行った。


「……」


一人で森へ入るのは危険だと頭で分かりつつも、足は勝手に森の中へと踏み出す。何故か分からないが、行かなくちゃ、そう思ったからだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 流石に一人で森は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ