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「お前の弟、ユスティーナ嬢と頻繁に会っているらしいが止めなくて良いのか?今はヴォルフラムの婚約者だろう」
あれから三ヶ月が経った。レナードは足繁くあの屋敷に通い、ユスティーナに会っていると報告を受けている。
「どうして君がそんな事、知ってるの?」
呆れ顔でエドガルを見遣ると、彼は得意げに胸を張る。
「ヴォルフラムが最近元気が無かったから、お前の侍従を捕まえて吐かせたんだが、大変だったんだぞ。流石王太子の侍従だけあって、中々口を割らなくてな。だがこれも友人の為だと思い、頑張ったんだ!どうだ、友人思いだろう?」
「……」
彼の場合、冗談ではなく本気で話しているのだから、苦笑する他ない。それに情報を聞き出しただけで何をするでもなく、ただその事を報告されても正直困る。自己満足だろう……。
「全く、下らない詮索をしている暇があるなら、僕としてはもっと仕事を頑張って貰いたいんだけどね」
ヴォルフラムはそう言いながらエドガルの前の机の上に、追加の書類を積み上げてやる。それを見た彼の顔は見る見る嫌そうに引き攣った。
「……お、おい、流石に多過ぎないか」
文句を垂れるエドガルを無視して、ヴォルフラムはさっさと席に戻ると再び書簡に目を通していく。
あれからユスティーナと一度も顔を合わせていない。彼女の方は何度か話し合いをしよう考えた様で手紙を送って来たが、ヴォルフラムは適当な理由をつけて会う事を拒否していた。
「……情けない」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ」
彼女の事になると、無力で愚かなただの男に成り下がってしまう。本当に情けない。
◆◆◆
あれから四ヶ月が経つ。その内の三ヶ月の間ユスティーナとは数日に一度のペースで会っていた。ただこの一ヶ月忙しいのか彼女は屋敷に来なくなってしまった。
レナードはリックに剣術を教える為にあれからも毎日の様に屋敷に通っている。だがそれはあくまでも彼女に会う為の口実に過ぎない。
何時もレナードとリックが剣の稽古をしている間、彼女は優しい笑みを浮かべながらその様子を眺めていた。休憩時にはお茶や菓子を持ってきてくれて、談笑をしながら一緒にお茶をする。そんなユスティーナの様子にレナードは満足していた。大分彼女との距離が縮まった。兄のヴォルフラムとはまだ婚約をしたままの様だが、これなら解消されるのも時間の問題だろう。そして晴れて解消されたその後は……。
彼女は私が貰うー。
そうなれば堂々と人目を気にする事なく抱き締めたり触れたり、更には口付けだって出来る。無論正式に夫婦になればそれ以上の事も……。考えただけで身体が疼いてくる。彼女は火傷の痕を未だに気にしている様だが、世辞ではなくまるで気にならない。それよりも早くユスティーナを全身で感じたい。思わず顔がニヤけてしまう。
正直、始めは兄への復讐心が勝っていたが、彼女と過ごす様になり兄への復讐などどうでも良くなるくらい、気付けば彼女にのめり込んでいった。それと同時に今更ながらに激しく後悔をしている。何故もっと早くこうしていなかったのか、と。ユスティーナと婚約している時に、この気持ちに気付いていたら彼女を手放す事も、もしかしたらジュディットを死なせてしまう事も無かったかも知れない。
「レナード様」
そんな事を裏庭のベンチに座りボンヤリと考えていると、後ろから声を掛けられた。
「ユスティーナ」
「お久しぶりです」
彼女はそう言ってニッコリと笑うと、慣れた様子で自分の隣に座った。




