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「ユスティーナ、本当に久々だな。急に来なくなったから心配していた」
「すみません、少し用事がありまして……。それより、リックは風邪を引いてしまったんですね」
彼女の言葉にレナードは、一刻前の事を思い出す。レナードが何時も通り屋敷を訪ねると、リックの姿はなかった。シスターに聞いてみると昨夜から熱を出して寝込んでいると言われた。それなら用はないので帰るかと思うも、もしかしたら今日こそユスティーナが来るかもしれないと期待して少し待つ事にしたのだ。
「そうみたいだ。だが医師にも診せて薬も飲んだらしいし、心配は不要だろう」
「ふふ。レナード様は本当にリックを可愛がって下さってますね。ありがとうございます」
久々に見た彼女の笑みは花が綻ぶ様に愛らしい。思わず喉を鳴らしたレナードは暫し見入ってしまう。
「以前から少し気になっていた事があったんですけど、聞いても良いですか?」
「あぁ、何だ」
「レナード様はどうしてこんなに頻繁に此方にいらっしゃるんですか?やはりリックに剣術を教える為ですか?」
まるで何かを期待しているかの彼女の言葉にレナードの胸は高鳴る。少し上目遣いで甘えた様な表情、これは間違いないだろう。
「半分はそうだが、半分は違う」
「それは……」
レナードはベンチに置かれていたユスティーナの手に自分の手を重ねて、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「ユスティーナ、君に会いたいから来ている」
そう伝えると彼女は少し目を見開き、黙り込んでしまうが、優しく微笑んでくれた。その様子にレナードも自然と頬が緩む。
そしてユスティーナの笑みを見て確証を得た。今、彼女の気持ちは完全に自分に向いている。ユスティーナは、もはや自分のモノも同然だ。
「そう、なんですね」
「あぁ、それに正直に白状すれば、寧ろリックに剣術を教える事は君に会う為の口実であって、君に会いに来る事の方が目的で……」
「レナード様」
「?」
最後まで話終える前に珍しく彼女に言葉を遮られ、レナードは目を丸くした。
「もし、それが本当なら……もう此方にはお出でにならないで下さい」
「は……」
期待していた返答ではない予想外の言葉にレナードは呆気に取られた。
「な、何故だ⁉︎私は君に会いに、き、君だって私に」
頭が混乱して上手く言葉が出てこない。そんなレナードに対してユスティーナはとても冷静だった。
「では、逆に聞きますが、何故ですか?」
「は?何故、とは……」
「貴方はもう、私の婚約者じゃないのに」
無表情でそう言われ、頭が真っ白になっていく。彼女の顔に先程までの優しい笑みはもうない。レナードは放心状態になりながらユスティーナを見ているしか出来なかった。




